【CANDLE JUNEインタビュー】フェスを再構築する場としての「Beyond」

フジロックが開催される1週間前に、ピラミッドガーデンでフェスが開催される。このエリアを2010年からオーガナイズしてきたCANDLE JUNEが、フェスを再構築するためにスタートさせるフェスだ。福島や能登などでの数々の支援活動も「Beyond」にはつながっている。


–––– <フジロック>の1週間前に、<フジロック>のエリアのひとつであるピラミッドガーデンで、<PYRAMID GARDEN -Beyond the Festival->がはじめて単独開催されます。あえて、この時期に決めた思いから聞かせてください。

 2009年までフィールドオブヘブンでキャンドルを灯していて、2010年に新たなエリアとしてピラミッドガーデンをはじめているんですね。数年前から<フジロック>のために組み立て、フェスが終われば解体するようになって。1回の設営とバラシで、フェスを2回できないかと思って。それで<フジロック>の前週にしました。

–––– 確かに1回の週末のためだけの設営というのはもったいないと思う。

 ここ数年、小規模のフェスって難しいってよく言われているじゃないですか。採算が合わないから開催できない、と。一方でどんなアーティストをラインナップできるかということも多大に影響されるとも言われています。<フジロック>の日高(正博)さんに、「誰が出るから行くっていうのはフェスじゃない、コンサートだ」って言われたことがあるんです。その言葉がずっと残っていて。

–––– JUNEさんにとって、ピラミッドガーデンとはどんな場所ですか。

 <フジロック>のなかで言えば、圧倒的に他のステージの音が飛んでこないですし、ギターを弾いたときの調音の音まで聞こえる感じとか、虫の音とのコラボとか。繊細なところまでサポートできているエリアだっていう自負はあります。

–––– いつからか、ステージとしてもちゃんと認められるようになったというか。

 当初はタイムテーブルに載っていないライブがあったり、ある種のシークレットのような部分もありましたからね。続けていくうちに、見えない鎖というか束縛が発生してきてしまって。例えば、その場でしか起こらないサプライズ的なことができそうなのにやれないとか。

–––– フェスには遊びの部分や余白の部分が大切だと思っていて、<フジロック>に限らず、それが少なくなってきているように感じています。

 自分は90年代の野外パーティーあがりで、ぶっちゃけて言うとずっとヒッピーなんです。ヒッピーと聞くと「え?」と思われてしまうかもしれないけど、自分の考えるヒッピーは、古き良きものと新しいものを融合させ、常に挑戦して新しいものを生み出している人たちのことだと思っているんです。

–––– ヒッピーであり、カウンターであると。

 そのスタンスだったりメッセージなりが、本来はフェスの根本になきゃいけないっていうか。数多くのフェスが開催されるようになって、システムにはめられていけばいくほど、そうではなくなっているという歯痒さを、いろんなフェスで感じていたんですね。日本一と多くの人から認められている<フジロック>のなかでも、ピラミッドガーデンというエリアはそうありたいと思っていて。そういう部分でも、フェスをもう一度再構築したいという思いを、<Beyond the Festival>というネーミングにも込めて。

–––– それが<Beyond the Festival>、「超えて」というネーミングに現れているんですね。

 人数ではないところからはじめたいっていうか。アーティストのネームバリューなどに頼るのではなく、そこがどんな場所になるのか。どんな時間になるのか。出演するアーティストに対しても、<Beyond the Festival>でどういうライブができるのかっていうことを考えて欲しいし、それによって新しい出会いも生み出せるんじゃないかなって思っています。

–––– それが本来のフェスのあり方なんだと思います。

 いろんなフェスが開催され、それぞれが自分たちのフェスの特徴や魅力を発信している。じゃあ、自分のピラミッドガーデンは何なのかっていうことを、最近はずっと考えているんです。でも「何なのか」がないんですよね。逆にそのことをテーマにしたいなって思うようになってきたっていうか。言葉は悪いですけど、何かで釣ろうっていうことに対して、もの申したいっていう気持ちではじめているので。チケットを買ってきてくれる人たちに対しては特別なものでありたいのだけど、同時に出店している人たちも、演奏する人たちも、音響などステージを作ってくれる人たちも、そこに集う人たちすべてが同軸の土俵にいられるような空間。そこでそれぞれの得意分野で交差しあって、何かを生み出してそして感じる。そんな90年代のパーティーシーンのときのような感覚でやりたいなって思う。自分はそんなパーティーシーンから入ってきたので。

–––– フェスが誰かのものではなく、みんなのものなんだという感覚。

 何かに突出しちゃうと、そのカラーに染まってしまう。見た目のファッションで言えば、同じような洋服を着ている人たちがたくさんいます、これはそういうイベントですってなっちゃうのは、ちょっと居心地が悪いって思っちゃうし。もっといろんな人たちのミックスカルチャーというか、それがフェスティバルなんじゃないかと思うし、そこに挑戦したいって思っています。

–––– LOVE FOR NIPPONなどの被災地への支援活動を続けてきたからこそ、その思いに到達したのですか。

 いわば、これまでやってきたひとつの結論なのかもしれないですね。それこそパーティーやフェスに携わるようになってからしばらくは、自分たちのデコレーションチームは、モヒカンの若い衆ばかりがキャンドルを並べていました。今は、福島でも能登でも、自分よりも年上のおじいちゃんおばあちゃんっていう世代の人たちが、笑いながら並べてくれている。自分のなかの美意識の変化というか進化というか、レンジが明らかに広くなっているんですね。それって被災地支援をしてきたからこそ得られたものなんだって思います。考えてみれば、被災地支援活動ってパーティーなんですよ。「雨が降ってきたから片付けろ」とか「あっちに屋根があるから音響を移動させよう」とか。臨機応変に、みんなで楽しめる空間を作る。その意味においては、被災地支援の現場はすべてそうなんですよ。福島では11日、能登では1日。月命日には必ず福島と能登に行ってイベントなどをやってますけど、その日にいるメンバーで最大限やれることを見つける。そこにみなさんが自然と集まってくるんですよね。「これ食べて」って自分で作った惣菜などを持ち寄ってくれる。ひとつひとつのコンテンツに強烈な主張があるわけではないんです。被災地支援は主張がないんですよ。引き算された究極のパーティーなんです。

–––– それが支援を続けられている大きな理由のひとつにもなっている?

 少人数であるがゆえに、どうしても人数が増えてしまうフェスやイベントなどの「仕事」よりも、阿吽の呼吸ができているというか。月命日のときもディレクションはするけれども、そこにいるみんながキャンドルを運んでくれるし灯してくれる。もっと大切なのは、本当の意味でのオーガナイズをすること。それって地域の人たちとのご挨拶であったり、来てくれた人とのコミュニケーションだったりなんですよ。

–––– つまりつなぐこと。

 フェスとかパーティーって、人が出会ってつながる場所じゃないですか。出店者さんとかアーティストをどんどんつないでいって、「ピラミッドガーデンで出会った」とか「ピラミッドガーデンで再会しよう」とか。そんな場所になればいいですよね。

–––– 去年のピラミッドガーデンでは、能登の食材を使ったメニューもありましたね。

 LOVE FOR NIPPONのブースで、能登の人が来て能登ならではのメニューを作ったりとか。能登で支援活動をしているメンバーに出店してもらったりとか。トークステージにも出てもらったんですけど、そのひとつひとつが自然と馴染んでいるのが大事かなと思っています。支援活動をやるようになってからの20年って、自分はずっとバタバタなんです。バタバタなんだけど、仕事だと日にちが決まっているのでやれる。被災地支援は予定調和ではないんですね。臨機応変にどれだけ動くかっていうことをやってきた結果、ネットワークができてきた。能登も福島もまだ大変だからと言っても、熱量が下がっている人たちに何かを訴えていくのは難しい。けれど自然災害はいつどこで起こるかわからない。「防災のことを考えたほうがいいよね」なら伝わる人も少なくない。自然災害を有事とするなら、有事のときのためのネットワークをさらに構築していくことが必要なのかなって。平時にいろんな人が気軽に集まれる場所。そしてそこで防災のことも考える。それがピラミッドガーデンであってほしいと思うし、ピラミッドガーデンを続ける本当の理由なのかなって思います。だから<Beyond the Festival>として単独開催をしたいってわけじゃなく、今回が1回目で、ここからこのエリアにいろんなイベントを落とし込んでいくというイメージなんです。

–––– 6月末に代々木公園で<LOVE FOR NOTO>が開催されました。

 あえてステージを使わないで開催したんです。ステージを使うことで、こちらは音楽です、あちらはマーケットです、というような分断とまでは言わないですけど、ゾーン分けができてしまう。能登でずっと活動を続けているNPOも、協賛メーカーも、マーケットも、トークやライブも、広場だけのほうが一体感も出るじゃないですか。

–––– 代々木公園の<LOVE FOR NOTO>でも、JUNEさんは「能登はみなさんが考えているよりも近い。羽田から飛行機を使えば1万円弱で行ける。多くの人が能登に行くことによって、能登人が喜んでくれる」ということも語っていました。

 プロモーションっていう表現が正しいかどうかわからないのですけど、能登はプロモーションができていない部分が多いんです。「能登は遠い、行きづらい」っていう印象をしっかり与えられちゃっているんですよね。

–––– <Beyond the Festival>、ピラミッドガーデン、そしていろんな被災地への支援活動。どれもがつながっているのですね。

 自分の仕事は「祈る」ことだと思っています。祈ることって、宗教的って多くの人が思いがちですけど、祈ることでちゃんと通じるっていうことが、東日本大震災かからの14年でわかりました。祈ることで実現する。次に向かうきっかけになる。月命日は追悼の灯火なんですかってよく聞かれます。そうじゃなくて、子どもたちの夢を灯そう、その地域の問題を灯そうと思って、灯しています。その思いは<Beyond the Festival>でも変わりません。福島や能登での支援活動があっ<Beyond the Festival>があるし、<Beyond the Festival>から福島や能登につないでいく。そう思っています。

PYRAMID GARDEN -Beyond the Festival-

開催日:7月19日(土)〜20日(日)

会場:苗場スキー場特設エリア(新潟県湯沢町)

出演:阿部芙蓉美、奇妙礼太郎×U-zhaan、曽我部恵一、Moshimoss、DJ KOTARO、dj sleeper、LUCA & There is a fox、LUCA & There is a fox、Michael Kaneko、優河、KIMONOS、DJ TEZ、Tacco (YOGA)


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