奥行きのある東京の自然を、多くの人に楽しんでもらうために。【大畑 良平(東京都レンジャー)】

面積にすると約36%が自然公園に指定されている東京。大都市から近い自然公園は、気軽に行けるというメリットがある。身近にある東京の自然を守る都レンジャーの仕事とは。

文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
写真 = 伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito

ー 東京都レンジャー(自然保護指導員)は実際にどんな仕事をなさっているのですか。

大畑 国立公園や国定公園など都が管理している自然公園、多摩では秩父多摩甲斐国立公園になるのですけど、ここには登山道がたくさんあります。道に異常がないかを確認したり、倒木などがあった場合に伐ったりするなどの維持管理をしています。山には希少な植物もありますから、それを採っている人を見かけたらやめていただいたり。固い言葉だと指導ということになりますが。近年だと鹿の問題もあり哺乳類の痕跡を見たりもしています。


ー 東京都レンジャーとして見ていらっしゃるエリアというのは?

大畑 奥多摩、檜原、御岳、高尾、そして小笠原の父島と母島です。

ー 何人くらいいらっしゃるのですか。

大畑 現在、多摩が16名で小笠原が8名。計24名ですね。


ー もっと多くいてもいいような気がします。自分たちではその数はどう考えていらっしゃいますか。

大畑 行政のレンジャーとしては多い数なんです。環境省で言えば、担当エリアでひとりとかふたり。都レンジャーもスタートしたときは3人しかいませんでした。現在は各地区で3〜5名、多いか少ないかは、レンジャーがどこまで何をするのかにかかっていると思います。今、東京都レンジャーに求められていることは、登山道や施設の点検と応急補修、利用者へのマナー啓発、盗掘防止の観点も含めた自然情報収集などです。奥多摩地区は現在4名ですが、その人数ですと1年ではすべてのエリアを回ることが難しい。よりきめ細かく自然を守るために活動していくのならもっと人員が必要だと思います。


ー 大畑さんは、なぜ都レンジャーになられたのですか。

大畑 自然に関わるようになったのは、むしろ遅いほうなんですよね。大学時代にサークル活動として自然に関わることをしていたんですね。ボランティアもいろいろしました。公園のなかにバードサンクチュアリーがあって、そこで鳥の解説員のアルバイトをしたのが最初の仕事でした。オオタカがどこに住んでいるのかというような調査の仕事もしたことがありましたね。都レンジャーになってからは、小笠原に1年、高尾に4年いて、今年から御岳に来たんです。


ー 調査する仕事と自然を守るレンジャーの仕事。自然がそばにあるという部分では近いように感じますが。

大畑 自然を見るという点においては同じだと思います。ただ自然を守りたいと思うのなら、見ているだけでは守られないって思ったんですね。人と関わる部分のある仕事って何かなって考えたときに、レンジャーという仕事が答えとして出てきたんです。

ー 御岳や高尾など、東京の自然の魅力ってどこにあると思いますか。

大畑 身近ですぐに誰でも行けることが一番にあげられると思います。高尾山はすごくコンパクトなエリアのなかに様々な環境があり、多様性のある植物や生き物がいるんですよね。高尾と比べれば御岳は少し落ち着いて自然と接することができる。山がずっと連なっているのを見ると、なぜか落ち着くんですよね。


ー どんなところにやりがいを感じていらっしゃいますか。

大畑 よくも悪くも、やったことの結果が見えやすいんです。できることは大きくないんですけどね。例えば滑りやすい登山道を整備したら、ダイレクトに感謝の声が届いたりします。

ー それではどんな課題を持っていらっしゃいますか。

大畑 よく考えることが、どこまで整備していいのかということ。すべてのコースをビギナー向けに歩きやすく整備してしまうと、山に登る人にとっては物足りなくなってしまう。葛藤がいつもつきまとっています。高尾山でも死亡事故があります。事故があったからといって、その道が悪いとは限らないんです。どこもかしこも整備するのではなくて、山の楽しさを残しつつ、山に対する心構えみたいなことを、ちょっとでも伝えていけたらって思っていますね。山に来る前の段階での呼びかけがすごく大切だなって。


ー 東京の山に遊びに来る方々に、どんなことをアドバイスしますか。

大畑 いろいろなアクティビティや登山など、いろいろな人のいろいろな思いを受け止めるだけの自然のポテンシャルがある場所だと思います。近くてアクセスがいいというメリットもあります。ただ自然のなかでこれからも楽しむためには、ちょっと固いことを言うようですけど、羽目を外さないっていうか、自然に対する礼儀みたいなものは持っていてもらいたいですね。自然と自分自身を守るための最低限の心構えは忘れずに、奥行きのある東京の自然を楽しんでほしいなって思います。

大畑 良平都内の自然公園の保護と適正な利用を図るために、多摩地域と小笠原地域で活動している東京都レンジャー。大学時代から自然に関わるボランティアやアルバイトを続け、都レンジャーに応募。小笠原で1年、高尾で4年都レンジャーを務め、2019年から御岳で勤務している。http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/naturepark/join/toranger/


取材協力/ MERRELL

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