京北に根付き、つながりながら発信するコミュニティ。【KEIHOKU Style】

KEIHOKU Style
伊藤拓(革工房Taku)、佐藤啓(里山デザイン)

林業の町として知られてきた京北。自然との共生を求めて、京都市内だけではなく各地から移住者がやってきて、新しいコミュニティが形成されようとしている。その中心になっているのが KEIHOKU Style。地場のものを再生し、地域ともつながりながらの新しい暮らしのプラットフォームが構築される。

文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano

写真 = 林 大輔 photo = Daisuke Hayashi


ー 移住してきた人たちが中心となって、「KEIHOKU Style」という集団というかコミュニティというか、そんなものを作っていると聞きました。京北の暮らし方を伝えることを目的にしているのでしょうか。

佐藤 地域の活性化を生み出すためのプラットフォームを作っているんです。それには移住してきた人たちの新しい感性も必要で、けれど移住してきたみなさんが行政や商工会といった地域の人たちとは、なかなか出会う場がない。行政、商工会といった地域の人、そして移住してきた人たちをつないで、みんなでやることのプラットフォームを構築していく。京北という場所をブランディングして、外部とのコミュニケーションを図っていくことを目的としているんです。


ー おふたりはいつ移住してきたのですか。

伊藤 自分の工房を立ち上げてしばらく関東にいたんですけど、いつか田舎で暮らしたいと思っていたこともあって、子どもの誕生と育児を機に京北に来たんです。5年くらい前のことです。京北の前は京都市内に1年半ほど暮らしていましたが、京都市内から車で1時間程の山間地域であり、ツーリングコースでもあって。病院などもあってバランスのいいところじゃないかなって思って。

佐藤 1年半前に引っ越してきたんですけど、叔父が陶芸家でもともと京北に住んでいたんです。僕自身はずっと彫刻をやっていまして。京都の友だちに京北に住んでいると言っても、「どこ?」って聞き返されることも多いですね。注目されていない、手がつけられていない分、京北で新しい動きを作っていきやすいのかなっていう気がします。


ー 京北のどんなところに魅力を感じているのでしょうか。

佐藤 僕は自然がある場所のほうが感覚的に生きやすいので、周りに山があったり、近くに川があったりという自然環境に魅力を感じています。京北という場所自体が、季節を反映するんですよね。

伊藤 四季のグラデーションが視覚でも肌でも感じられるのは、すごく豊かなことだなって思います。かつて街なかで住んでいるときには、お日さまの軌道だとか、日照時間なんてことは考えもしなかったけれど、ここに来たらあとどのくらいで日が沈むのかなとか考えるんですよ。それありきで畑の畝を作ったりして。土もあって水もある。ものづくりに関しても、すごくこの場所からいろんなものをもらっていると思います。


ー それぞれこの地域ならではの材を使ったものづくりをしているとのことですが。

佐藤 京北は鹿がある意味ではシンボルなんですね。人口が5千人に対して鹿は8千頭いると言われています。獣害もあって問題も多いんですけど、鹿は動物としてのスタイルも美しくて、見ていて絵になるんです。鹿と京北の木材を使って、人に買ってもらえるような何かが作れないかなと思ってデザインしたのが、鹿のウッドクラフトなんです。

伊藤 分厚い革を使ってものづくりをしてきたんですけど、京北の鹿の革は特別に薄いんですね。僕からすると不得意な素材なんだけど、いろいろ試行錯誤して、これはこれで作れるものがあるなと思って。例えばキーホルダーだったりピアスだったり。


ー KEIHOKU Styleという場所やつながりがあって、そういう作品も目にしてもらう機会も増えているわけですね。

伊藤 移住してきた人間にとって、もともと馴染みのある場所に来たわけでもないので、そんな状況のなかで、例えば京北なら鹿の革に着目するとか、メッセージとしてパッケージしやすくなりますよね。それを発表できる場があるということがありがたいことです。自分ひとりで個展をやるとしたら膨大なエネルギーがいる。こういうベースがあって、デザイン力もあって、メディアとの関わりもあって、町としてもPRしてくれることもあるわけですから、やっていてとても気持ちが前向きになります。

佐藤 京北で伊藤さんが鹿革で作品を作っているということにすごく意味があるんです。地域の材を使って地域に還元していく。本来日本の里山が持っていた循環していく自然との共生。行政が目指していることは、この地域に移住者を増やしたいというような根本のところでは、自分たちと近いものがあります。 KEIHOKU Styleのようなつなぎ方で、自分の持っているものを放り込んで、それぞれにリターンしていく。それが地域のためにやっていることであれば、誰も反対しないんです。誰かが中心になるのではなく、誰かが使いたいと思ったときに使えるプラットフォームを維持しておく。誰かがやるぞって手を挙げたときに、参加できる人がそこに加わっていくゆるいくくり。それがKEIHOKU Styleだと思います。ものづくりとかの技術だけではなく、それぞれの持っているネットワークも投入していく。今までとは違う生活、ライフスタイルを求めている人は多いと思います。都市型の生き方ではない、ヒッピー時代のようなすべて自給自足でまかなうというわけでもない。両方をバランスよくできるような生き方。京北で、田舎で暮らしてみたいと思う人のレールを敷いてあげること。それも大切なことだと思っています。



佐藤啓
地域の魅力発信と地域産業の振興を図る里山デザインで、デザイン・商品開発を担当している。京都精華大学造形学科卒。http://www.satoyama-d.com/


伊藤拓
オートバイに革の道具を積み、各地の職人を訪ねながら半年掛かりで日本を一周。その後「革工房TAKU」を起こす。2013年に京北に工房を移転。http://www.k-taku.com/

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