バンドとプロダクションという ふたつのベクトル【WONKインタビュー】

ジャズ、ヒップホップ、R&Bなどのブラック・ミュージックを現代のバンドサウンドとして再構築すること。2月には初のヨーロッパツアーも敢行したWONKのさらなるビジョン。


文=菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真=伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito


––– 去年あたりから急激にWONKとい名前をメデイアなどで見るようになりました。

アラタ 結成は2013年なんです。ライブを定期的にやるようになったのが去年の1月からですね。


––– どういった経緯で結成に繋がっていったのですか?

エザキ 僕らは大学のブラック・ミュージック系のサークルで出会ったんです。ジャズなどのブラック・ミュージック系のサークルってソロで活躍する人も多くて、例えば慶応のジャズ研と早稲田のジャズ研が一緒にライブをすることもよくあるんです。いろんな流れのなかで、いろんな人たちと繋がっていった。そしてアラタが声をかけて集まったのが、今のメンバーなんです。

アラタ 一緒にやれる、一緒にやりたいなって思ったのがこのメンバーでした。グルーブのあるベースのカンさん、ジャムセッションの記憶が鮮明に残っていたアヤタケ、声がすごくいいナガツカさん。けれど全員が集まってくれるとは思っていなくて。カンさんはすでに働いていたし、アヤタケはバンドをやるタイプではなかったし。

エザキ 僕らはみんな、実はミュージシャンになろうと思っている人たちではない気がしていて。音楽はものすごく好きで大切なものではあるんだけど、音楽だけで生きていくっていう気持ちを持って人生を歩んでいるわけではないんですよね。生活のなかで音楽にお金をかけていないことを実感している。YouTubeを無料で見る世代で、単純に音楽だけで暮らしていくことは難しいことなんだろうと。音楽サークルから出て、今も音楽を続けていて、音楽レーベル事業もやろうとしているし、ファッション・ブランドも立ち上げた。それを同時に考えられる世代なのかなと思っています。今は自分たちの価値観を最も提示できるのが音楽というだけ。自分たちの音楽を、ただただ音を出すということだけじゃなくて、いろんな角度から見つめられているのかもしれないですね。

イノウエ ものすごく珍しいバンドだと思います。やりたいことをそれぞれ抱えていて、それぞれプロフェッショナルとしてそれを続けている。一方で、共通項である音楽で一緒に結ばれている。


––– WONKをはじめたときは、どんなバンドの音をイメージしていたのですか。

アラタ Jディラのビートを生バンドでやるっていうコンセプトは決めていました。

エザキ 僕らが大学のジャズ研に入った頃は、ロバート・グラスパーなどが出てきた時代。そういうバンドが海外でも出てきたという共通認識を持っていましたね。今は、オーストラリアのハイエイタス・カイヨーテだったり、カナダのバッドバッドノットグッドだったり、同じような音楽を聴いて育ってきたけど、それぞれの国の独自性みたいなものをエッセンスとして何かしら残しているようなバンドになりたいと。


––– WONKというバンド名にはどんな意味が込められているのですか。

アラタ セロニアス・モンクのMをひっくり返してWにしただけなんです。

エザキ 『Sphere』というファーストアルバムのタイトルはモンクのミドルネームですし、「epistroph」というブランドはモンクの楽曲。ジャズピアニスト界でも特異な存在であるセロニアス・モンクがバンドのアイコンになっていることで、WONKのもろもろがまとまっていると思います。

アラタ モンクくらい攻めたいですよね。その勇気はまだないけれど。

エザキ モンクのように、聴いた瞬間にWONKだとわかる音を作っていきたい。


––– 去年の9月にそのファースト・アルバムをリリースし、今年3月にはヨーロッパツアーへ行きました。

アラタ 好きな音楽が海外のもので、それを自分たちで追い求めているのだから、世界への視野はずいぶん前から持っていました。

エザキ 音作りに関して、アラタとカンさんが中心にやっているんですけど、バンドでありつつ生音至上主義みたいなものを排斥しようという考えなんですね。

アラタ 打ち込みの音に生音を近づけるという作業がけっこう多いかもしれないですね。

イノウエ ミックスって引き算って言われるように、生音を生かして上品に仕上げていくというのが日本で多くやられていることだと思うんですけど、WONKの場合は、ミックスでどう音を付けていくのかっていうことも重要なんです。歪ませたり高音をカットしたり。ミックスも作曲の一環として捉えていますね。

エザキ ベルリンとパリでライブをしてきました。日本でやっていることをそのまま自然な流れで受け入れてもらえたっていうのが成果のひとつ目。もうひとつはライブを企画したプロダクションのメンバーが同世代だったことで、ビジネスだけではなく半ば学生のノリが残っているもの同士が繋がりを持つことができたこと。その繋がりがあれば、ある種の壁は簡単に乗り越えられるんですよ。

アラタ 国内だけではなく、インディペンデントで海外にも積極的に出ていく。その一歩を踏み出すツアーでしたね。いろいろあったけれど。



WONK

Kento NAGATSUKA、Ayatake EZAKI、KanINOUE、Hikaru ARATA の4ピースバンド。2013年に結成。2016年に入ってから本格的にライブ活動を始動させ、9月にはファース・トアルバム『Sphere』をリリース。タワレコメンに選出され、注目を集めた。2017年2月にヨーロッパツアーを敢行。帰国後も精力的にライブ活動を続け、多くのフェスからもオファーを受けている。レーベル運営やファッション・ブランドなど、独自の展開も図っている。2017年9月に『Castor』『Pollux』のふたつのアルバムを同時リリース。http://www.wonk.tokyo

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