蔵王龍岩祭 @ 山形蔵王 最後の龍岩祭から手渡される次へのバトン

今年で12回目の開催となった〈蔵王龍岩祭〉。しかしこの12回目の開催が過去の11回と違うのは、これで最後ということ。山形蔵王を会場に、フェスを祭りのように地元の老若男女にも広めようとしていた。だからこそ、ずっと入場無料にこだわってきた。なぜ今年を最後としたのか。〈蔵王龍岩祭〉としてはピリオドが打たれてしまうが、蔵王のさらなる未来に向けての一歩が隠されていた。ふたりの実行委員長に、最後の〈蔵王龍岩祭〉終了直後にインタビュー。


文・写真 = 菊地 崇 text・photo = Takashi Kikuchi


 今年で12回目の開催となった山形県蔵王の〈蔵王龍岩祭〉。入場無料のフリーフェスとして、フェスとは、祭りとはどうあるべきものかを、常に問いかけてきたフェス言えるだろう。ステージで使用される電源を自然エネルギーやバイオディーゼルにするなど、フェスがライフスタイルの未来を提示することを教えてくれたフェスでもあった。


 この東北を代表するフェスが、今年で開催を終えるとアナウンスされたのは、開催前のことだった。無料のフェスを続けるためにモチベーションを保つことは、想像にかたくない。けれど行政に頼らず、自分たちで構築してきたフェスを終えるという結論もまた、オーガナイザーにとってはとてつもなく大きなものだったに違いない。毎年のように参加していたファンはもちろん、まだ行ったことがない人も、フェスの終了を惜しんだ。「続けて欲しい」と多くの人が感じたであろう。


「なぜ終えるのか。ひと言で言うとけじめ。フェスは3日間だけ人が集まり、3日間で帰ってしまいます。それでは寂しいので、365日間人が集まり続けれられるような楽しい街を作りたい「〈龍岩祭〉からは、本当にいろんなことを学びました。何かを起こすには、大きな決意と柱が必要で、その柱が太ければより魂が入ったものになるんです。パッションを語り続ければ、多くの仲間が手を貸してくれて、自分が描いていたもの以上に大きなこととなる。そのことによって、人に感動を与えることも出来るんだということを教わりました」と鑓水さん。


 今年はステージが3つ。3日間で出演したミュージシャンやDJは100近くを数えた。フェス(祭り)は、いかに地元とともに歩むことが大切で、それを〈龍岩祭〉は一歩一歩開拓して行ったんだということが、街を歩いていて感じられる。誰もが参加できる無料のフェスだからこそ、垣根は低くなっていったのだろう。そして〈龍岩祭〉が終わるけれど、新しい何かをはじめて欲しいという声も多く聞いた。なぜ12年もフェスが続けられたのか。その理由を聞いたところ、五十嵐さんが真っ先にあげたのが「地元との連携」だった。

「〈蔵王龍岩祭〉は終わりますが、祭りは続きます。これからは日本の方だけではなく、いろんな国の人が蔵王にという次の目標に向かうための終わりです」と初代実行委員長の五十嵐康朗さん。


〈蔵王龍岩祭〉は、五十嵐さんらが中心となって、2006年にスタートした。そして12回も続いた。そこには蔵王を盛り上げたいというピュアな想いがあったからに他ならない。


「もっとも苦労したのは開催地の選定でした。蔵王温泉といっても広いので、騒音やインフラなどの問題で、3回会場を移動しています。それまでは蔵王温泉の端っこに追いやられていた〈龍岩祭〉を、皮肉にも3・11の地震による不景気により、街の総意で街の中心である上ノ台ゲレンデに移動したという経緯があります。ここで今年まで6年続きました。会場内に宿泊施設も点在し、最高のロケーションでした」と五十嵐さん。


 都市で開催されているフェスではないのに、宿から歩いて気軽に行ける無料のフェス。フェスの最中に強酸性の白濁したお湯が特徴の共同浴場に行くことも可能だ。五十嵐さんは10回目まで実行委員長を務めた。次にバトンタッチされたのが鑓水大輔さんだ。


やってくる時代になるだろうし、そうしていかなければならないと思っています。いろんな人がいつでも楽しめるような蔵王にしていきますよ」と五十嵐さん。


「〈蔵王龍岩祭〉は最終回でしたが、アクションは起こし続けます。雪の街、温泉の街、そしてこれからは音楽の街。そうなっていくことを願っています」と鑓水さん。


 入場無料のフェスを開催するという蔵王のひとつの時代は終わったのかもしれない。けれど、その次に繋げていく何かをふたりをはじめとする〈蔵王龍岩祭〉のスタッフ、そして蔵王の人たちが感じているのだろう。


 蔵王温泉の開湯は西暦110年と言われ温泉としては1900年の歴史を有している。スキー場としての歴史も古く、1925年に開場し現在も単独のスキー場としては日本で最大の面積を誇っている。そして〈蔵王龍岩祭〉ではじまった音楽の街としての新しい歩み。地盤沈下する地方を音楽や祭りで活性化させることが可能なんだということを蔵王で証明して欲しいと願う。

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