未来を照らす、希望の光を灯す場所【APPI JAZZY SPORT 2020レポート】

「どこまでも純粋に、本能のままに、その瞬間を楽しむこと」は、人生を豊かにするための重要なエッセンスだ。そしてその感覚を身体レベルで呼び起こしてくれるのが、音楽とスポーツではないだろうか。

 音楽とスポーツで、世界をひとつに。

 人種、言語、文化、経済、政治、宗教といったすべての垣根を越える、世界共通語である「音楽」と「スポーツ」の併走を軸に、シーンを牽引し続けるレーベルJAZZY SPORT。そんな彼らの思想を具現化させた次世代型のフェスが、『APPI JAZZY SPORT』だ。

 2020年1月18日、『APPI JAZZY SPORT 2020(以下、AJS)』が岩手県安比高原スキー場で開催された。

 今年で14回目を迎えるAJSは、毎年必ず参加するファンも多く、楽しみすぎて前日に熱を出す人もいるそうだ。長年ファンに愛されるフェスは間違いない。その直感を信じ、小雪が降る東京から深夜バスに乗り込み約8時間。初めて参加したAJSは「わざわざ行ってよかった」と思わせてくれる、素晴らしい体験をもたらしてくれた。

 東北の凛とした寒さは東京のそれと違い、身体と心をまっすぐに整えてくれる。東京からの長旅を終えた朝方、盛岡駅から見える美しい岩手山を眺めると、これからはじまる長い一日への期待で胸が躍る。

 AJSの会場となるのは、安比高原スキー場に併設されているフードコート。17時30分の開場前からゲレンデで遊べることもAJSの魅力である。白銀のゲレンデでは、澄み切った青空の下で雪と戯れるAJSファン。大自然の中で童心に返って遊ぶアーティストたちの姿もあった。

 雪遊びを存分に満喫し、温泉で身体をほぐしてから会場に向かうと、入り口には長蛇の列が。AJSは新年の「フェスはじめ」として、心待ちにしているファンが多いという。会場に続く行列からは、期待と興奮による熱気が立ち込めていた。

 昼間は家族連れで賑わっていた場所にステージが設営され、コカレロやコカコーラのブースが並ぶと一気にクラブ感が増していた。出店ブースには、NAGASAWA COFFEEやスモークナッツのマンチーフーズ、オーガニックブラウニーのOODなど、AJS常連ショップの姿も。さらに各所でアートエキシビションも行われており、歩くだけで五感がビシバシと刺激される。ジャジスポブースには、グッズを求める人が集まりお祭りムードが高まっていく。

 オープニングを飾ったのは、 今日本で最も注目されているビートメイカーのひとりであるGREEN ASSASSIN DOLLAR。ジャジーでメロウなサウンドと力強い低音ビートに自然と身体が揺れる。約8時間にも及ぶ長い夜がしなやかにはじまった。GREEN ASSASSIN DOLLARはヒップホップグループ舐達麻のヒットの立役者でもあり、Headsたちから絶大な支持を受けている。名曲「FLOATIN’」が流れた際に、思わず口ずさむ人の姿が多かったのも印象的だった。

 メインステージに最初に登場したのはcro-magnon。初回からAJSに出演している彼らだが、実は早い時間での演奏は今回が初。サックスに元晴、パーカッションにIZPONを迎え、いつもに増してパワフルなSpecial Setを披露した。昨年はアルバム『cro-magnon city』のリリースツアーで全国各所を飛び回るなど精力的に活動し、常に深化を続けるその演奏は圧巻。変幻自在のグルーヴで意識が高次に飛ばされたかと思えば、元晴の奏でる華やかな音色とIZPONの野性的なパーカッションによって身体が突き動かされる。早い時間にも関わらず、フロアはcro-magnonの音に惹き寄せられたオーディエンスで埋め尽くされていた。ベテランの実力をまざまざと見せつけられたライブだった。

 メインステージ脇ではライブペイントが行われていた。AJSを毎年盛り上げている、レペゼン東北のTOKIO AOYAMAは昨年逝去したRas Gを描き、その横では同じく東北のアーティストSUBLOWは真っ白の達磨に命を吹き込んでいく。さらに札幌在住のDKCは、安比を思わせる雪山をスノーボーダーが颯爽と滑り降りる様子を描いていた。音楽とアートの共鳴はポジティブなエネルギーを生み出し、アーティストたちの周りには常に人だかりができていた。

 ライブはメインステージとサブの金屏風ステージの2構成で交互に展開された。金屏風ステージのトップバッターを務めたのは京都Jazzy Sport発のカリスマラッパーDaichi Yamamotoだ。若き才能はスムースなフロウとライムで、オーディエンスをバウンスさせた。ベテランと若手が入り混じり、ボーダーレスでありながらも一貫してかっこいいショウが楽しめるのも、ブレない軸を持つJAZZY SPORTが主催するフェスならではの魅力だろう。

「東北の至宝」としてシーンを牽引し続けるGAGLEがステージに現れた瞬間、フロアの温度は急上昇した。初回から毎年参加してきたGAGLEは、まさにAJSを象徴するアーティストである。今回はゲストにKaztake TakeuchiとJuJuBassを迎えた濃密なバンドセットで、会場に大きなうねりを作り上げた。もはやAJSのテーマソングとも言える名曲「雪ノ革命」では、MC HUNGERが放つ熱いラップに呼応するかのように、オーディエンスが手を上げる。東北を愛し、シーンを育ててきたGAGLEの偉大さを感じさせる、エモーショナルなステージとなった。

 ボルテージの上がったフロアに優しい光を灯したのはMARTERだ。トリオ編成でのライブはミニマルダブからはじまり、しなやかに形を変えて展開。インストとボーカル、ベースとギターといったMARTERの二面性が乗った音楽の旅はフロアを陶酔させた。

 まろやかになった会場の雰囲気をいい意味で爆破させたのは、フィメールラッパーのAwichとkzm。妖艶で挑発的なAwichのフロウと攻撃的なkzmの放つラップを浴びたフロアからは、雄叫びにも近い歓声が上がる。ステージにはAwichの娘Yomi Jahも登場。ヒットソング「WHORU?」では、Anarchyのヴァースをみんなで合唱する一幕もあった。YENTOWNの中でも特に人気の高い二人のパフォーマンスは、フロアを熱狂の渦に包みこんだ。

 ラッパー田中光とのコラボセッションを披露したVIBEPAKをはじめとする4組のダンサーによるダンス・パフォーマンスを挟み、Arμ-2をバックDJにJJJが登場。エモーショナルでメロウなトラックにクールなラップを乗せ、型にはまらない新世代のヒップホップを提示した。国内外から高い評価を受けるその才能が発揮されたステージはまさに「ヒップホップシーンのイマ」を表していた。

 続いてメインステージに登場したのはNAOITOが率いる☆.A All Starsだ。NY在住のアーティストを含むAll Starsと呼ぶに相応しいコレクティブなメンバーに加え、サックスに元晴、キーボードにcro-magnon金子巧を迎えた9人編成でのライブを披露した。

 唸るベースに突き上げられ、変則的なドラムのリズムと反復するギターリフに意識が飛ばされたかと思えば、華やかなサックスとさえずりのようなフルートの音色で視界が鮮やかになる。光の粒のようなVibraphoneの音とデジタルなシンセの音が、コズミックでスピリチュアルな景色を描いていく。ステージに放たれた多彩な音を、まるで観客とステージを繋ぐコンダクターのようにNAOITOがまとめあげると、会場は心地よいグルーヴに包まれた。音楽(音を楽しむ)という行為を純粋に表現する☆.A All Starsは、世界に照準を合わせている。現在実施中の海外での公演に向けたクラウドファンディングにも注目していきたい。

 夜も深まってきた頃、サブステージに帽子を目深にかぶったKOJOEが登場。NYクイーンズ育ちのスキルは流石の一言。英語と日本語、ラップと歌の二刀を巧みに使いこなし、「まだまだ夜はこれから」と言わんばかりにフロアを煽る。

 THE NORTH FACEによるフィルム上映を挟み、ステージ上に現れたのはISSUGI。WONKのメンバーを中心に構成されたバンドセットでのライブを披露した。重厚な生音のサウンドにISSUGIがタイトなラップを刻んでいく。沸かせるだけではない聴かせるヒップホップで、ラストスパートを盛り上げた。

 日付が変わる頃、STUTSによるMPCライブがスタート。MPCをまるで楽器を扱うかのように扱い、フロアをロックした。STUTSと言えば、NYハーレムの路上でビートライブを行い、人種や言語の壁を超えた音楽によるコミュニケーションを実現させたエピソードが有名だ。身体の一部のように音とビートを巧みに操りながら、オーディエンスを踊らせた。ヒットチューン「夜を使い果たして」でフロアを最高潮に盛り上げ、トリを務める田我流にバトンを渡した。

 日本のヒップホップシーンを代表するラッパーであり、その多様な音楽性で幅広い層から絶大な支持を受ける田我流がステージに上がった瞬間、歓声が湧き上がる。ポップアンセム「やべ〜勢いですげー盛り上がる」の際には、田我流がダイブするという出来事も。田我流が放つどこまでも人間らしくまっすぐな熱い言葉を受け、オーディエンスが拳を力強く上げる。ヒップホップの持つパワーを改めて感じさせられた瞬間だった。

 ラストソングはEVIS BEATSとの名曲「夢の続き」。この曲には「閉塞する現代社会を憂いながらも、自分らしく生きて行こうぜ」という田我流のメッセージが込められている。熱気に包まれた長い夜のラストを飾るのにふさわしい感動的なステージとなった。

 音楽、スポーツ、そしてそれらに付随するアート、ファッション、フードといった様々なカルチャーは、人生を豊かにする。それらを高水準でコラボレートさせたAJSは、多くの人にきっかけを与え、未来を照らす希望の光を灯していた。

 14年という年月は決して短くはない。時代は常に変化し、新陳代謝を繰り返している。それでもAJSには「行けば絶対楽しい」と思わせてくれる魅力がある。だからこそ毎年新しいお客さんが増え、次世代へとカルチャーが繋がれているのだ。それは常にリアルなシーンを見つめ、煌めく才能をフックアップし続けるJAZZYSPORTだからこそ成し得ることだろう。改めて彼らにリスペクトを。そしてあの地で2021年にどんな光景が見れるのか、今から楽しみだ。


text = Azusa

写真 = TakanoriTsukiji、 Yasuhiro Orii、Taro Denda、Tabasa 

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