トランスパーティーとは、その先にある何かを感じさせてくれた場所に他ならなかった。「先」にあるものとは何なのか。日常から離れ、自然の力を享受しながら自分を見つめることで、その答えは導き出されるのかもしれない。
文 = 菊地 崇 text = Takashi kikuchi
写真 = 伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito
ー （伊藤）淳さんは90年代にEQUINOX （イクイノックス）を主宰し、2000年代初頭の〈武尊祭〉にいたるまで数々の野外パーティーをオーガナイズしてきました。
伊藤 西麻布でクラブをやっていたんですね。自分でもパーティーを企画したいと思って、 EQUINOXという名前をつけて開催していたんです。人も増え、クラブとしても伸びていくっていう先が見えてきたときに、営業停止になってしまったんです。動きを止めたくなかったし、自分たちでももっと楽しみたかったから、スピーカーを持ち出して公園でやりはじめたんです。
ー そこから野外パーティーがスタートした？
伊藤 夜中にやっていましたから、近隣から苦情が入って警察が来るわけです。そして場所を探して都内から中央道で八王子に向かった。森の近くにちょうどいいスペースがあったらから、そこに移したんですね。そこでも苦情が来てしまって。ゲリラ的にやることが難しいって感じていたら、キャンプ場なら借りられるっていう話を聞いたんです。キャンプ場でも、結局は音の問題がつきまとって、標高1800メートルの武尊まで行き着いてしまった（笑）。
ー 言葉が適切ではないかもしれないけど、〈武尊祭〉をはじめEQUINOXのパーティーは伝説になっている。
伊藤 招聘したアフリカのパーカッショニストがこんなことを言ってくれたんです。「ひとりひとりが全力でやって、その力が合わさることによって魔法って起こるんだよ」と。パーティーをはじめた頃は、誰もやり方がわからない。けれど絶対に成功させよう、楽しもうっていうことに気持ちがひとつになっていたように思います。一生懸命にそこに向かっていたからこそ、魔法が起きた。自分が想像していたとおりになったパーティーってひとつもなかったですから。
ー そんな淳さんが、なぜ宿という場所を選んだのですか。
伊藤 東日本大震災当時、太陽光関係のサラリーマンをしていたんですね。野外パーティーをオーガナイズしてきたから、何もない土地に何かを作るっていうことは知っている。そこで太陽光の発電所を作りたいと考えたんです。それで場所を探すために河口湖界隈に来るようになりました。発電所も作ったんですけど、木を切ったり自然破壊もしている。自然のためにやっているはずなんだけど、これって本当に地球のために働いているのかなってクエッションマークが出て来ちゃって。河口湖や富士吉田に来はじめた頃は外国人はまったく見かけませんでした。それが気付けば少しずつ増えている。エアビーアンドビーっていうサイトが出てきているよっていう話も耳にしていたんです。発電所の場所を探していくなかで、不動湯という温泉があるんだけど、そこに外国人を呼ぶことを手伝ってもらえないかという話もあって。不動湯に行く道中に、この古民家に出会ったんです。「これって宝物じゃん、外国の人もきっと喜ぶよ」って思ったんです。
ー それがいつくらいのことだったのですか。
伊藤 今年の6月でPEACE&ONEをオープンして4年になります。
ー PEACE&ONEと名付けた理由は？
伊藤 会社の名前もピースなんです。その名前にしたのは、平和のために働くっていうことをテーマにしてやろうって思ったからなんですね。やっていくうちに、本当のピースってなんだろうって考え出したりしているんですが（笑）。今は世界中、みんなが旅をするようになった。人はどんどん自由になってきていると思う。スマホによって世界が近くなっている。それを実感していますね。
ー PEACE&ONEの可能性をどんなところに感じていますか。
伊藤 人間って、森のなかに行けば自然と気持ちよくなるじゃないですか。木や植物の葉からはフィトンチッドが放出されている。フィトンチッドは菌から自分たちを守るために放出されている物質なんですね。森のなかにはフィトンチッドが充満しているから、人間も身体や心が浄化されていくことを感じる。だから都市にいる人は、たまには自然のなかに行ったほうがいい。
ー 自然のなかに入ることによってリフレッシュするというか。
伊藤 都市に暮らす人ってストレスの発散の仕方をわかっていない人が多いと思うんです。健康的なようで身体に負荷をかけていることもある。ストレスの上にストレスを重ねているっていうか。例えばお酒を飲むこともそう。人と集まって飲むことは楽しいことなんだけど、結局はあるラインを超えてしまう。ここに来て2〜3日過ごしてデトックスをする。そうすれば、都市に戻ったら都市の重さが感じられると思います。
ー ひとりでゆっくり過ごすっていうことが、日本人は苦手かもしれないですね。
伊藤 ひとり旅の日本人って少ないですよ。ぜひひとり旅をしてもらいたいと思う。実は2018年に悪性の急性膵炎で入院したんです。生死をさまよった。入院しているときに本を読んだりして学んだことに、弘法大師の境地に行くには「自然のものを食べろ、山に住め、滝にうたれろ、瞑想しろ」の4つをすればいいというものがあります。山に住んでいるし、病気だから自然のものしか食べていない。滝には打たれていないけど湧き水のシャワーを浴びている。残るは瞑想だと思って瞑想したら、自然のエネルギーに敏感になるんですね。今は病気が治って戻っちゃったんだけど、その感覚を少しでもここで感じてもらいたいなと思っています。
Peace & One 山梨・富士吉田
90年代中盤。野外パーティーの黎明期にEQUINOXを立ち上げ、2000年代初頭の〈武尊祭〉にいたるまで、数々の伝説的なパーティーをオーガナイズしてきた。EQUINOXを源流にしたパーティーカルチャーは、今なお多くの野外フェスへと継承されている。富士山の北東（鬼門）に位置する杓子山の麓にある古民家をリノベーションして2016年にオープン。2019年には〈Peace Forest Fuji〉がここで開催された。https://airbnb.com/h/urashima
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