ボニンアイランドのコーヒーを世界に発信する。【宮川雄介(USK Coffee)】

宮川雄介(USK Coffee)
亜熱帯に属する小笠原では古くからコーヒーの栽培が行われてきた。コーヒーに魅せられて移住。栽培、加工、焙煎、そしてカフェでの提供まで、コーヒーのすべてを手がける。どこにも、誰にも負けないコーヒーの自負。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 林 大輔 photo = Daisuke Hayashi


ー 小笠原では古くからコーヒーが栽培されていたのですか。

宮川 さかのぼれば、明治時代に日本で最初にコーヒーが入ってきたのが小笠原だと言われています。気候が亜熱帯なのでコーヒーが育つ。適地と呼ばれているコーヒーベルトからはちょっと外れているんですけど。


ー 宮川さんはコーヒーに導かれて小笠原に来た?

宮川 島に来る前は名古屋でコーヒーの焙煎の仕事をしていたんです。それで栽培したいって思うようになって。たまたま小笠原でもコーヒーを栽培していることを知って、じゃあ行こうと。20代前半の15年くらい前のことで、本当に軽いノリでしたね。


ー当時、島にはコーヒー農家さんはいらしたのですか。

宮川 2軒ありました。そこに雇ってくださいとお願いに行ったんですけど、結局ご縁がなくて。農家を回っていれば、そのうちコーヒーに近づくだろうと考えて。ふらっと寄ってみたら「ちょっと手伝えば」ってことになって、しばらくして使わせてもらえることになったんです。そこが今のうちの畑です。本当にラッキーでした。


ーそしてコーヒー豆の栽培をはじめるわけですね。

宮川 種から育てました。庭を持っているような家には庭木としてコーヒーがあるんです。だから種は簡単に手に入るんですよ。


ー今では加工や焙煎、そしてカフェでコーヒーを淹れる。

宮川 最初はコーヒーを作りたいっていう思いだけ。今もそうなんですけど、寝ても覚めてもコーヒーが頭から離れていかないんですよ。結局、好きなコーヒーが仕事になったというだけ。

ー今、特にこだわっている作業はあるのですか。

宮川 どれもこだわっていないんですよね。ほどよくっていうか。どの工程も自分にとっては楽しいんです。畑の草取りも楽しいですし、収穫も楽しいですし、収穫して乾燥させるために豆をかき混ぜているときも、ひたすら豆を見ながらひとりで没頭している感じです。焙煎も機械ではなく手回しで楽しいですし。


ーここ数年、コーヒーが注目を集めています。弟子にしてくださいというような人がやってくることはないのですか。

宮川 ちょっと前に女の子がひとり来ましたけど。ただ、栽培、加工、焙煎、提供まで全部やりたいっていう人はほとんどいないんですよ。特に日本人は、コーヒーの栽培は頭にないんじゃないですかね。僕も感覚でしかやっていないので、なかなか教えられないと思いますし。


ーその意味では、ある種職人さんのような感覚もある?

宮川 職人気取りではないけれど、そういうモチベーションを持ってやっていますね。職人、もしくはアーティスト。ひとりでやっているので、そのくらいの気持ちを持っていないと気持ちが落ちてきてしまうんです。


ーコーヒーの魅力ってなんだと思いますか。

宮川 難しい質問だな。それがまったくわからなくて。だからこそ今もやっているのかもしれないし。単純にコーヒーがおいしいってことがひとつにありますよね。僕はコーヒーが好きだし、コーヒーを飲むことも好きだし。豆を育てるということでは、自然と向き合うことでもあるので、奥が深いですしね。こだわらずにすべてに対してほどよくって言いましたけど、ついのめり込んじゃうんですよ。


ーカフェが定着してきたと思えるようになったのはいつ頃ですか。

宮川 定着してきたのは、ここ2年くらいじゃないですかね。カフェが定着したというよりも、自分たちがちゃんとランディングしたというか。いつもふわふわしているんです。そんな状態でも、コーヒーだけは作り続けている。そしてなぜか僕のコーヒーを「おいしい」と言ってくれる人がいる。


ーコーヒーに導かれているのかもしれないですね。

宮川 最近思うのは、うぬぼれに聞こえるかもしれないんですけど、コーヒーの才能があると思うんです。続けられることも才能のひとつじゃないですか。いろんな才能を持っている人がいると思うんですけど、僕が与えられた才能がコーヒーを作ることだったんだなって。これから、どんどんボニンアイランドのコーヒーはおいしくなっていくと思いますよ。種から育てた僕のコーヒーの収穫がはじまってまだ10年くらい。収穫がピークなのは20年ぐらいの木だと言われているんです。これから豆に味が乗ってきて、木が元気に豆を付けてくれると思います。


宮川雄介
コーヒーを栽培することを夢見て20代前半で小笠原に。運良く農地を貸してもらえることになり、コーヒーの栽培をスタートさせた。2011年4月にUSKCoffee カフェをオープン、栽培、加工、焙煎、ドリップというすべて自分の手によるコーヒーの提供をはじめた。カフェは土曜日曜とおがさわら丸入港日~出港日の11時から17時まで営業。1月に1回のペースでファーマーズマーケットも開催している。https://uskcoffee.com/

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