心もお腹も満たしてくれる 島のごちそう。【佐武研治・藤原由実 古民家カフェと宿 淡/兵庫・淡路島】

築100年の古民家。この家とここの風景に出会ったときに、「宿」というビジョンが広がったという。日本の原風景が今も残る淡路のごちそう。

文・写真 = 菊地 崇 text = Takashi kikuchi


ーふたりは、せいかつサーカスとして大阪を拠点に音の旅を続けていました。

研治(Kenbow) 大阪の茨木というところにおったんです。そこでOneeと出会って。付き合って3カ月もすると、女の人は逃げ出して行ったんですけど、この人は逃げ出さんで、忍耐強いなあって思ってたんです。小さなアパートやったけど、ぎょうさん人が来るし、いつも飲み会状態やし。

由美(Onee) 実家が旅館業をやっていたからか、人がいることが苦にならなかったんですね。家に知らない人がいるっていうことが普通でした。モンゴルパンという屋台をやっていたんですょ。屋台をしながらツアーをする。とにかく、祭りがあればどこへでも行ってましたね。東京にも行ったし。

K 佐渡の〈アースセレブレーション〉に行くときなんかは、行きの片道分のお金しかない。屋台の売り上げを帰りの費用にする。ライブで呼ばれていくことももちろんあったんですけど、呼ばれていなくても屋台で行ってたからなあ。祭りに隙があったらライブをやらせてもらって。

ーそんなふたりが、なぜ淡路だったのですか。

O 愛媛に住んでいたこともあって、よく淡路を通っていたんです。なぜかずっと淡路に住みたいと思っていたんですね。家が見つかったらいいなあと漠然に思っていました。


ーそして今の場所が見つかった?

O 友達が淡路にいるという知り合いがいて、いい空き家があったら紹介してって話したんです。ちょっとしたら、ここの話が来て。


ーかなり探したわけではないんですね。

O 見た一軒目でした。店をしたいっていう思いを持っていたわけでもなかったんですけど、ここにはじめて来たときに、今の私たちの姿が見えたんです。人に来てもらえる場所にしたいって思ったんです。


ーここの自然だったり、流れている時間を共有したいと感じたのですか。

O 畑もやりたいと思っていたんですね。ここはいい場所なんじゃないかって自信みたいなものが浮かび上がってきて。それって、いろんなところを旅して培ってきた感覚だと思っんです。自分に合わないところってすぐわかるじゃないですか。すぐにシャッターを下ろすように、「ここはダメ」ってなっちゃうんですけど、淡路にはそれが一切なくて。言葉では言い表せない感覚なんですけど。畑も田んぼも美しい。それって、そこで暮らし守っている人たちがいい人たちだからなんですよね。

ー築何年くらいの古民家なのですか。

K 宿として使っているところは100年くらい。蔵や母屋は150年くらいじゃないですか。150年ちゅーたら、明治になるかならないかのときですから。柱にまっすぐの木を使っているわけでもない。ある部分では作りがテキトーなんですけど、ちゃんとしているんです。遊びの部分があるっていうか。古民家にいると、いろんな暮らしの智慧を感じます。その智慧とか人間力とかが、今はどんどん閉ざされているじゃないですか。それを少しずつ、解き放っていける場所なのかもしれないですね。


ー淡路の魅力って、どんなことが挙げられますか。

O 海が好きで、島も好き。島にいると落ち着くんです。淡路には山もあるし、田んぼや畑もある。食べ物はなんでもある。淡路は食料自給率が100バーセントを超えているんですね。鎖国になったとしても生きていける。自分の本能のなかでそれを感じたんでしょうね。自分たちで安心の野菜を作って、その野菜で料理を作る。それもやりたかったことのひとつだったんです。

K 大根の葉っぱって美味しいでしょ。農薬をかけてしまったら、あの一番美味しいところが食べられないし。

O 生活とアートということがせいかつサーカスのコンセプトなんです。ライブもその場所なんですけど、ここも表現のひとつ。

ー「島のごちそう」とお店の前につけたのはどんな思いがあったからなのですか。

O 「淡」っていう名前は最初から決めていたんです。先輩に相談したら、それだけじゃあかんとアドバイスされました。次に考えたのが「古民家カフェと宿淡」。それでも弱くて、もっと美味しそうな名前がいいと。いろいろ考在て「島のごちそう」が出てきたんです。景色もごちそうだし、野菜もごちそう。


ーここにいることもごちそうだと。

O そうなんです。ゆったり、何もしない。人間にとって、ぼーつとして何もしない時間が一番のごちそうなんじゃないかと思っんです。いろんなごちそうを、ここで感じてもらえればと思っています。


島のごちそう古民家カフェと宿 淡
兵庫・淡路島
1990年に「有機的パフォーマンスバンド」せいかつサーカスを始動。KenBow(佐武研治)が生み出す独自の世界を、音楽だけでなく、絵、ファッション、屋台、イベントなど、表現の範囲を広げていった。Onee(藤原由美)はファーストアルバムから参加。モンゴルパンの屋台をやりながらイベントや祭りに出演した。ふたりで淡路島に「淡」をオープン。今年3月に一日一組限定の宿としてもスタートさせた。

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