過去と未来、静と動、正義と悪。そういった相反するものを自分の絵のなかで共存させる。絵によって人の心を動かす。ニューヨークのストリートでジョージ・フロイドさんの絵を描き、さらに世界から注目される存在になった。
文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
ー最初に手がけた絵の仕事のことを覚えていますか。
D 大阪の専門学校に通っていたときです。友だちがDJをしていたクラブイベントのフライヤーでした。街に貼られたそのフライヤーをライブハウスの人が見てくれたりして、そこから少しずつ広まっていったという感じです。
ーかつてストリートアートにはフライヤーが大きな存在でした。
D 絵を見てもらえるという自分のプロモーションでもあったので、めっちゃ気合いを入れて描いていました(笑)。当時はネットもほとんどなかったから、人の目に触れるっていうことでもフライヤーが一番効果的だと思っていたので。
ークラブのフライヤーを多く手がけることで、ライブペインティングにもつながっていったのですか。
D 自分が最初にライブペインティングをやったのは2002年頃。クラブでの音楽イベントで、ライブペインティングのパフォーマンスが多くなっていって、同世代のアーティストも競い合うようにレベルが上がっていった。会場の隅でやっていたのがステージを組んでもらえるものまで出てきて、イベントのなかでの重要性も増していったんですね。
ー数年前にニューヨークに移住なさっています。移住した理由とは?
D グラフィティに影響を受けていた90年代からニューヨークにはすごい憧れがあって、いつかは暮らしたいと思っていたんです。40歳手前になって、結婚もしていたし子どももいたけど、このままずっと家を守りながら一生やっていくのかって思ったときに、もう一回何かにチャレンジしたい、憧れていたニューヨークに行ってチャレンジしたいって思ったんです。その思いが出てきたら、あとは止められなくなって。家族も理解してくれてニューヨークに移ることにしたんです。
ー実際にアメリカに暮らしてみて、どんな変化がありましたか。
D 自分は英語が満足に喋られないから、そこが一番苦労すると思っていたんですね。絵は自信がありましたから。英語を喋られるようになって、いろんなことがまわりはじめるまでに1年くらいはかかると思っていたんです。行ってみると言葉は全然関係なくて、実力社会なんですね。実力がありオリジナリティがある人のことは誰かが必ず見ていてくれる。ニューヨークの人はほんまにアートが好きやから、新しいかっこいいアーティストを見つけたら、みんなに言いたくなってしまう。広めたくなってしまう。実力がある人にはチャンスが何回か絶対にあるんです。そしてチャンスがあれば広がっていく。
ー日本での実績や肩書きを見てしまうこととは違いますね。
D 日本では一個ずつの確認作業も多くて全体の動きはどうしても遅くなるけど、ニューヨークではひとりが気に入ったとしたらものすごいスピードで進む。みんながいいものに対してすごくリスペクトしてくれる。ニューヨークを拠点に、いろんな街に壁画を描きに行っているんだけど、その土地その土地で、街の人が描いているときに話しかけてきてくれるんですね。そしてみんなが「サンキュー」と言ってくれる。自分の街に良いアートを描いてくれてありがとうと。自分の街への愛とともにアートに対しても愛があることが実感できて、すごく気持ちいいいなって思いますね。
ー一貫した絵のテーマは持っているのですか。
D いつもテーマにしているのは「共存」ということ。それが自分の根底に流れているテーマです。特にニューヨークに行ってからは、いろんな国や人種の人が集まって、みんなでリスペクトしあいながら新しいものが生まれていくっていうことを絵で表現できたらいいなって思っているんです。大きな共存というテーマのなかで、そのときそのときの時代や感覚をフィルターを通して表現しているっていう感じです。
ーその共存という意味では、ジョージ・フロイドさんの絵は大きなメッセージになっていると思います。
D 描けて良かったと思っています。ヒップホップに影響を受けているし、ブラックカルチャーから大きな恩恵も受けている。ニューヨークに限らず黒人の友人もいっぱいいる。ブラック・リブズ・マターのような大きなうねりが起こったときに、アーティストとして自分なりのメッセージを発信せなと思ったんですね。アメリカでは沈黙していることもメッセージだと受け取られる。批判されようがやらなあかんと思ったんですね。コロナで大変な時期で、コロナに感染しようがストリートに行って描くことが大切だと思って。
ー日本でも、もっとストリートアートが認知されてもいいと思う。
D ちょっとずつやけど、そういう視点が広がっているように思います。今まで関心がなかった人も、こっちに巻き込んでいきたいなっていう思いはあります。
DRAGON76 ストリートアートを基本とし、情熱的で生命力あふれるタッチで見る者の魂に触れるような作品を描く。当初はDRAGON名義で活動していたが、2004年から現在の名前に。2016年からは拠点をニューヨークに移して活動を続けている。建設中の川崎市新市庁舎仮囲いにアートを描くKAWASAKI MURAL ART PROJECTを展開中。4月には銀座帝国ホテル内のギャラリーで、KensukeTakahashi、Gravityfree、TOKIO AOYAMA、LuiseOnoらとグループ展を開催予定。https://www.dragon76art.com
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