マクラメが もたらしてくれた結び。【麻太朗(大衆処いときち)】

麻太朗(大衆処いときち)
鍵はおろか扉さえ閉じられることはほとんどない。常に人を迎え入れる「いときち」という大衆処。人と人、場所と人を結ぶ願いがその名前には込められている。下ろされていたシャッターを開けることによる活性化ビジョン。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi

写真 = 宇宙大使☆スター photo = Uchu Taishi ☆ Star


ー 伊豆に来たきっかけを教えてもらえませんか。

 伊豆に来る前は茅ヶ崎に住んでいたんです。当時付き合っていた彼女がパーマカルチャーをやっていて、パーマカルチャーをやれる土地を探そうということになって。候補としてあがったのが北海道と南伊豆だったんです。3週間くらいの住み込みのバイトを見つけてこっちに来たんですね。来てみたら、すごいいい土地だなって思って。それで敷金礼金なしの月3万円の家を見つけて、すぐに越して来たんです。9年前のことです。


ー 東日本大震災の前ってことですよね。そしてしばらくして大衆処いときちをオープンさせた。

 『スペクテイター』が震災後に出したのが「これからの日本について語ろう」という特集号だったんです。そこで藤原辰史さんという東大講師の方が「未来のための公衆食堂」というようなことを書かれていて。この記事に感動しちゃって、閉まっているシャッターを開けちゃえばいいんだって単純に思ってしまって(笑)。


ー それで物件を探して?

 でも食堂はできないから、コミュニティスペースにするのがいいかなって考えて。なんかコミュニティスペースという横文字にするのも嫌で、日本語にしたら大衆処なのかなって思って。最初のコンセプトとしては「いらっしゃいませ」と言わないお店。お店には財布のなかを見てから入るじゃないですか。お茶一杯でもご飯でもTシャツ1枚でも。そういうお店ではなくて、入りやすい、風通しのいい店にしたかったんですよね。「こんにちは」って言える店にしたくて。


ー それで本であったりレコードというものが浮かび上がってきたんですね。

 本やレコードをきっかけに、共通の話題が作れたりするじゃないですか。その人の趣味が感じられるというか。だから本とか音楽っていうのは、それだけ大きな武器というか、人を結ぶきっかけになると思うんです。

ー シャッター街、田舎の商店街に実際にお店をオープンさせて思ったこととは?

 地元の商店街だと1階がお店で2階が住まいってことが多いんですよね。それだけ暮らしが密接している。それが商店街のおもしろさだって感じましたね。それとお店の前は、広い道でもないし歩道もない道なんだけど、車がものすごいスピードで飛ばすんです。それってシャッターが下りているからですよね。お店が開いていて、人が歩いていたらスピードは落ちる。スピードが落ちれば見えてくるものも違う。もうちょっとゆっくり生きようとって思いますよ。


ー 不在のときでも鍵だけではなく扉も開けたままなんですね。

 取られてしまったとしても困るものはないですから(笑)。


ー 移住してきた当初からイベントも企画していましたよね。

 来た次の年にやっていましたね。〈地球縁日〉っていうイベントをキャンプ場を借りてやって。 2回目のときは震災後だったから電気を使わないイベントにして。ライブやイベントになると、めったに顔を出さない人でも山から降りてくるんですよ。音楽ってやっぱり人を集める。商店街には植物園があるんですね。そこでときどきイベントをやっていますよ。

ー 見晴亭のことは来てから知っていったのですか。

 ヒッピーがこのエリアに多いっていうことをなんとなく知っていたんですけど、そのバックボーンをいろんな人から教えてもらったりして。見晴亭をきっかけに伊豆に来た世代、いわば学生運動時代の人たちですけど、見晴亭が終わってもここから離れていかずに住み着いた。その子どもがちょうど30代に入った頃なんですよね。その2世たちがいて、移住してきた俺らともつながっていく。それがすごくおもしろいなって思っていますね。


ー オーガニックやエコロジーといった視点も、あの時代、カウンターカルチャーの時代に生まれたものだし。

 見晴亭という時代、そして今。時間も人も、ここでは他の場所よりも深くつながっているなって感じますね。


ー その文化が根付いているところが伊豆南の魅力なんですね。

 冬の寒さは短いし、本当にいいところですよ。しいて言えば湿気があることがマイナス点ですかね。特にうちは中古の本とレコードが多いですから。


ー ところで「いときち」というのはどんな意味が込められているのですか。

 糸偏に吉で結ぶ。結という文字をばらしただけ。あとは麻の手編みアクセサリーも作っているから「ロープクレイジー」という思いもあるんです。


麻太朗(大衆処いときち)
上野アメ横時代に麻素材によるマクラメ(編み)アクセサリー作りをはじめる。2010年に南伊豆に移住。新しいつながりを模索し、イベントやライブを企画。2012年に「大衆処いときち」をオープン。現在も、第4金曜日は両国にあるメルヘンアートでマクラメのワークショップを行っている。手前味噌作りも定期的に開催し、次回は11月16日15時〜@スパイスドッグ(下田)、11月17日14時〜大衆処いときち(南伊豆)、18日ぐるぐる(伊東) で予定されている。http://itokichi-minamiizu.tumblr.com/


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