フリーペーパーというコミュニケーションを、構成するためのスペース。【ONLY FREE PAPER(清水一 / 山本武義)】

作るだけではなく、配付して、誰かの手元に届くことで完結するフリーペーパー。多くの制作者にとって、人に届けるためのサンクチュアリーのような存在がONLY FREE PAPERなのかもしれない。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko


ー かつては渋谷パルコにあったオンリー・フリーペーパー(オンフリ)。中目黒のオンフリはいつスタートだったのですか。

清水 2018年からです。その前は、キャンバス地のバッグなどをラインナップしたニューヨークのブランドがここにあったんです。オーナーが日本人ではあるのだけど、アメリカ国籍の方で。アメリカに戻らなければならなくなって、この場所をどうしようかという話になって、僕らが場所を受け継ぐことになりました。ちょうどオンフリを立ち上げた松江(健介)さんと話をして、オンフリもここでやることになったんです。


ー オンフリとはどういう関係だったのですか。

清水 僕ら2011年に『トコドコジルシ』というフリーペーパーを創刊したんですね。作ったのはいいけど、どうやって配付したらいいのかわからない。それでオンフリに持ち込んだんです。

山本 『トコドコジルシ』は年に1回発行して、2016年の発行で止まっています。パルコのオンフリでは、発行した際に企画展みたいなこともさせてもらっていました。

清水 中目黒のショップは『トコドコジルシ』の取材で出会ったんです。オーナーと仲良くなって、週末ごとに集まって、酒を飲みながら語り合って。小さなスペースですけど、ここで芝居もやったり。ブランドのショップであるのだけど、いろんな人を惹きつける不思議な場所でした。


ー 今、何種類くらいのフリーペーパーを扱っているのですか。

山本 120から130くらいです。多いときは150くらいありましたけど。


ー それはコロナ禍で少なくなってしまった?

清水 フリーペーパーって、大きく分けると3つに分類されます。企業が出す広報的なもの、地方発信のローカル誌、そしてもうひとつが自分の伝えたいことを作る個人発のフリーペーパー。企業や地方発信のものは、それほど少なくなっていないのですけど、個人発のものが少なくなってしまっています。コロナで挫折してしまったのかもしれないですよね。


ー個人発信のものこそエネルギーが凝縮されていて、おもしろいように思うのですけど。

清水 究極的には何をやってもいいわけですからね。僕らはクライアント仕事じゃないことをしたいと思ってフリーペーパーを作った。それが楽しかったんですね。そしてこういうお店までやるようになった。フリーペーパーって、人生を変える存在でもあるんだと思うんです。ただきちんと思いを込めて作らないと何も変わらない。自分たちだけではなく、フリーペーパーを作ったことによって、世の中から認められたり、フリーペーパーをきっかけに職業が変わった人もいる。フリーペーパーは、どこでも手に入るものではないし、それぞれの印刷部数も千差万別なんだろうけど、少ない部数でもちゃんと伝わっていくんだなっていうことを、『トコドコジルシ』を作り、そしてこのオンフリを続けることで実感しています。

山本 ペーパーレスを目指す世の中になって久しいけれど、逆に紙、あるいは手にする物への欲求が増しているのかもしれないですね。フリーペーパーを作りたいって、相談しにここに来る人も少なくないですから。

ー そんな相談に来る人に、どんなアドバイスをしているのですか。

清水 伝えたいことをいかに工夫するか、どうしたら相手に伝わるのかっていうことを一生懸命考えて作ったほうがいいですよ、ということは伝えるようにしています。デザインの良し悪しよりも何を伝えるのかということに重点を置くこと。それと紙にはこだわって欲しいと話しています。

山本 内容が良くても、紙や仕様ににこだわりがないようなフリーペーパーは、案外持って行かれないんですよ。

清水 安価を求めただけのコート系の紙を使ったフリーペーパーは、20ページあっても30ページあっても、ひとつの物体として受け取られてしまいがちすね。ページにまでたどり着かないっていうか。

山本 写真であれば写真で何を伝えるのか。発色や再現性を求めるのであればコート紙が適している場合もあるでしょう。ただそうじゃないことをメインに置きたいのなら、それを伝えるために適した紙は何なのか、しっかり考えてこだわったほうがいい。


ー 一般的なものではなく個性的なものがより求められる?

山本 きっとそれが、オンフリに来ていただいている人が求めているものだと思います。

清水 作った人の思いって必ず紙面に現れてきますから。万人受けするものではなく、自分にしかできないことやものを見つけて、それをネタにすればいいと思うんです。


ー オンフリの可能性ってどう感じていますか。

清水 コロナ禍になって、なかなかお店に行けないという時間が続いたけれど、オンフリは発信する人とそれを感じたいと思っている人の接点の場所ではあるんですよね。全国にはまだまだオンフリでは紹介できていないフリーペーパーはいっぱいある。すべてを置くことはできないけど、オンフリに置かれてあるっていうことが、作り手にとってはなんらかのステータスであり、受け取り手にとってはなんらかの信頼感を持ってもらえるような場所になればいいなって思います。

山本 そのためにも、もっとフリーペーパーというものに、自分たちもしっかり向き合っていかなきゃって思っています。


ONLY FREE PAPER 清水 一 / 山本武義
2011年に創刊されたフリーペーパー『トコドコジルシ』。渋谷パルコにあった唯一無二のフリーペーパー専門店ONLY FREE PAPERに、自分たちの作った『トコドコジルシ』を配付するために持ち込んだことがきっかけとなり、引き継ぐ形で東京・中目黒のSoace Utility TOKYO内にONLY FREE PAPER TOKYOを18年にオープン。現在、全国の150種以上のフリーペーパーを扱っている。https://www.space-utility.com/

Space Utility TOKYO

〒153-0061 東京都目黒区中目黒3-5-3

03-6452-3796(運営会社 東京ピンポン)

◎時間:12:00〜19:00 (日祝18時まで)

◎休み:月・火 ※日曜・祝日不定休

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