過疎が続く小さな集落との出逢い。新潟県の越後妻有エリアで3年に1度開催されているトリエンナーレ。ライブペイント・ユニットGravityfreeと空間工作人のBubbによる「DEAI」は3度目の夏となる。太田新田という小さな集落に関わるようになって8年あまり。都市からの発信ではない何かが見えてくる。
文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
写真 = 林 大輔 photo = Daisuke Hayashi
太田新田という場所と人との出逢い。
ー 最初に太田新田の「DEAI」になる家を見たときは、どんなことを思いましたか。
DJOW 冬に来たんですけど、すげえところで暮らしているんだなって思いましたよ。
8G それまでも隣の十日町には来たことがありましたけど、十日町よりもはるかに雪深くて。
DJOW できればここでやって欲しいということでしたね。僕らには場所を選ぶ余地はなかったような印象でした。この家は、僕らと同じ年なんですよね。築40年あまりのなんの変哲もない家。厳しい冬との暮らしがあった家。
ー その家を題材にすることでコミュニティというテーマが持ち上がっていった?
DJOW はじめて〈大地の芸術祭〉に行ったのは、 KEENの方に誘われたからだったんです。過疎地域を盛り上げるためにおもしろいことをやっていると。それでいろんな作品を回って、そのひとつが「脱皮する家」でした。「脱皮する家」では近所の地元のおばちゃんたちが、受付をしたりして、面倒を見ていたんです。自分で作ったお新香やお茶を出してくれたりもしていた。その雰囲気がすごくよくて、〈大地の芸術祭〉に自分たちが参加するのであれば、それが理想の形だなって思ったんです。太田新田なら太田新田という集落の人とこの地域の人が共有できる形になっていったら、おもしろくなっていくんじゃないかなっていう思いが生まれて。コミュニティハウスを作る。その思いがあって、空き家がないだろうかって提案を〈大地の芸術祭〉にしていたんです。
8G 有名なアーティストさんの作品であれば、それを見たいとお客さんは集まってきます。それはそれで成り立っているんだと思うんですけど、僕らはそうじゃない。コミュニティハウスであれば、もっと自分たちも身体を使って関係を作っていくことが大切なんじゃないかって。集落に入り込む必要があるんじゃないかって思って。
ー 〈大地の芸術祭〉としては3回目の夏です。7年とか8年という時間をかけて、ふたりは地域との関係を構築してきた。
8G 構築できているのだとしたら、それは僕らだけではなく、「DEAI」のもうひとりのアーティストであるBubbさんとか、手伝ってくれた多くの人がいてくれたからです。
DJOW 地域の人が「やりましょう」ってすぐにならないところがあって、少しずつ関係を築いてきていることが、今につながっているのかもしれないですね。
長期にわたって作品を更新していくコミュニティ。
ー「DEAI」というタイトルに込めた思いとは?
DJOW 「DEAI」って「出逢い」なんですよ。出喰わすっていうか。暖簾がそうなんです。暖簾を「DEAI」という作品に考えていて。自分たちでオーガナイズした〈ARTh camp〉という野外フェスで、暖簾の迷路のようなインスタレーションをやったんです。暖簾のなかに入っていって、誰かと出喰わすという遊びをやって。暖簾をくぐると別の次元に入ったりするじゃないですか。その感覚がおもしろいなって思っていて。
8G 暖簾って境界的なものもあるじゃないですか。例えば扉と似ているかもしれないんだけど、扉とは違って、目隠ししつつもオープンな感じがしますよね。
DJOW 暖簾を開けて入る感じっていいじゃないですか。
8G だから最初のラフ案では、部屋ごとに暖簾を描いていたんです。
DJOW 暖簾で仕切られた部屋がいっぱいあるようなね。ここってみんなの意見でできているんです。決して、うちらふたりだけのものじゃない。Bubbさんやバイブレーションズのメンバーも作りつつ、みんなで話し合ってこうなったんですね。
ー1回目の2012年のときは家の内部をリノベーションして、 2015年の2回目は家の外壁を変えた。2回目で完成に近づいた感があったのですか。
DJOW 2回目も、僕個人としては不完全燃焼の気持ちが残ってしまったんですね。6月から7月にかけての天候が悪かったこともあって、じっくり描けなかったということもあって。
ー部屋の壁に掲げられている川のような絵は?
8G あれは2回目に描いたものじゃなくて、1回目と2回目の間の年に描いたものなんです。その年は〈大地の芸術祭〉としての開催はなかったんですけど、「DEAI」を何日かオープンしたので。
DJOW 中津川銀河というタイトルです。太田新田を流れている川の形を地図で調べて。
8G 絵の一番上が信濃川と合流するところ。下が上流の秋山郷です。赤い点が「DEAI」という設定なんです。
ー一カ所で長期にわたって作品を更新し続けていくということははじめての経験ですよね。その意味で「DEAI」はふたりにとって作品という感覚なのですか。
DJOW 作品ではあるんだけど、作品を通した何か。
8G 絵の作品とは違う、完成の見えない作品ですよね。
DJOW 不思議ですよね。僕らが中心でやってきましたけど、みんなが参加することでできあがっていったものだし。みんながいたからこそ作ってきたんだなって思えるし。だから作品っていう言い方が正しいのかどうかわからないんです。コミュニティハウスには違いないと思うのですけど。
8G 僕らだけではなく、いろんな人が来てくれて、地元の人も関わってくれている。だから自分たちのものではなく、回りはじめているという感じもしているんです。
ー開催前の地元説明会では、受け入れてもらえない意見もあったと記憶しています。太田新田の人たちに認めてもらえたって実感できたのはいつ頃?
8G 今でも賛成ではない人もいらっしゃると思います。
DJOW 何かをやらないと限界集落のこの集落は変わっていかないし、集落が無くなってしまうことを待つだけだなって思っていて。1回目のときはすごく距離感を感じて、2回目のときはだいぶそれが縮まってきたなって。集落の方から、何か手伝いますからって言われたのが、今回がはじめてなんです。
ー夏のお祭りに参加するとか、芸術祭には関係なくともふたりは来ていたから。
DJOW 8年も通っているんですからね。自分たちにもそれを課したところがあって。冬の間はなかなか行く機会がないからってどぶろく作りを企画したり。
8G 何かと理由をつけて、ここに来て、みなさんに会いに来ていましたから。
ー印象的なマークは何を意味しているの?
DJOW わらの継ぎ目ですね。
8G よーく見ると、あの形が現れてくるんです。それをデフォルメしてデザイン化したものでなんです。
過疎の村から見る日本の未来への視線。
ーふたりにとって「DEAI」はどういう存在だったのですか。
DJOW 僕の場合はコミュニティであることなんです。ここに集まる人がいて、ここで学ぶことも多い。ここではじめて聞いたことも少なくない。ここではじめて体験したこともかなりあります。ここがあったから今の自分たちがあるんだと思います。農業に対しての考え方もそうだし、社会構造も田舎から見る世の中もあるんだっていうことを教えてもらったし。まだまだここで学ぶことって多いと思います。
ー過疎化している社会っていうのは、もしかしたら日本の未来かもしれない。都市から見るものとは違うものが必ずある。本来、日本を支えなければならない視点っていうものは、田舎から見たものかもしれない。
8G 広い視点で考えると、東北の被災地とあまり変わらないのかなって思うこともあるんです。人口が減っていく部分では似たような状況なのかなって。津南の隣町である長野県栄村は、東日本大震災の翌日に震度6強の大地震を経験しています。津波によって人が住めなくなってしまった地域と自然現象で人が少なくなってしまっている地域。問題の本質は近いように感じます。
DJOW 両方とも自然現象ではあるしね。僕らは宮城県の牡鹿半島でも「いぶき」という古民家再生プロジェクトに関わっているんだけど、「いぶき」に近い感じがします。地元の人がもっと関わるべきだと思うんだけど、それはもしかしたらそこに住んでいない人間のエゴかもしれないし。
ー長期的に関わっている場所としての「DEAI」。進行形として関わっていくことの大切さを、この「DEAI」からは感じ取っています。
DJOW これから太田新田という集落をどうしていけばいいのかっていうことをみんなで考える。そのひとつのきっかけに「DEAI」がなれていればいいなって思うんです。未来のことを、この集落の人たちも考えているから。
8G みんなが納得する答えは見つからないかもしれないけど、人と人が出会うことで、何かが導き出せるかもしれないですからね。
大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2018
7月29日(日) ~ 9月17日(月)
出逢い DEAI - Bubb & Gravityfree with KEEN
過疎高齢化の進む日本有数の豪雪地・越後妻有(新潟県十日町市、津南町)を舞台に、2000年から3年に1度開催されている世界最大級の国際芸術祭。300を超えるアーティストが、集落や田んぼ、空き屋、廃校などをキャンバスにして表現している。アーティストと地域のボランティアなど、人と人、人と大地の新しい繋がりを感じさせてくれるアートプロジェクト。「出逢いDEAI Bubb & Gravityfree with KEEN」は津南町太田新田の誰も住まなくなった民家をコミュニティハウス機能を兼ねたコンバージョンアート作品として、前々回の2013年に初公開された。9月8日(土)9日(日)には『中津川銀河をゆく天体宇宙観測&夜のDEAI(初公開)』を実施。現在のスタイルでのDEAIの公開は、今回のトリエンナーレが最後になる予定。
http://www.echigo-tsumari.jp/triennale2018/
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