【『ほたるの川のまもりびと』山田英治監督インタビュー】ダムに沈むかもしれない川原(こうばる)の日常を描く。


長崎県に川原(こうばる)という集落があります。里山の風景が残り、5月後半にはホタルが飛び交う静かな場所。この川原の日常を描いた映画『ほたるの川のまもりびと』。

–– 川棚町の川原(こうばる)に最初に訪れたとき、どんなことを思いましたか。

山田 民主党政権の時代に脱ダムの流れの後、ダムの問題はメディアにも取り上がられることが少なくなっていたから、下火になっているんじゃないかと思っていたんですね。行ってみたら半世紀前から苦しめられていて、その状況が今も続いていることに衝撃を受けたんです。反対運動をしている人たちが、自分のじいちゃんばあちゃんとか、親戚のおじちゃんおばちゃんのような人たちで、「あれ、これって普通の人たちだよね」って思って。その人たちが苦労されているということが事実としてあまりにも知られされていないので、それを伝えなきゃなって思ったんです。その伝える手段として、僕が実際に現地に足を運んだように、見ている人が疑似体験できるというか、実際にそこにいるように感じてもらって、川原の人に出会ってもらえるような手法がいいと思って、ドキュメンタリーというリアルな表現でやってみようと。帰りの飛行機のなかで企画書を作っていました。

–– 映画では川原の家族にスポットが当てられています。川原の日常を撮るということは、企画書を書いている段階で決めていたのですか。

山田 反対運動っていうのはテレビでも伝わるし、僕もそういう印象を持っていました。けれどそうじゃない反対している人たちの普段の顔って意外に描かれていないんです。僕ら東京の人間にしてみれば、川原での暮らしはすごい豊かなものじゃないかって思ったんです。川で泳げるとかホタルが乱舞しているとかイノシシを食べているとか。その豊かな日常をドキュメンタリー映画という長いスパンで滞在していれば、絶対にいいものが撮れるし、意義のあるものになるんじゃないかなって思ったんです。

–– 昨年には20分程度のパタゴニア・バージョンがネットで公開されています。

山田 ドキュメンタリーはとにかく素材がいっぱいあるんです。頭のスイッチを切り替えて、取捨選択をして、本編とは被らないようにトーンなども変えていったんです。この短いバージョンは問題性をより浮き彫りにした作りになっています。

–– ドキュメンタリーは撮ったものを見ることが大変な作業だと聞いたことがあります。

山田 確かに時間は要しますけどおもしろかったですよ。見るたびにいろんな発見があり、最初では気付かなかったところもやっぱり出てくるんですよね。撮っている時期と編集している時期では、現地の緊迫状況も違ってきていたので、結果としてその部分も増えていきました。

–– 今のこの時点でも、何かしらが進行しているかもしれないですし。

山田 僕らとしての役割は、シリアスさを出すんじゃなくて、なんかこの暮らしぶりがいいよねって感じで、少しでも多くの人に見てもらうこと。そして次のステップとして実はこういう状況になっているよって知ってもらうことだと思っています。

–– ダムに反対の映画ではあるんだけど、入口としては反対を掲げる映画ではないんですね。

山田 最初から反対映画ではなく賛成映画だって企画書には書いていました。ダム反対の映画ではなくそこでの暮らしの賛成映画。川原の暮らしが豊かで、川原の暮らしを守ろうよっていう賛成映画。だから都会で暮らしているんだけど、いつか田舎暮らししてみたいなって考えているような方にも見てもらいたいんです。

–– 川原の日常を撮り、川原の映画を完成させた今、川原は山田さんにとってどんな場所になっていますか。

山田 自分の親族が暮らしているという場所になっていますね。故郷に近いっていうか。うちのじいちゃんばあちゃんが住んでいるのは福島なんですけど、福島を思う感覚に近い。福島も川原も常に気がかりになっています。

(文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano/写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko)


ほたるの川のまもりびと

渋谷ユーロ・スペース 7月7日公開

熊本 DENKIKAN 6月公開予定

福岡、佐賀、熊本などでも6月後半から公開

監督:山田英治

半世紀もの間、ふるさとを守るために戦ってきた13世帯の家族の暮らしをめぐるドキュメンタリー。『プロテクターズ・オブ・ファイアフライ・リバー』というタイトルで20分程度のパタゴニア限定版も昨年夏からWEBで公開されている。

http://www.patagonia.jp/protectors-of-firefly-river.html

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