渋谷・道玄坂のO-EASTをメイン会場に、複数の会場を回遊するスタイルの〈SYNCHRONICITY〉。東京という街が抱えている時代感を表出するストリート・フェス。今年はフェスというリアルな場所からの発信はないものの、新しい時代の風をビジョンやアクションから感じさせてくれる。
文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 北村勇祐 photo = Yusuke Kitamura
菊地 毎年4月に開催されてきた〈SYNCHRONICITY〉。去年はギリギリまで開催に向けて粘っていたように感じていました。
麻生 当時はいろんな迷いや葛藤がありました。前の年の開催が終わってから、1年をかけて準備をしてきているんですね。開催目前のタイミングで関わっている人もたくさんいて、期待してくれている人もいる。ライブの中止が増えるなかで、ガイドラインもなく、コロナがどういうものかもはっきりとはわからない。これならできるのか、これは無理なのか。その判断の連続でした。
菊地 そしてクラウドファンディングを使って、無観客のオンラインフェスを開催することになりました。
麻生 〈SYNCHRONICITY〉って、もともとフェスをやりたいからという理由でスタートしたわけではないんです。僕自身が音楽をやっていて、周りの音楽を届ける答えのひとつがイベントで、それが徐々に大きくなったのが〈SYNCHRONICITY〉というフェスなんです。マインドの根底にあるのは、自分たちが感じる素晴らしい音楽を多くの人に届けること。そして開催を重ねながら、日本の音楽を海外に発信したい、新しいアーティストを知ってもらう場をつくりたいという思いが大きくなっていきました。コロナ以前からオンラインの可能性を感じていたこともあり、今できる形として、応援してくださる方と一緒にオンラインフェスを開催しました。去年はすべて中止になりましたが、3月には台湾での〈SYNCHRONICITY〉、4月にはコロナ以前からの試みとして一部のアーティストのライブをアジアへ向けてオンライン配信する予定でした。
菊地 7月の無観客でのオンラインフェス以降、新しいスタイルを模索しながら秋にも開催していきましたね。
麻生 フェスやライブというリアルな空間は、もっともエキサイティングな場で絶対に残っていくと思うし残していかなければなりません。一方でオンラインの可能性もすごく感じていて、10月から12月にかけて、今だからこそできる配信をメインにした有観客イベントにチャレンジしました。配信ではクオリティの高い映像を届け、会場では配信ライブを観覧するという形で特別な空間を体験していただきました。コロナ禍のなかでも新しいことにトライして、未来へつなげていきたいですから。
菊地 その配信のなかで2021年も4月に開催する予定だと言っていましたが、今年の展望は?
麻生 去年は9会場を予定していました。〈SYNCHRONICITY〉は、ひとつの会場にいるのではなくいくつもの会場を回遊するので、感染リスクがより高くなります。入場者数の制限や、会場数の削減、無観客など様々な可能性を模索しましたが、最終的には今年4月の開催は断念しました。昨年の中止を経て今年こそはと準備してきていたので、この悔しさは言葉になりません。
菊地 中止という判断をした今、次にどんなことを描いていますか。
麻生 人と人のつながりの大切さが、コロナ禍によってより浮かび上がってきたと思うんです。規模が大きくなっていくにつれて、目の前のことが疎かになってしまうことがあります。そうではなくて、いつも〈SYNCHRONICITY〉に来てくれる人たち、思いを寄せてくれる人たちとしっかり向き合ってこれからをつくっていきたいです。そうしてコロナを超えて、また新しい〈SYNCHRONICITY〉を目指したいです。
菊地 〈SYNCHRONICITY〉は、東京という街が持っている時代感も表出していたように感じています。
麻生 〈SYNCHRONICITY〉は都市にフォーカスして、世代やジャンルを超えた普遍的な音楽の素晴らしさを大切にしながら、次々と生まれる新しい世代の音楽をいち早く届けています。それが東京という街が持つ時代感を映しているのかもしれません。今年もフェスとしての〈SYNCHRONICITY〉ができないとしても、未来につなげられるような機会をしっかりつくっていきたいです。インディーというスタンスでやってきているフェスですけど、いつもパブリックでありたいと思っているんです。東京という街のなかでアートや音楽を気軽に触れ合えるような機会を〈SYNCHRONICITY〉でつくっていきたいんです。去年、そして今年の経験をしっかりと次に生かしていきたいと思っています。
SYNCHRONICITY/麻生 潤 2005年に代官山UNITで1回目を開催。08年に渋谷O-EASTに会場を移した。開催を重ねるごとに近くのライブハウスも巻き込みながら、複数の会場を自由に回遊するブロックフェスのようなスタイルに変遷。2020年3月には台湾での開催も予定されていたが、コロナ禍によって中止。今年も4月に予定されていたが開催中止が発表された。 https://synchronicity.tv/festival/
photo by Kana Tarumi
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