新潟県三条市の過疎が進む地域にある公園で、入場無料のフェスが開催されている。今年で11回目を数える三条楽音祭だ。行政がバックアップしつつ、運営自体は地元の有志が行なっている。市内中心部のイベントならいざ知らず、森の中を会場にしたフェスが、こういう形態で続いているのは珍しいかもしれない。交通の弁が悪い場所で、そこに行くのはシャトルバスのみ。けれど毎年、3000人ものファンがそこに集う。フェスとお年寄りが多い過疎地域をどうリンクさせていくのか。そのひとつの答えがここにあるのかもしれない。三代目実行委員長の大橋賢太さんにインタビュー。
–––– 今年は11回目の開催です。去年の10回を終えて、どのような感覚を持ちましたか。
昨年の10周年を終えた直後も実感はすぐに湧いてこなかったです。初代の実行委員長・実行委員から数えて、僕らは3代目になるので、バトンをつなぐことに意識が常に向いている気がします。10年目だから特別というよりも、毎年、周りの協力を得ながら三条楽音祭に向けて動くということが日常生活の延長線になっているので、いつもどおりを続けてきたらもう10年だった、という感覚でした。ただ、開催を終えて、冬を迎え、じっくりと考える時間が出来てから、この土地に支えられて10年も音楽イベントを続けられたってことは、すごく恵まれて幸せなことだなぁ、という感覚はじわじわと染み入ってきました。節目を超えて11年目に入り、次の10年を続けるにはどうしたらいいだろう、ということをよく考えるようになりましたね。
–––– 楽音祭の特徴を教えてください。
三条楽音祭の開催地にあたる下田地区は、新潟県三条市の中でも山間に位置する過疎地域です。三条市が掲げる「下田地域の活性化」という重点政策のもと、三条市・下田地区住人・地元有志が協力関係を築き、開催されてきました。行政の完全バックアップでありつつ、運営主体は地元有志という体制は少し変わっているのかもしれません。
「手作り感満載の雰囲気で居心地がいい」と言ってもらえることが多いのですが、下田に住むおっちゃんやおばちゃんが毎年、村の竹を切らせてくれたり、資材置場を提供してくれたり、事前準備から本番当日まで親身になって手伝っていただけていることも影響していると思います。20代のスタッフから70代〜80代の地域の大先輩方までみんなで作り上げる手作りのお祭りが三条楽音祭です。
–––– 11回目の開催にあたり、過去との変化はあるのですか。
10年目の節目を経て、今年の開催は11年目というより、新しい1年目を迎えるような気分があります。僕らがこのイベントを始めた11年前に生まれた子どもたちも今ではだいぶ大きくなりました。当然、お客さんの顔ぶれも年々家族連れが多くなってきています。そんなこともあって、今年はカフェエリアを新設し、家族連れでもゆっくりコーヒーを飲みながらのんびりできるようにします。また、出演してくれるアーティストも、より幅広いジャンルでみんなが楽しめるようなラインナップにしてみました。また、新潟の音楽も多くの人に聞いてもらいと考え、出演アーティストも地元からの出演が今まで1組だったところから2組に増やしました。
そして今年一番大きな変化なんですが、今まではスタッフが組み上げてきたステージが10年間の役目を終えました。代わりに会場に常設ステージが建設され、今年の三条楽音祭はそのお披露目になります。この新ステージは会場の管理組合、管理人さん、先代の委員長、市役所のみなさんが本当に尽力してくれたおかげで建設にいたった、過去10年間の結晶です。今年来場してくれるお客さんとみんなで新ステージの完成をお祝いできたら嬉しいですね。
–––– 無料でのフェスという形態に、今後もこだわり続けるのですか。
僕らは営利目的ではなく、下田地域を元気にしたいという気持ちが軸にあって、三条楽音祭を開催し続けています。ですから老若男女、その時お金を持っている、持っていないに限らず、誰でも来て楽しめるイベントとして、無料イベントという部分にはこだわっていきたいと思っています。もちろん、経費も限りがあり、今後、新しいことに挑戦したりする場合は資金面で厳しくなることもあると思います。そうなってきた時には、例えば駐車場だけ料金をいただくとか、バスの乗車賃をいただくということはあるかもしれません。会場内に今後の運営のための募金箱も設置しようと思うので、ご来場の際はお気持ちでドネーションを入れてもらえると嬉しいですね。
–––– フェスに来た人を地域に還元することも目的のひとつだと思います。10年でどのようなことが実践できるようになりましたか。
一番は会場の中浦ヒメサユリ森林公園でのキャンプ客が年々増えてきていること、ですね。この会場を知ってもらいたいという気持ちを届けることができるようになってきた気がします。そんな実感が地元の人にも伝わり、喜んでもらえるとやってきた甲斐があるな、と感じます。
それと、少しずつですが協賛してくれる企業さまも増えてきました。おかげで無料という形態を続けられていますし、地元を盛り上げたいという気持ちを多くの人と共有できるようになってきたと感じています。また、三条楽音祭が直接のきっかけではないですが、県外から遊びに来てくれた方や旅人がそのまま三条市や近隣地域に移住してきてくれることもあり、そこから新たな人の繋がりも増え、新しいことにチャレンジする時に協力をお願いしたり、相談に乗ってもらえることが増えてきました。
–––– フェスは、未来のライフスタイルを提示する場でもあると思っています。どんな未来像をも楽音祭では感じてもらいたいですか。
新しいばかりが未来じゃないですよね。月並みですけど、今の時代、打算的で薄っぺらい価値観やブランディングが横行していて、ハリボテだらけでギスギスした生きづらい世の中だと思います。そんな現代社会の未来には古いものこそ必要な気がしていて。人との繋がりを大切にする気持ち、地域を想う心、無償の愛、なんとなくそういうものです。
中浦ヒメサユリ森林公園のある中浦集落には、変に飾られていない、ありのままの自然を、その場所で守り続ける管理人さんや集落の皆さんがいます。僕らは30歳も40歳も上の世代の方々に会場を使わせていただき、助けられ、三条楽音祭を作り上げていて、音楽と一緒にその場の空気を届けていきたいです。
世代を超えた信頼関係。地域社会の素晴らしさ、優しさ。その結果開催される、年に一回のお祭りが三条楽音祭だってこと。昔ながらの人の繋がり=未来のライフスタイルなんじゃないかな、って思います。人と人とが世代を超えて本気で遊ぶとこんなに楽しいんだよってことを感じてほしいです。
–––– 楽音祭でもっとも大切にしていることとは?
誰でも参加できるよう無料にしているのはなるべく多くの人に来てほしいから。収益があがらないイベントなのになんで苦労して多くの人を集めたいの?って聞かれることがあるのですが、三条楽音祭を目的にこの地域に来る人って、初めてこの地を訪れるっていう人が多いんです。初めて来た人が、いい公園だな、のんびりできる場所だな、って感じてくれて、またこの公園に足を運んでくれるよう、アーティストのオファーから会場の雰囲気作り、出店の選定などにこだわって毎年作り上げてます。そこに住む人が喜んでくれる音楽フェスにする、ということは常に考えてます。その結果として生まれる雰囲気や空気が、非日常感というか、昔ながらと言うかの手作り感を演出して、来場者にも喜んでもらえているような気がします。
–––– 集客は最高でどのくらいを想定していますか。
昨年は10周年でしたが、終日雨に降られ、集客は残念ながら伸びませんでした。毎年、晴れれば3000~3500人、雨が降れば2000~2400人ほどのみなさんにご来場いただいているので、今年も天候次第ですが、最高で言えば3500人ほどの集客を想定して準備しています。
–––– 楽音祭に参加する方に、「これだけは忘れないで持って来て欲しい」というものとは?
会場の中浦ヒメサユリ森林公園は森に囲まれた山奥の公園です。日中は暑くなったとしても、日が落ちるとぐっと冷え込んできます。天気予報に無くても、急な雨が降ることがあります。天候に関わらず、雨対策と防寒対策を必ずしてきて下さい。また、会場はブヨの生息地帯です。刺されると後から腫れてきて、とても辛いので、ブヨ対策としてハッカ油を持ってくると効果を発揮しますよ。
–––– 楽音祭で、どんな時間を過ごしてもらいたいですか。
会場周辺は開催期間中、稲が収穫期を迎えます。新潟でも最も綺麗な景色が広がる季節です。この素晴らしい自然と会場を50~80歳近くの近隣住民の皆さんが守ってくれているということも頭の片隅に、感謝して、のんびりと楽しい時間を過ごしてください。三条楽音祭は一日限りのお祭りですが、ホームページ上には周辺地域のキャンプ上や温泉旅館も紹介しています。最近はゲストハウスも増えてきて、僕ら三条楽音祭スタッフの下の世代も活気づいてきました。できれば、前日土曜日から三条市にチェックインしてもらい、この地域の産業や、自然や、人と触れ合ってもらえたら最高です。
開催日:9月1日(日)
会場:中浦ヒメサユリ森林公園(新潟県三条市)
出演:NABOWA、思い出野郎Aチーム、HEI TANAKA、TAMTAM、英心&The Meditationalies、GOOFY KINGLETS、、他
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