自分の足元に転がっていた物語。日常という旅への視線。【青谷明日香インタビュー】

コロナウイルスという言葉がささやかされはじめた頃にスタートしたアルバムの制作。制作後半では、リモートでの作業になったという。2016年に生まれたお子さんと音楽。ふたつに向き合う時間のなかで浮かび上がってきた新たなメッセージ。


文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
写真 = 北村勇祐 photo = Yusuke Kitamura

— 2020年9月に5枚目のアルバム『TO THE PARK』がリリースされました。前作からどのくらい期間があったのですか。

 前作は2017年4月に出しているので、3年半ぶりになりますね。


— 制作はコロナ禍でのなかで行われたのですか。

 今年中には出したいって思っていて、他のミュージシャンの人にスタジオに来てもらって録音をはじめたら、コロナがだんだん深刻になっていったんですよ。それが2月後半くらいのことでした。3月後半からは私ひとりの録音になって、4月からはリモート録音をしていました。今までやらなかったことも試したりしていますね。


— 青谷さんはソロになる前はバンドで活動していました。

 ソロとバンドってやっぱり違うんです。バンドではみんなの脳みそを使って一緒に考えて作っているんですけど、ソロは完全にひとりなので。このアルバムに関しては、コンセプトを先に決めて作って行きました。周りに素敵なミュージシャンがいっぱいいるなかで、この曲にはこの人が合うかなって思い描いてお願いして。


— そのコンセプトとはどういうものだったのですか。

 4年前に出産したんです。それまでは月の半分くらいはツアーに出ているような感じでやっていて。だけど子どもを育てなくちゃいけないってことで、長いツアーには行かなくなって。大半は自宅で過ごして、近くの公園に行って帰ってくるという毎日。そういう生活をしながら、週末にはライブに行ってという音楽活動をやっていたんですけど、曲の作り方も変わってきたんですね。いろんなところに行って、そこでいろんな話を聞いたり、風景を見たりして、ぼんやりでもいいからインスピレーションが湧いてきたら曲を作るっていうことが多かったんです。旅でインプットしていたのに、自分の足元にある物語を拾って作るようになって。自分の出産後の生活とコロナ禍の生活がちょっとリンクする部分あって、それをコンセプトにしたいなって思って作ったアルバムです。


— 自分の近いところに存在している小さな物語。

 子どもと歩いていて、道端にダンゴムシがいたりとか、野花が咲いていたりする。昨日とは違うなっていうちょっとした発見があって。前は遠くのものばっかりを見ようとしていたのかもしれないなって思って、改めて身近なところにあるものを掘っていこうと。

— 鍵盤を持って、今もひとりでいろんな場所に行ってます。都市ではないところも多いですから。

 バンド時代は、全然東京を出ずに活動をしていたんですね。地方でライブをしたいっていう欲求があって。ソロになってすぐの頃、長野に行ってライブをしたんですね。おもしろい暮らしをしている人にいっぱいお会いして衝撃を受けたんです。その土地に行ってみないと、本当の地元感って味わえないじゃないですか。それをもっと味わいたくて、おもしろい人に会いたくて、いろんなところに行っていたのかもしれないですね。日本って、おもしろいところっていっぱいありますから。同世代でも、前は東京や大都市にいたけど、地元に戻って自分の暮らしを実践している人が多い。お店をやっている人もいれば、ものづくりをしている人もいる。そのネットワークが、緩やかに全国に広がっているんです。


— そのネットワークをつなぐひとつの要素がライブなのかもしれないですね。ライブハウスとは違うライブの文化。コロナの時代だからこそ、そのつながりがより大切になってくると思います。その意味では『TO THE PARK』というのは、今の時代を表現している言葉であり、表現している作品のように思います。

 そう感じてもらえたらうれしいです。たしかに、みんな公園に行ってましたものね(笑)。自分のいる近くにも、いいところはいっぱいありますから。

取材協力 = CHUBBY(東京・代田橋)

青谷明日香

秋田県大仙市出身の女性シンガー・ソングライター。バンド活動を経て、2006年にソロで弾き語りライブをスタート。お寺、神社、カフェ、公民館、フェス…キーボードをかついで日本全国を旅している。5枚目のアルバム『TO THE PARK』を2020年9月にリリース。ピアノ弾き語り曲に加え、ミュージシャンとのバンドアレンジのほか、新たにプログラミング楽曲も取り入れている。2021年3月に第二子の出産予定。

http://aoyaasuka.com/

取材協力 = CHUBBY(東京・代田橋)

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