太鼓に魅せられて、鼓童に入団したメンバーたち。時代が動いていくスピード感がどんどん速まっているのに対し、メンバーひとりひとりの内には変わらないものがある。
文・写真 = 菊地 崇 text・photo = Takashi Kikuchi
ー 今年も舞台に立つふたりが最初に体験した〈アース・セレブレーション(EC)〉の思い出を聞かせてください。
齊藤 もうセッティングの記憶しかない(笑)。今のようにECのための運営スタッフやアルバイトがいるわけではなかったから、自分たちですべてをやらなきゃいけない。 ECの舞台で演奏はしたんですけど、それよりまずステージを組んで、演奏に必要な楽器の搬入出もする。城山公園には小さな車しか行き来できないから、自分たちで何度も往復して特設舞台の部材を城山に上げる。その作業をメンバーだけでやっていたっていう記憶ばかりですよ。
住吉 地元が香川県なんですけど、小学校2年生で太鼓をはじめたんです。その2年後くらいに、鼓童が交流学校公演で来て、それを見に行ったんですね。その公演のリーダーが栄一さんでした。僕はバチをいっぱい持っていってたんですけど、それを見た栄一さんが「バチをたくさん持ってたらうまくなるよ」って言ってくれたんです。
齊藤 俺、そんなことを言ってたんだ(笑)。
住吉 子ども相手に適当なことが口から出てしまったんだと思うんですけど(笑)。その言葉をずっと信じて、高校生になっても折れたバチまで自分のバッグに入れて持ち歩いていました。鼓童は熱烈なファンってわけでもなかったんですけど、ずっとECに通っているおじさんがいて、「お前も佐渡に行ってみるか」って誘ってくれて。車に乗せてくれて、香川から佐渡へ。すっごく楽しかったんです。それが高校2年のとき。翌年には、今度は友だちを誘って電車で行って。
ー 高校生にとってのECは、強烈な体験だったんでしょうね。
住吉 海外に遊びに行っているような感覚もありました。瀬戸内海って、海ではあるけれど向こう岸が見えるじゃないですか。日本海を船で渡って。香川の高校生にとっては、本当に海の外にある場所。この世ではないっていうファーストインプレッションもあったんですね。
ー その体験で鼓童に入ることを決めた?
住吉 太鼓をずっとやっていきたいなって思っていたんですけど、ECで完璧にはまってしまって「やっぱりここだ」って心で決めて。2年目は、楽しむだけではなくて、スタッフはどんなことをしているのか、様子を伺っていましたね。1年目が2008年のオロドゥンで、2年目がBLOF。
ー 齊藤さんは、鼓童のいわゆる一期生なのですか?
齊藤 僕は二期生。鬼太鼓座に在籍していたメンバーがまとめて一期生です。で、高校2年のときに、鼓童の前身の鬼太鼓座の野外公演をたまたま見たんです。噂で聞いたのが「この人たちは太鼓だけを叩いて世界中を回っている」ということでした。バブルのちょっと前でしたから、時代も浮かれていたんですよ。何をやっても生きていけるというような空気感。太鼓にはまったく興味がなかったんですけど、「ここに行けば働かないで生きていける」って勝手に思って。そして高校3年の夏休みに佐渡に行って夏の学校に参加して、「入りたいです」って言ってみたら「いいよ、卒業したらおいで」って言われて。
菅野 鬼太鼓座が主催する鼓童夏の学校ですね。翌年には鼓童になる前提で開催されたものです。
齊藤 鬼太鼓座のメンバーが、日頃、興味を持っていることに対して様々な分野の先生を佐渡にお呼びして講座を聞く。それをみなさんも一緒にどうですかっていうものでした。だから太鼓は全然関係なかったんですよ。大人の人がいっぱいいて。高校生は僕ひとりだけだったかもしれない。そして翌年の3月に「いいよ」っていう口約束だけを頼りに佐渡に来たら、鼓童になっていました。「来るものは拒まず、去るものは追わず」。そんな時代でしたから。
ー おふたりはECで演出もなさっています。
齊藤 僕は95年のブルガリアン・ヴォイスのとき。テーマとして「天と地」みたいなイメージを持っていたんですね。ブルガリアン・ヴォイスが天で鼓童が地。地上のおバカさんたちが破壊に走ったのを天の声でいさめる。太鼓を壊すぐらいの勢いで叩く曲があるんですけど、その曲で地球がボロボロになってしまったことを表現していて、彼女たちの歌声で少しずつ本来の姿に戻していく。そんな流れでした。
ー 女性合唱であるブルガリアン・ヴォイスは、 ECの「叩く」というコンセプトとはほど遠い存在のように感じます。
齊藤 違うからこそストーリーも作れるし、やってみてとてもおもしろかったですよ。すごく覚えているのが、ある曲が終わって、照明を全部落として真っ暗になったんですね。そしたら満天の星でした。その星空をみんなが見ているときに、シュッと流れ星が舞台の上に降ったんです。その流れ星の後に、「屋台囃子」がはじまって、明かりが付いていく。そんな自然の演出が城山公園にはあるんです。
菅野 その年までずっと写真を撮ってくれていた迫水さんが、直前に亡くなられたんです。
齊藤 鼓童のみんなで、あの流れ星は迫水さんだって言ってたんです。迫水さんが見に来てくれたって。
ー それぞれの年に、いろんな物語がECで生まれているのでしょうね。
住吉 城山には、場所の力があるんですよ。
ー 考えた演出では生まれない、自然からのご褒美なんだと思います。
齊藤 そう思います。考えていたこと以上の結果になることが、 ECで演出する醍醐味なんですね。ただ、演出や構成も楽しいんですけど、自分がやりたい派なんですよね。演出を頼まれたら、「やりますけど、僕も出ますよ」っていうタイプ。
住吉 僕は2019年の金徳洙さんサムルノリさんのときから演出をやらせてもらっています。 ECはシアトリカルな作品というよりも、ライブというか、コンサートというイメージで作っています。劇場公演を演出する際にはコンセプチュアルなことも考えたりするんですけど、 ECのときはあまりメッセージ性を考えない。それよりもお互いの持ち味がちゃんと出せるような構成にするということを心がけています。
ー 海外のアーティストと日本のアーティスト。一緒にやる際の違いってありますか。
住吉 やっぱりありますよ。日本人がゲストだと、何度かリハーサルをして、一緒に構築していくことができますけど、海外アーティストがゲストのときは直前に来て集中的に作っていく。そこが全然違っていて、海外アーティストとはエネルギー同士をぶつけ合うというか、インプロがベースになるっていう感じです。
ー 今年はどんなハーバーコンサートになりそうですか。
住吉 初日が我々鼓童、2日目がeltempoさんと鼓童、そして3日目の祝祭。最後の日の演出を担当します。イスラエル人のパーカッショニストでありながら、セネガルのサバールの第一人者としても認められているベン・アイロンさん、セネガルのレジェンドだったドゥドゥ・ンジャイ・ローズさんの息子のひとりであるアリさんとアリさんの息子のドーファルさん、去年の年末に僕の演出で「山踏み」という劇場公演をしたんですけど、そのときに一緒だった崔在哲さん。みんなで一緒にやって、祝祭を盛り上げていきます。ベンさんは2年前のECのときに、即興で90分くらいセッションしたんです。去年はECの2週間くらい前に来て、一緒に曲を作り込んで行って。そしてついにハーバーステージで一緒にやることになりました。
ー 今年も一緒に作り込んでいくのですか。
住吉 そうしたいって思っています。ベンさんからセネガルの伝統的なリズムなどを教えてもらって、それをみなさんにお伝えしていく。そして韓国のグルーヴとセネガルのグルーヴと鼓童のグルーヴをミックスさせていくような展開になればと思っています。
ー そんな構想を考えている時間も楽しいのでしょうね。
住吉 楽しいですよ。でも一番楽しいのは実際に舞台で演奏しているとき。栄一さんと一緒で、完璧に出たい派なんですよね。作曲もしていますけど。
齊藤 難しい曲でもスナック菓子感覚でサクッと作っちゃうんですよ。その作曲したもの、8分の9拍子とか8分の7拍子とか5拍子とか。変なリズムばっかりなんですよ。せめて割り切れる数字にしてくれと。演奏するのは楽しいんだけど、かなり難しくて「悪ふざけもいい加減にしろ」って言いたくなることもありますから(笑)。
ー 作曲はパソコンでするんですか。
住吉 最初は自分の脳のなかで作ります。みんなに伝えるために譜面にしたり音源にしたりっていう段階で、パソコンを使ってっていう感じですね。ただ譜面とか音源にできないような曲が好きなんですね。その場じゃないと再現できないもの。そういうものじゃないとやる意味がないって思っているんです。
ー より譜面にできないものに進んでいきそうですか。
住吉 そうすべきじゃないかと個人的には思っています。録音する技術とか再生する技術は、今後どんどん上がっていく。すでに360オーディオとか、マルチチャンネルで立体音響で聞こえてくる。音の繊細さやクオリティという部分では、再生機が上回ってしまうという時代が間違いなくやってくる。じゃあ何のために生で、ライブで演奏するのか。鼓童の公演は100点のものを毎回見せるっていうコンセプトなんですけど、再生機でそれ以上の音が、どの席にいても感じられるようになったら、ライブの根幹にあるものが変わってくるような気がしていて。だったら再現性の低いもの、その場ではないと感じられないものを作っていくべきではないかって。インプロって言ってしまうと平たいですけど、インプロ的要素とか、その環境が織りなすものを表現していかないと、パフォーミングアートとしてやる意味がなくなってきちゃうんじゃないかって思っていて。
ー しっかり決まったスタイルがあって、それを全うする。それも鼓童の美しさだと思います。
住吉 それが鼓童の一番の魅力ですよね。そして鼓童の曲を叩くと「気持ちいい」って身体が喜ぶ自分もいます。
齊藤 いつでも帰っておいで(笑)。
ー その意味で言うと、いろんなチャレンジができるのもECの魅力なのかもしれないですね。
住吉 「この人たちは誰なんだ!?」と思ってしまうようなアーティストもいるわけですからね。そんなみなさんに知られていないアーティストたちとステージを共にする。
ー 今年はどんなECにしたいですか。
住吉 かつては「濃い」のがすごい魅力だったと思うんです。苦労しながら城山に上がって行って「この人たちは誰?」みたいなアーティストの演奏を見せられて、けれどそこには不思議な「濃さ」にも包まれていて。最近はお客さんも含めてバリエーションが豊かになっているように感じています。濃さとバリエーションの両立。そうなってくると、ゲストは土の音がする人たちがいいんじゃないかと思って。土の音がするアーティストたちをコアに置きつつ、いろんなところでいろんなことをやっている〈アース・セレブレーション〉にしていきたいと。
齊藤 俺は、いかに自分が楽しめるか。それだけECの舞台はスリリングだから。ハーバーコンサートでの演奏だけではなく、ワークショップなどでのお客さんとのやりとりも大好きなんですよね。 ECは別物で、お祭りですよ。こちらに伝わってきたお客さんの気持ちを、演奏などで返していく。その関係性もすごく大切にしているし、それが今年もできたらうれしい
なと思っています。
住吉 「叩く」ということをテーマにしてきたフェスでもあるので、祝祭はみんなが何も考えないで踊れるような、踊りたくてしかたないっていうなってしまうような舞台にしたいと思っています。
太鼓芸能集団 鼓童
現在のメンバーは39名。1985年に鼓童の舞台メンバーの養成を目的に研修所がスタート。かつての中学校の木造校舎での共同生活では、稽古だけではなく自分たちが食べる農作物などの栽培など、人と人とつながりのなかで生活することを主眼としている。2年の研修の後、選考を経て鼓童準メンバーに採用される。ただし、2026年度の研修生の募集は行われていない(2027年度は募集再開を予定)。鼓童としては「ワン・アース・ツアー」のほか、ソロや小編成での公演なども行われている。https://www.kodo.or.jp/
Earth Celebration 2025
1988年が初開催。佐渡(ローカル)から世界(グローバル)に向けて発信し続けている鼓童による太鼓カルチャー。ハーバーマーケットや数々のワークショップなど、ライブ以外の楽しみもここだけの魅力。かつてメイン会場だった城山は一昨年からキャンプサイトになっている。
開催日:8月22日(金)23日(土)24日(日)
会場:佐渡島小木(新潟県佐渡市)
出演:鼓童、el tempo、Aly Ndiaye Rose、Ben Aylon、Baye Dame Bou Yaye、崔在哲、Dourfal Ndiaye Rose、ほか
https://www.earthcelebration.jp/
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