横浜ベイホールで開催される「DIGGIN’ UP THE ROOTS」。横浜〜神奈川に所以のあるミュージシャンがアーティストが集まり、横浜〜神奈川で培われてきたカルチャーを次世代にも繋げていこうというイベントだ。オーガナイザーのHOMERUN SOUNDとライブ出演するRickie-Gが、「DIGGIN’ UP THE ROOTS」への思いを語り合う。
取材・構成 = 宙野さかな
写真 = 林 大輔
––– 「DIGGIN’ UP THE ROOTS」を開催しようと思った理由から教えてください。
HOMERUN SOUND(H)かつて「春の彩音~zion~」というイベントをやっていたんですね。東日本大震災のあった後の3月後半にも、横浜ベイホールで開催を予定していたんだけど、中止になって。COOL WISE MAN、BAGDAD CAFE THE trench town、copa salvoなどにも出演してもらっていました。横浜や神奈川の地元のバンドやアーティストにも出てもらいたいと思って、リッキーにも出てもらっていたんですね。自分は横浜で生まれて、横浜で育って、横浜のメンバーをそろえて、イベントをやりたいなってずっと思い続けていたんです。
––– そのタイミングが熟してきたということ?
H 去年の秋にリッキーと飲んでて、「ベイホールでラインナップを横浜にこだわったイベントをやりたいんだよね」っていう話をしたんです。リッキーは「いいじゃん」って返事をしつつ、「横浜だけではなく神奈川をレップしたい」という案が出て。
Rickie-G(R)神奈川に広げたら、いろんなバンドがあるし、アーティストも多いしね。絵を描いている人だったり、写真を撮っている人だったり。昔「HOBO’S FREE CONCERT」と「ART ON THE BEACH」というフェスが横須賀で開催されていたんですよ。
H 「HOBO’S FREE CONCERT」はうみかぜ公園で開催されていたキャンプインのフェス。
R 横須賀を愛する地元の人たちによるフェス。神奈川って、そういう音楽を核にした文化が受け継がれているっていうか。
H 横浜にしろ神奈川にしろ、バンドやアーティストがいっぱい出てきているんだけど、コロナ禍によって、横浜でもライブをやれるハコが潰れちゃっている。ワンマンじゃ成立しない人の渦っていうか流れを作られるイベントをやりたいなって。
R 小さなハコによって広がり、受け継がれているものって必ずあるから。そこが無くなってしまうってことに対して、ちょっと危機感も感じているんです。数千人が入るような大きな会場はできていて、それも素晴らしいんだけど、町の文化というものとはまた少しかけ離れるかな…ローカルとはまた違う感じなのかな。
H BayHallはは小さくはないのだけど、あそこには横浜らしさっていうのが残っているからね。こんなイベントにしたいって相談できるっていうか。
––– ライブがやれるような小さなハコが無くなっているというのは、横浜だけではなく全国で似たような状況なんでしょうね。
R ライブで全国に行って、元気があるなあって感じられるって、200~300人くらいのライブハウスが残っているっていうような町だったりする。洋服屋さんだったり、飲食店だったりが中心になってライブを企画して、地元の仲間がちゃんと集まっている。その集まる場所の象徴としてのハコ。
––– 日々のなかにある遊び。それが自分の暮らしにも密接に関係している。そこから町の文化が生まれるように思います。
H 例えば横浜にはサムズアップやグラスルーツがあるじゃないですか。その店での出会いって、自分にとっても大きいんです。この対談のために、リッキーとはじめて会ったのはいつかって調べたんですけど、2004年だったんですね。サムズアップで働いていたスタッフと「SWEET VIBES MARKET」というレゲエイベントをやって。ダンスホール・レゲエとかは横浜に根付いていたんですけど、スカとかダブとかルーツとか、そういうバンドのショーケースをやりたいって思って。それが2004年。
––– ちょうど20年前なんですね。
H「SWEET VIBES MARKET」によって出会った仲間たちと、なんか一緒に歩んできているっていう感じもしているんです。その意味で、今年に新たなイベントをやりたいって思ったのは、何かしらのガイダンスだったのかもしれないですしね。
R まーくん(H)は、イベントのオーガナイザーだし、DJでもあるんだけど、イベントを盛り上げようという熱だけではなく、人間の熱さも持ってたんですよ。同時に冷静さもってどうしたらみんなが楽しめる場所がちゃんと作られているのかなって、無茶苦茶考えていたと思う。
H 集客できて、楽しくて、酔っ払って。それはもちろん大切なんだけど、自分がやるべき場所はそれだけじゃないなって。参加した人の心に何かが残るとか、何か意味があるとか。それをすごく考えていたのかもしれないですね。リッキーはそれを体現してくれたアーティストだったから、一緒にやっていて心強かったし。リッキーが他の町でどんなことをやっているかを見たかったから、ツアーに同行させてもらったこともあったしね。
––– ふたりの音楽的バックボーンというのはレゲエになる?
H 小学生まで遡ったらヒップホップですよ。ヒップホップってサンプリングじゃないですか。フージーズが「ノーウーマン・ノークライ」をカバーしているのを聞いて、そこからボブ・マーリーの曲に触れていって。ダンスホールも聞いていましたけど、ボブ・マーリーのほうが俺的にはフィットして。
R アレステッド・ディベロップメントとかね。
H そう。SPEECHも。
R サンプリングの仕方にもセンスがあったよね。これがレゲエのナンバーだったんだって後から知ったり。俺も歌から入っていった。
H ボブ・マーリーが好き過ぎて、「トリビュート・ボブ・マーリー」っていうイベントもやったくらい(笑)。そのときに、リッキーに「SPEECHがやっているようなアレンジ で『レデンプション・ソング』をカバーしたら、かっこいいじゃない」っていう話をして、イベントのときに歌ってもらった。
R レゲエのアーティストも、俺ならこうするっていうアレンジがすごいじゃないですか。実は元ネタがあるのに、完璧に自分のものにしている。同じ食材なんだけど、調理する人によって全然違うものを提出する。そこにもオリジナルの真骨頂があるような気がしていて。それを日本語でできたらおもしろいなって漠然と思っていたんですよ。それと楽器の音圧はすごいんだけど、何を歌っているのか、ちゃんとわかるように作られている音楽なんですよね。フロントにフォーカスしている音楽はレゲエだと思って、レゲエのおもしろさにはまり込んでいって。横須賀のクラブでバンドと知り合って歌わせてもらうようになって。そこで歌うことの感動を教えてもらって、音楽をやりたい、表現者になりたいって思うようになったんです。
––– 横浜はローカルがある地方のひとつでありつつ、大都市でもありますよね。
H リッキーや他のバンドと一緒に回っていたり、「頂」や「サンセットライブ」という 地方発信のフェスにいって感じたことは、コアなスタッフが少人数で大きなムーブメントを起こしていることや、小さな町の平日のライブでたくさんのお客さんが集まっている場面に直面し たときに、その町が持っている熱さには敵わないなって思うこともあれば、横浜にもその可能性があるよなって思うこともあって。横浜はいろんな部分で恵まれている。じゃあ、そこで自分たちは地元のために何ができるんだろうって。俺たちも、もっとやらなきゃいけないなって思うようになったんですね。みんなが持っている理想に近づきたいし、みんなが持っている理想をもっと超えて行かないとねっていう思いもあって。
R その部分で、「DIGGIN’ UP THE ROOTS」というタイトルがすごくシンクロしているなって感じていて。「らしさ」とか生まれ持ったもの。リンクっていうのは遡っていけば根っこ。拡大させていくだけじゃなくて深化させていく。深く掘っていく。そしてそれを紡いでいく。
H 結局、根っこにいろんなことを教わっているんだよね。そして根っこが最先端なんだと思う。それが再確認して、ディグして、ちゃんと見えるものにしていきたいって思う。
––– 「DIGGIN’ UP THE ROOTS」をどういう場にしたいと思っていますか。
H 横浜や神奈川の先輩たちの影響を少なからず受けてきています。食、アート、音楽。いろんな要素を個々のものじゃなくて、同じ場所で、同じ視線で楽しめている。それを子ども達にも見せたいなって。それを見せて残せていけたら、俺たちもワクワクしながらおじいちゃんになっていけるかなって思って。
R かっこいいお兄ちゃん達が築きあげてきたイベント。それも町の文化だよね。お祭りって言い換えてもいいかもしれない。先輩に憧れて、自然と俺らもそうなりたいと思って。それを次の世代につなげていく。「DIGGIN’ UP THE ROOTS」には若い世代も遊びに来るイメージがあるよ。いろんなバンドがあって、いろんなアーティストがいて、お店もある。全部の感覚で楽しんでほしいよね。
H 小さな子どもにとって、はじめてのライブになるような場所。はじめてのライブがここだった記憶に残るような時間。子どもがいるからって、なかなかライブに行けなかったという人たちにも来てもらいたい。
––– そういう音楽や文化の場作りをしている野外フェスもあるだろうけど、東京などの都市部では少ないかもしれないですね。
H 天候のことだったり、持っていく装備のことだったり、野外ってハードルもあるじゃないですか。その意味では、ベイホールは俺たちにとっては最適の場所であり最高の場所なんです。ライブだけじゃない、他の楽しみもある場所になればって思っています。子ども用イヤーマフの無料貸し出しも行うんですけど、少しでも参加することに対してネックになりそうなことは取り除きたいなって思っています。俺たちも子どもがいる世代になったし、遊びに行こうかって思う人に対して背中を押してあげられればなって。
––– 子どもの耳を守るということ。
H 子どもを肩車して前まで行っているのを見ると、大丈夫かなって思っちゃうんですよ。イヤーマフを子どもが付けていたら、ライブをしているミュージシャンも安心できるっていうか。一番いい音、一番いい場所で見せたい、楽しみたいっていう気持ちはわかるんです。ただステージのミュージシャンに気を使わせたくないし、PAさんにも気を使わせたくないし。
R 子どもが長時間ライブで大きな音で聞いていると、高いレンジとか将来聞こえずらくなる心配もあるし。
H 普段からイヤーマフをしている子どももいる。今回もそんな子どももたぶん来てくれる。自閉症だったり、何らかの理由で普段からつけている子ども達。その子ども達がつけている意味を感じてもらえたらうれしいし、それが特別なことじゃないよっていうことも伝わっていくといいですよね。
––– 本当に、みんなが楽しめる場所を作っていくこということ。
H 楽しかったというはもちろん、ひとりひとりの心に、なんか一個でも入るっていうか。
R それがイベント「DIGGIN’ UP THE ROOTS」の意味だよね。俺たちが思った意味を感じてもらう。後から「このタイトルって、こういうことだったのか」ってわかってもらえるかもしれないしね。
––– 今回が1回目で、続けていこうと思っていますか。
H 続けていこうと思っています。続けていきたいと思っています。続けていくなかで、新しい世代も入ってくるだろうし、新しいジャンルも入ってくるだろうし。そして参加してもらって、横浜の文化、神奈川の文化に興味がある若い人たちが生まれてきたらうれしいですね。俺もそれを先輩達から受け取ってきたし、それによって今があるし。子ども達、若い世代にとって、そんな場所になってもらえたらなって。
R 若い頃に受け取ったイメージって、すごく残るはずだから。そして根を絶やさないようにしたいね。
開催日:2024年11月9日(土)
会場:BayHall yokohama(神奈川県横浜市)
LIVE:Rickie-G、CHAN-MIKA BAND、Youth of Roots、AOZORA、瑛人
DJ:HOMERUN SOUND、naruho(AFRO TACOS)、KEN5(MEATERS)、Ace Souljah(Cool Runnings)、TKC(LION HOUSE)、CHIRO
LIVE PAINT:TADAOMI SHIBUYA、KIRARIN、JUNK-R、YONABE(IKKO TORCIDA / ZONZAI / HATAKE / GOSPEL)
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