新島という第二の故郷で見つけたかけがえのない時間。【WAX 東京都新島 オオノケンサク】

WAX 東京都新島 オオノケンサク


旅する心をくすぐる「島」。船や飛行機でしか行けないという不便さが、その気持ちを大きくしてくれるのだろう。新島という東京の島。そこには大都市・東京とは違う自然が残されている。島の新しい発信としてスタートしたWAX。14回目を迎える今年の夏が、WAXとしては最後の夏となる。

文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano

写真 = 北村勇祐 photo = Yusuke Kitamura


ーそもそも新島と関わりを持つようになったのはどういうきっかけからだったのですか。

ケンサク 出身が日体大で、ライフセービング部なんです。僕が大学にいた90年代中盤、日体大のライフセービング部の精鋭たちがアルバイトで夏の間に新島へ行っていました。新島はサーフィンのメッカであり、波も大きい。僕も1年から4年まで毎年。93年から96年です。


ー夏の間、長くいることになると、それだけ島の人たちとの付き合いも深くなっていった?

ケンサク 夏の40日間だけではもったいないと思って、秋とか冬とかにも勝手に行っていたんです。そしてある家族と仲良くなって、家に泊まらせてもらえるようになって。


ーその関係から〈WAX〉へと繋がっていったのですか。

ケンサク 大学を卒業して、しばらく海外に行っていたんですね。そして2000年に日本に戻ってきて、数年ぶりに第二の故郷といえる島に戻ってきたら、わずかな時間でしかないのに島の賑わいがずいぶん変わっていたんです。遊びに来る人が少なくなって。それは2000年の震度6弱を記録した地震の影響も大きかったんですけど。僕は海外にいたから地震のことは知りませんでしたが。〈anoyo〉が中止になった地震ですね。それで島をどうにかして盛り上げたいと思って、島で何かをやりたいってことを、いろんな人に話したんです。アーティストで一番最初に声をかけたのはシアターブルックの佐藤タイジさんでした。タイジさんは、何かやるのなら協力してくれると言ってくれて。僕はイベントをやったこともないし、お店をやったこともない。何がいいのかわからないまま、4年間くらい、新島のために何かをやりたいってずっと言っていたんです。


ーそして〈WAX〉がスタートした。

ケンサク 湘南の辻堂にSPUTNIKという海の家があったんですけど、こういうのが新島にもあったらいいなって思って。人を呼べる何かをやりたい。サーフィンやトライアスロンのようなスポーツのイベントでも良かったんです。だけど、大会だと3日間とかで終わっちゃう。そうじゃなくて、ずっとできることがないかなって。フェスのような、ビーチラウンジのようなものができないのかなって思って。短期ではなく夏の間、音楽の力を借りて続けられるんじゃないかって。それで2005年になったときに「今年だな」って思って、書いたこともない企画書を作って、いろんなところを回ったんです。

ー場所のめどはあったのですか。

ケンサク 場所もそこから見つけて。まったくノープランですよ(笑)。とにかく新島を盛り上げたいという熱意だけ。


ー〈グリーンルームフェス〉がスタートしたのも2005年。時代の風向きがあったのかもしれないですね。

ケンサク 熱さって本当に必要なんだなって思いましたね。熱さだけで仲間を作って、そしてそれが飛翔して言って。初速が大切だっていうことも感じました。動きはじめればどんどん加速していく。


ー毎年続けていく強い意志はどんなところから生まれてきていたのですか。

ケンサク いろんな人に支えてもらっているからこそ簡単には止められないっていう思いなんでしょうね。だけどやめることは簡単なんですよ。だって「やめます」って決めればいいわけだから。


ー新島のどういうところに魅せられたのですか。

ケンサク 人と自然ですね。海もあって山もある。そしてそれが東京なんですよ。船だと確かに時間はかかりますけど、距離としたらわずかです。はじめて来たときに見た島の風景のきれいさは、今も心に残っていますから。


ー夏の間、ずっとやっていた〈WAX〉を今年で終える。それはどういう理由からそういう結論になったのでしょうか。

ケンサク 〈WAX〉は自分だけではなく、島の仲間と作っています。もうそろそろ終わりというお尻を決めたいと島の仲間から言われて。〈WAX〉の仲間ってみんなボランティアなんですね。14年やってきて、それぞれに家族も増えて、無理はできなくなってきたということだと思います。立ち上げたときは僕もみんなも無理をしていましたけど、無理を続けたくないっていう気持ちは痛いほどわかりますから。区切りっていうのは絶対にあるわけであって。〈WAX〉は僕ひとりのものではなく、作っている仲間みんなのもので、自分ひとりで続けられるものではないと、最初から感じていましたから。自分の独りよがりではなく、島の人のためにどうなることがいいのか。


ーその意味では最初からやめる覚悟があったからこそ、14年も続いたように思います。

ケンサク そうかもしれないですね。島では夏がはじまるっていうことがもっとも大きなイベントなんですよ。かつてはライフセーバーの人たちが来たら夏がはじまるって言われて、いつしか〈WAX〉で夏がはじまるって言われるようになって。それって島に根付けたような感覚があって、本当にうれしかったんです。


ー最後の年、どんなことを考えていますか。

ケンサク 通常の〈WAX〉としては特別なことは考えていないですよ。いつもの夏と同じように、島の人も、外から来た人も、仲間も楽しんでもらいたい。ただ何かを残したいなって思っていて、〈WAX〉のドキュメンタリー映画を撮ろうと思っています。〈WAX〉の、新島の14年間のキセキ。その資金集めのためのクラウドファンディングをスタートさせたところなんです。


ー最後に〈WAX〉はケンサクさんにとってどんな存在でしたか?

ケンサク いろんな人に出会って、いろんな人に協力してもらって、人の大切さを感じさせてもらったところです。本当に人の支えがなかったらここまでやれてないですよ。一歩踏み出すことでいろんなことが生まれた。〈WAX〉は今年の夏で一旦ピリオドを打つけれど、人と人とのつながりはこれからも続いていくし、新島との関係も続いていきます。


WAX
7月14 (土)〜 9月2日(日)
OPEN 19:00 / CLOSE 23:00 *火~木 CLOSE(お盆は除く)
www.wax2005.com

インスタグラム @waxniijima にてリアルタイムで発表。島の夏をドキュメントする映画製作のためのクラウドファンディングが開始されている。

0コメント

  • 1000 / 1000