野外パーティーで獲得した場作りの感覚を、自分の場所で更新する【佐々木春仁 おおぐて湖畔しらさぎ荘 おおぐて湖キャンプ場/長野・伊那谷】

南信州の伊那谷。そこに絶好のロケーションの宿&キャンプ場がある。野外パーティーで獲得したアイディアをDIYで追加。更新された「今」は野外フェスで提出されている。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 宇宙大使☆スター photo = Uchu Taishi ☆ Star

ー南信州には、いつ頃戻ってきたのですか。

佐々木 高校を卒業して、東京に行ったんです。音響の専門学校でした。そして3.11があって、東京の生活がどうかなと思って九州の天草に飛んで。鉄工所の跡地をリノベーションにしてカフェレストランにする。その立ち上げをお手伝いして。それがひと段落して、実家であるここに戻ってきました。それが5年くらい前になるのかな。


ー地元に戻ってくるという気持ちは前からあったのですか。

佐々木 自然は好きなんですけど、地元に戻るっていう考えはあまりなかったかもしれないですね。ただ、南信州はまだ人の手が入っていない。小さいけれど湖がある宿のポテンシャルは、観光資源になる可能性があるなって思っていて。祖父が創業し、父が継いできたこの場所を、自分が何も貢献しないまま閉塞させてしまうのはもったいないなって思うようになったんです。


ーここを会場として、〈LAKE OF SOUNDS〉という野外パーティーを開催しています。

佐々木 戻ってきた最初の年に初開催したんですね。こじんまりとしたチルアウトパーティーでした。ここで音を出したら、周りの人がどんな反応があるのか。まずはやってみて、そこから手探りをしながら規模を大きくしているんです。


ー〈LAKE OF SOUNDS〉には、どんな思いが込められているのですか。

佐々木 1回目は違う名前でした。ジャンルに特化してしまうと、受け皿として狭くなってしまうと思うんですね。この湖で音を聞くことが楽しい。その軸になるコンセプトを表現したのが、〈LAKE OF SOUNDS〉というネーミングです。


ーパーティーを開催することによって、どんなことを受け取っていますか。

佐々木 例えば最初に開催したときのことです。当時、湖畔のキャンプサイトってなかったんですね。出店者が湖畔にテントを張っているのを見て、湖畔にサイトを作るのも有りだなって思って。感覚的なものを拾えるっていうことが、パーティーのなかにはすごくあるんですよね。


ーパーティーを少しずつ大きくしているとのことですが、どのくらいの規模までを想定していますか。

佐々木 400人くらいまでですね。それくらいが、この場所や自分のキャパシティだと思います。ゆったりして、ここの自然も感じてもらいたいですから。

ーキャンプ場と旅館が共存している場所だからこそ、いろんなアイデアが浮かび上がってくるような気がします。

佐々木 宿に星見テラスっていう庭付きの部屋を作ったんですね。和室に泊まりながら、外にすぐ出てアウトドアの遊びも楽しめる。グランピングが数年前に流行って、旅館でできるグランピングって何かなって思いついたのがこれだったんです。焚火を楽しむことができる部屋。キャンプをする方にとっては、宿があるっていうことも安心感につながっていると思います。


ー少しずつ、自分たちで理想に近づけているっていう感覚ですか。

佐々木 湖があるのだから、湖を周遊する道を作りたい。野外パーティーをやりたいから、駐車場を整備したい。宿やキャンプ場には経済的な体力があるわけじゃないから、それらをできる限り自分たち手で実現させています。今はゲルを作っているところです。ゲルには音響も入れて。通常はカフェとして営業しつつ、パーティーではひとつのステージになる。常設の場所がひとつでもあれば、いつでもパーティーが可能になりますから(笑)。


ー佐々木さん自身、野外フェスやパーティーはどんな場所だと思っていますか。

佐々木 体験することによって得られる豊かさ。その場にいることが大切なのかなって思っています。YouTubeなどで見ることはできるかもしれないけど、その場にいて体験することで得られる情報量は確実に違う。音と自然がシンクロしたときとか、風が吹いてきて別世界を感じさせてくれたときとか。そのときにその場にいないと味わえないことって多いと思うんですね。それはパーティーだけではなく、自然に近いところでも同様の体験ができる。パソコンの画面から伝わってこない豊かさ。それが現場にはあると思います。


ーここの一番好きな季節はいつですか。

佐々木 毎年パーティーを開催する時季、5月後半くらいですね。ノンストレスというか、外にいることだけで気持ちいいシーズンですから。風が抜けていくような感覚を受け取ることもあります。パーティーを開催するのは、地元を盛り上げたいという気持ちもあるからなんです。入場無料のマルシェエリアを作ったこともありました。この地域は暮らしている若い世代が少ないので、若い世代が何かをやり続けているっていうことを見せることも大事なことだなって思っています。


ーそういう視点は、離れたことによって見えてきたことかもしれないですね。

佐々木 一度出て、いろんなことを体験したことによって、違うものさしができたんじゃないですかね。野外パーティーで培ったものも大きいと思います。このロケーションはこう見せたほうが気持ちいいとか、こう使ったほうが利便性があるとか。そういう視点や感覚はパーティーで味わっていますから。次はこんなものを作りたい、ここをこうしたい。その結果をパーティーで試す。自分にとって、キャンプ場と宿という日常とパーティーという特別な日が、補い合って全体としての場が成立しているのかもしれないですね。


おおぐて湖畔しらさぎ荘/おおぐて湖キャンプ場 (長野・伊那谷)
高校を卒業して東京へ。東日本大震災をきっかけに九州へ行き、そして生まれ故郷の下條村に戻ってきた。きっかけは「湖畔を有する稀有なロケーションの宿を引き継ぐため」。宿の歴史を終わらせるのはもったいないと思ったという。東京時代には数々の野外パーティーに参加。その体験をベースに、キャンプ場や宿をDIYで進化させている。キャンプインフェス「LAKE OF SOUNDS」を毎年開催している。

おおぐて湖キャンプ場

おおぐて湖畔しらさぎ荘

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