映像として残される日本の麻文化。【吉岡敏朗】

日本でも、身近な植物として育てられてきた大麻。その伝統は米よりも長いと言われている。消えようとしている日本の大麻文化を、今に、そして次世代に伝えるためのドキュメンタリー映画。


文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano  
写真 = 北村勇祐 photo = Yusuke Kitamura


ー 『麻てらす』をドキュメンタリー映画として撮ろうと思った理由を教えてください。

吉岡 端的に言えば、日本の麻の伝統や文化をお伝えしたいという思いです。


ー 撮影をスタートさせたのはいつ頃だったのでしょうか。

吉岡 前作の『つ・む・ぐ』はタイの綿を扱ったものでした。この映画で出会ったさとううさぶろうさんから、北海道で産業用大麻の栽培をスタートするという話を聞きまして、北海道の麻畑の撮影をしたのがはじまりです。 2013年のことです。撮影をしていくうちに、麻の素晴らしさを知っていったんですね。ぜひこれは残すべき伝統であると確信して、映画にしようと思ったんです。


ー そこから日本各地の麻の伝統に出会ったいったわけですね。

吉岡 呼ばれるんですね。どこかにいくと、あそこにも行け、誰々に会え、と。昭和23年に大麻取締法が施行されたんですけど、それまで大麻は日本各地でごく当たり前に植えて育てられていた。昭和23年ですから、もう70年前のことです。麻のことを記憶の奥底に残っている方は、80代か90代ということになります。その人たちの姿や声を記録として残しておかないと、大切な伝統が永遠に失われてしまう。そして撮影を進めていったんです。おばあちゃんにしても、麻を栽培し、製麻して糸よりしていたっていうことを家族にさえ伝えていない。ずっと封印されてきた。けれど、そうじゃないんです。日本では何千年にもわたって、麻を育て、服などいろんなものに利用してきた。長い歴史があるんです。


ー 土器の形を固定させたりするのも麻が使われていたと言われています。

吉岡 調べれば調べるほど、日本の伝統になくてはならない植物なんですね。神事にも使われていますし。

ー 麻の持つ力、エネルギーをどう感じていらっしゃいますか。

吉岡 地球のイズムじゃないかなと思います。多くの人は人間が生物のなかで一番偉いと思っている。僕は植物も人間も一緒で、もしかしたら植物のほうが偉いんじゃないかとさえ思っています。麻は植物のなかでもメッセージをもたらしてくれる、大変珍しい植物なんじゃないかと。だからこそ神事でも使われてきたんでしょう。神の依代って言い方をしている人もいますけど、科学では解き明かせないことです。昔の人はそれを肌で感じ、エネルギー性として麻のメッセージを受け取っていたんじゃないかなって思います。日本では何千年にもわたって暮らしの近くに麻が存在していたわけですから。


ー これだけ生活に即した存在なのは日本だけなのですか。

吉岡 外国でもいろいろな形で使われてきましたよ。ただ、これだけ深く生活、あるいは神という精神性にいたる部分にまで深く結びついているところはないでしょうね。麻でへその緒を結んでいました。そして死装束として麻に包まれる。生まれてから死ぬまで麻がある。日本では米も大切な植物ですけど、もしかしたら米以上にお世話になってきているのかもしれない。米は弥生ですけど、麻は縄文まで遡りますから。


ー 麻は日本に合っている植物だと。

吉岡 気候もそうですし、日本人の性格にも合っていると思います。日本人は工夫して道具にするのは非常に上手じゃないですか。農閑期には、そうやって自然のものをいただきながら道具を作ってきた。


ー アメリカでは産業用ヘンプの栽培が解禁されました。

吉岡 大量生産、大量消費の世の中の流れに、麻は合わなかったんでしょうね。アメリカやヨーロッパでは、これから産業用ヘンプが栽培されていくでしょう。けれどそれは日本の麻の文化とは違うものです。日本では、家の近くに植え、自分たちで育てて、自分たちの手で糸よりしていく。アメリカで自分の手で糸よりする人なんていませんよ。私たちはエネルギーを大量に使い、大量に生産して大量に消費するという社会をこの200年くらい続けてきています。そういう暮らしではなく、もう一度近くにある植物と一緒に暮らすような世の中になってほしいと思っています。『麻てらす』はそういう映画なんです。


ー ものを大切にすることも描かれているように思います。

吉岡 土と生命って切り離せないんじゃないかなって思っているんです。アメリカには土を大切にするという感覚は少ないかもしれない。だからこそ、農産物でも農薬を入れるとか肥料を入れるとかして、大量に作ろうとしている。植物とともに生きていく。それが日本の麻文化には刻まれてきたように感じています。麻の文化を伝えていかなければならないという思いは今も変わってはいません。だから2作目3作目を作るつもりで、すでに撮っています。『麻てらす〜よりひめ岩戸開き物語』は伝統を描いた。次の作品は現在、そして3作目は未来を描ければと思っています。


取材協力 = FORRESTER(中目黒)

『麻てらす~よりひめ 岩戸開き物語~』
日本人の精神性にも大きな影響を与えてきた大麻の文化性と、世界的にも注目を集める「衣・医・食・住・農・エネルギー」など、様々な分野にわたるその利用法に着目し、 大麻が次代を導き、可能性を“ てらす”役割を紹介するドキュメンタリー。2017年に完成したのが第一弾の今作。全国で上映会が続いている。https://asaterasu.com/staff.html
吉岡敏朗
大学で映画の監督法を学び、卒業後様々なジャンルの映画・映像制作を行い、作品本数は300を超える。高校の頃よりヨガを実践。また福岡正信との出会いを契機に自然農法の援農も行うなど映画作法の原点には自然の哲理が息づく。『飛龍山』でカルロビバリ映画祭優秀賞、ツール映画祭記者クラブ賞、『つ・む・ぐ~織人は風の道をゆく~』ではリッチモンド国際映画祭佳作を受賞。

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