ヘンプがもたらす環境再生型農業へのシフトチェンジ。
2018年、アメリカで産業用ヘンプの栽培が合法となった。素材の持つクオリティ、そして環境負荷の少ない生産性。ヘンプは、有機(オーガニック)よりも先にある環境再生型農業で育てられる可能性を秘めている。
文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano写真 = 北村勇祐 photo = Yusuke Kitamura
1997年から、パタゴニアではヘンプを素材としたウェア類の生産を続けている。今年の春夏シーズンも、ヘンプ・コレクションとしてTシャツやパンツ、ドレスなど、キッズも含めると30以上がラインナップされている。かつてはヘンプ100パーセントのアイテムが作られたこともあったというが、現在では着心地なども考え、オーガニックコットンなどとの混合で作られている。
パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナードが、日本滞在時に着物を見て、そこに生地の素材として麻の文字を見つけたのが、パタゴニアでヘンプ・コレクションが誕生したそもそものきっかけだったという。「もちろん環境保護の視点からも優れているということをリサーチしたうえでの採用でした。ヘンプはリネンも同じ麻科の植物ですが、リネンなどの亜麻や苧麻のに比べると強度があり、夏の温暖な季節で心地よく過ごせるという特性があります。コットンに比べても、軽くて、涼しくて、強い。例えば夏にリュックを背負って会社に行くじゃないですか。背中が汗で蒸れるんですけど、コットンに比べるとヘンプのほうがはるかに乾くのが速いと感じます。この素材としてのメリットが使っている要因のひとつです。それとともに、環境への負荷が少ないということもパタゴニアとしては大切なメッセージです。長い間にわたって、環境に優しい、環境に配慮したということがパタゴニアのスタンスでした。そこから一歩進み、環境を再生させるというミッション・ステートメントになっています。ここ数年、気候変動が顕著になっています。私たちは気候危機と呼んでいます。ヘンプを育てるのに肥料は少なくて農薬はいらない。遺伝子組み換えである必要もありません。数カ月で2〜3メートルも育つのに、水を大量に使わなくてもいい。荒れた土地でも育つ特性があります。土のなかに根を深く生やしてくれるので、土を耕してくれます。微生物も集まってきて、土の健康をもたらしてくれます」とマーチャンダイジング部の細野雅子さん。
パタゴニアには、プロヴィジョンズという食品の部門もある。そこで展開されているビール「ロングルートエール」は、このビールの原料である「カーンザ」という穀物が地中深く3メートルも根を張ることから、その名が付けられている。土を生かしながら、どう植物を育てていくか。無肥料や無農薬よりもさらに大地への負荷を軽減させる環境再生型農業という新しい視点を、ロングルートエールもヘンプももたらしてくれている。
アメリカでは1970年に禁止薬物1類に指定され、使用用途を問わずヘンプを栽培、販売することが禁じられてきた。パタゴニアでは、アメリカの農家にふたたび産業用ヘンプを栽培する許可を与えることを広く訴えることを目的に、短編のドキュメンタリームービー『ハーベスティング・リバティ(自由の収穫)』を製作し、YOUTUBEにて公開している。この動きも要因のひとつになり、昨年農業法によって産業用ヘンプをアメリカ国内で栽培、販売、移送することが再び合法となった。「ヘンプの栽培が禁止されてきたことで、生産する技術も知識もなくなってしまいました。それを今後はどれだけ再生させていけるか。今までは中国産のヘンプを使っていましたけど、ローカライゼーションという部分も加味して、いつかアメリカ産のヘンプでヘンプ・コレクションを作っていきたいという思いもあります。日本の夏はどんどん蒸し暑くなっています。アメリカ以上にヘンプという素材は、日本の夏に適していると思います」
春夏用としてだけではなく、アメリカではワーカーに使ってもらうことを目的にしたワークウェアとしてもヘンプが展開されている。
土を健康にする植物であり、環境への負荷も少ない。化学肥料や農薬もいらず、植物の特性として抗菌などの作用も持っている。化石燃料から作られたものではなく、天然の素材であるヘンプ。環境再生型農業として育てられたヘンプを素材としたウェア。何を着て、何を食べるのかという選択。地球の未来は、この私たちのひとつひとつの些細な選択で大きく左右してしまうのかもしれない。
patagonia ヘンプ・コレクション
やわらかく、通気性のあるヘンプ。風通しがよく、自然で、しかも軽量。メンズではポケットT、イージーパンツ、ショーツ、ポロシャツ、スウェットシャツ、シャツ、ジャケットなど。レディースではカットソー、ドレス、ショーツ、スカート、アイランドパンツ、タンクトップなど。キッズやベビーにもヘンプが混紡されたアイテムがラインナップされている。アメリカではヘンプ素材のワークウェアシリーズも展開されている。https://www.patagonia.jp/hemp-collection.html
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