ソロとして前作を発表したのが東日本大震災直後の2011年3月16日。KINGDOM☆AFROCKSを解散し、音楽から距離を置いていたという☆.A/NAOITO。ひとりの人間として暮らし、再び音楽に戻ってきたことで見えてきた風景が新作から聞こえて来る。
文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 林 大輔 photo = Daisuke Hayashi
– ソロとしては7年ぶりのアルバムがリリースされました。
N NAOITO名義として前に出したのは、震災の直後の2011年3月16日だったから。
– KINGDOM☆AFROCKSが2014年に解散になって、以降ライブでは名前を見ることがあったけれど、ほとんど活動が聞こえてきませんでした。
N 音楽のことしか考えていない時間が何年も続いて、世の中もいろいろあったじゃないですか。今も進行形で進んでいますけど、そういうことから受けるものが表現につながっている。音楽をやって詞や言葉にしてステージの上から言っているだけで、なんか自分の生活の実践が足りてないなと思うようになって。
– それで音楽から離れてしまっていた?
N まず家を建てられるようになりたいっていう気持ちが生まれてきて。東北の震災のときに、遠くにいると気持ちも落ち着かないからすぐ石巻に行ったんだけど、ギターを持って行っても何もできない自分がいる。そこですげえ無力感を感じた。生活に直につながる能力を、ちゃんと身につけたいって思って、鎌倉の材木座に引っ越して、音楽で知り合った大工さんにのところで働かせてもらいはじめて。それから2年くらい、楽器もほとんど触らず。
– 再び音楽をやろうとしたきっかけとは?
N 毎日、日常生活を共にしながら、人間関係もできあがっていったんですね。俺がのめり込んで楽器も触らずにいたもんだから、働きはじめて数カ月くらいしたときに、外回りをしている軽トラのなかで「自分でいろいろ作れるように覚えたいことがあるんだったらいくらでも教えてあげる。毎月の生活のための最低限の収入はここでゲットしていいけど、音楽を止めて大工になるって言ったら、俺は絶対に止めるからな」って親方に言われたんです。そしてリリースすることを考えずに、少しずつ作りはじめた。
– 新作を聞いていると、かつての音とはまったく違うニュアンスが聞こえてきます。
N 自分の作るものって、わりとノスタルジックなものが多かったじゃないですか。ちょっと昭和臭のするものとか、どこかの国の民族音楽だったりとか。心の共通項みたいなものを音楽にしていたつもりなんだけど、もう2018年なんですよね。もう時代は後戻りできないし、ノスタルジックなものは一回捨てようと思って。マイルス・デイビスが「ヒップホップとアフロビートは未来の音楽だ」って言っていたことを思い出して、自分なりに未来の音楽を作りたいなって。
– AFROCKSにしてもソロにしても「人」が演奏していた。もちろん今作も人が演奏しているんだけど、デジタルな感覚も聞こえてきます。
N 作品を作る上で、テクノ感をすごく大事にしていましたね。今のテクノではなくテクノ感。アコースティックであったりオーガニックグルーブというのは、もちろん今でも大事なんだけど、テクノももっと当たり前に消化して作りたかった。
– そう考えるとシンガー・ソングライターのスタイルも変わってきているし。
N マルチ・インストゥルメントっていうのかな。コンピュータを含め、いろんな楽器を使うのは普通のことであって。ジャンルで音楽をやるのもナンセンスだと思うし。
– 自分の音楽をどう言葉で表現していますか?
N 「ジャンルは何ですか?」って聞かれたら「雑食なんで、すごく困ります」って答えていたんだけど、これからはインスプレーション・ミュージックだって言おうと思っていて。プリンスの言葉なんだけどね。
– ところで何歳になったんでしたっけ?
N 40歳になりましたよ。前にソロを出したときもAFROCKSのときも、子どものとんがりがずっと取れないままいたから。
– とんがった部分は変わっていないんだろうけど。
N 散々わがままな発言をして周りを困らせたこともあったし。だけど30代後半になってくると、だんだんこれは無しっていうものが無くなっていくじゃないですか。どんどん調和を大事にするようになっていって。CINEMA CARAVANなどで、小さなコミュニティを自分たちの力を持ち寄って少しずつ大きくしていくっていうことをみんなで経験したことも、自分の変化には大きかったと思いますよ。ただ40代になって、違うとがり方をしたいなっていう気持ちも出てきています。
– とがっている部分で、音楽を続けていくうえでは大切なことだと思います。
N 音楽を止めさせてもらえないなって感じもするし、やめられないとも思うし。100人のうち10人が自分の音楽を好きだって言ってくれたとする。その割合って、世界のどこに行っても同じなんですよね。だったら、世界に広げたほうがいいんじゃねえかなあって。日本で音楽をやるんだったらこういう音楽を作ったほうが売れるとか考えるのは、自分のなかではもう音楽じゃなくなっている。だいたい、自分が影響を受けてきたものって、音楽でもなんでも、一般層を意識して作ったものじゃなかったからね。
– 作品をできて、今はどんな感覚ですか。
N すごく充実していますよ。
☆.A/NAOITO
19歳で渡米し、ジャマイカ、ネパール、ブラジルなどを旅する。2006年にKINGDOM☆AFROCKSを結成(ボーカルを担当)。世界に誇るアフロ・ビート・バンドとして人気を獲得していたものの14年に解散。以降、長く音楽シーンから離れていたが今年7年ぶりにソロ作品を発表した。4枚のアナログ・シングルとして発表される8曲を、1枚のCDとしてもリリース。日本のみならず世界を巡る移動式映画館のCINEMA CARAVANの主要メンバーでもある。2019年は岩手の安比高原で開催される冬フェスAPPI JAZZY SPORTから始動する。
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