自由に自分らしく生きるための サーフィンとデッド。【ノブ(SPICE DOG)】

ノブ(SPICE DOG)
サーフィンをするために、なんとなくやってきた伊豆南。そこには旅では得られない何かが存在していたのだろう。旅、そしてグレイトフル・デッドで教えてもらった共感を、ゆっくり大切に次世代にバトンタッチしている。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 宇宙大使☆スター photo = Uchu Taishi ☆ Star


ー 伊豆にはいつ来られたのですか。

ノブ 1980年です。目的はサーフィンですね。南伊豆に見晴亭というところがあって、そこに住んでいる友だちが、冬は暖かいしサーフィンができるから遊びに来ないかと誘ってくれたのがきっかけ。じゃあ行ってみようかという軽い気持ちでしたから。


ー それまでは何をなさっていたのですか。

ノブ 遊んでいましたね。いろんなところを旅して。80年に来る前はネパールに行っていました。


ー 見晴亭というコミューンみたいなものがかつて南伊豆にあったという話を聞いていました。そこはいわばどういうところだったのですか。

ノブ 平山さんというおじいちゃんがいて、その人が小屋を建てて、その小屋をみんなに貸してあげて。借りている人たちが内装なんかを自由にやって。旅から帰ってきた人とか、いろんな人が住んでいたんですね。見晴亭は石廊崎の手前にあったんですよ。そこはサーフィンのポイントでもあって。


ー コテージは何軒くらい建っていたんですか。

ノブ 多いときで10棟くらいあったんじゃないかな。


ー 見晴亭は何年くらいに生まれたんですか。

ノブ 70年代のはじめ。72年か73年頃だと思います。おじいちゃんの実家が民宿をしていたそうなんです。横浜の方で船大工をしていたんですけど南伊豆に戻ってきて、実家を継ぐのが嫌で、自分でコテージを建てて貸したのがはじまりだと聞いています。見晴亭をきっかけに南伊豆に来て、ヒッピー的な暮らしをしている人は少なくなかったと思いますよ。『人間家族』の編集部もありましたし、ラスタコミューンもありましたから。

ー ヒッピー時代の、ひとつのスタイルが見晴亭にはあったんでしょうね。スパイスドッグをオープンしたのはいつでしたか。

ノブ 造園会社に10年くらい勤めて、スパイスドッグを90年にオープンして。そのときは下田のペリーロードにあったんです。オープンまでの間に、アメリカにグレイトフル・デッドのショーのために行ってたりしたんですよ。


ー ノブさんのファーストショーは?

ノブ ブレント・ミッドランドにキーボードが変わった直後だったから79年のベイエリアですね。


ー 旅するなかで、デッドに導かれていったのですか。

ノブ 20代半ばの頃、まだ伊豆に来る前にサーフィンをしにカリフォルニアに行ったんです。そのときにこういうバンドがあるんだということを知って。そのときはデッドのショーに行けずに帰ってきちゃったんだけど、いつか絶対にデッドのショーに行くぞって心には決めていて。


ー デッドで人生観も変わったのですね。

ノブ 変わったね。デッド的生活っていうかね。デッドのショーって、そこに集う人もおもしろかったしね。一度行ったらデッド中心の暮らしになってしまってね。次のショーも絶対に行くぞって。


ー デッドはノブさんにとってどんな存在ですか。

ノブ ガルシア・チルドレンだから。特別なものですよ。何十年も聞いているし、聞いているだけですぐに思い出しちゃうっていうかね。時間を超えちゃう。こうだって押し付けるわけじゃないけど、導いてくれる。あんな自由なバンドってないですから。デッドを体験していなかったら、こういう店をやっていなかったと思いますよ。

ー スパイスドッグはどんなお店にしたいと思って作ったのですか。

ノブ デッドの音楽を聞けるお店にしたいと思って。それと地元の人とよそから移住してきた人が会える場所があればいいなあと思ってはじめたんですよね。


ー 今の場所に移ってきて20年。ペリーロードから数えると28年。お店から見て、このエリアの変化を感じていますか。

ノブ この地域の人は、よそからの人を受け入れてくれるんですよね。気候もいいし、東京という都会からもある程度近い。観光地でもあるから、いろんな人が来る。今は過渡期じゃないかな。新しい人がいっぱい移住するようになってきて。人が集まる波のようなものがあって、今は集まってきている時期。だから伊豆南はもっとおもしろくなっていくと思いますよ。


ー ノブさんは今もサーフィンを続けていらっしゃるのですか。

ノブ やっていますよ。なんか自由になれるんです。波は全部違うからね。同じ波は2度とないから。


ー いわゆる人生訓ってありますか?

ノブ そういうのはないですね。まあ「楽しむことだ」でしょうか(笑)。低空飛行だから、スパイスドッグをこんなに長く続けられたんだと思います。高望みをしないこと。それも自分の生き方の柱のような気がします。

ノブ(SPICE DOG)
世界を旅していた70年代が終わり、たどりついたのが伊豆南。旅のなかで出会ったグレイトフル・デッドの魅力を共有するために「スパイスドッグ」を90年にオープンし、98年に現在の場所に移転。今もライブも月2回のペースで開催されている。
https://www.facebook.com/shimoda.spicedog/


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