レイドバックした時間を楽しむ約束の場所。【Hyde Park Music Festival 2023(麻田 浩)】

アメリカの雰囲気が漂っていた狭山という町に、70年代には多くのミュージシャンやアーティストが移り住み、数多くの作品を生み出していった。時代を経てもその輝きは失っていない。


文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi  
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko

–––– 麻田さんが狭山で暮らしはじめたのはいつ頃だったのですか。

 1971年です。


–––– 50年になるんですね。

 そうなりますね。狭山に最初に引っ越してきたのはWork Shop MU!!というデザイン事務所の3人だったんですね。真鍋(立彦)くん、奥村(靫正)くん、中山(泰)くん。中山くんはその後に大滝(詠一)くんのナイアガラの仕事をして、奥村くんはYMOの仕事をして。真鍋君だけは音楽ではなくドゥファミリィっていう洋服屋さんのデザイン。彼らに「麻田さん、僕らが住んでいるところはおもしろいから見に来てよ」って誘われて。まだ米軍基地があった時代。関越道 はなくて所沢街道を走って来た。来てみたらすごくいい場所だった。コミューンとまでは言わないけど、芸大の人をはじめとしてアーティスティックな人も多かった。東京のウッドストックという表現だとちょっと大げさかもしれないけど、そんな雰囲気もあって。米軍ハウスを安く借りられたから、すぐに引っ越して来たんですよ。のちに「『HOSONO HOUSE』をレコーディングした細野さんの家はどこですか」って訪ねてくる若い人もいましたね。


–––– 米軍基地があって米軍ハウスがあって。町にアメリカの匂いがあったのですか。

 <ハイドパーク・ミュージック・フェス>を開催する稲荷山公園は米軍基地の一部で、僕らはここに入られなかったんだけど、フェンス越しに見た風景はアメリカでしたね。独立記念日の7月4日だけ入ることができて。確か円をドルに変えて。レストランがあって、そこではバーベキューをしていたり。カントリーバンドが演奏していて米軍人たちがスクエアダンスをしていたり。


–––– 麻田さんにとっても憧れの場所だったのですか。

 そうですね。ハウスに住むっていうことも、僕らにとっては憧れでした。

–––– その稲荷山公園でフェスを開催しようと思ったそもそものきっかけを教えてください。

 細野(晴臣)くんや(小坂)忠といった狭山で暮らしていたミュージシャンだけではなく、自転車屋さんとか歯医者さんといった地元の人たちとも遊んでいました。そんな小さな頃から狭山で育った人たちから、「稲荷山公園でライブをやってもらえませんか」って相談されたんです。忠とはその前から稲荷山公園で何かやりたいねって話していたこともあったし、細野くんと忠に相談したら、「やりましょう」ってすんなり言ってくれて。それで動き出したんです。


–––– そして2005年と2006年の2回開催されました。

 2年目に赤字が出てしまって。主催の仲間たちは、ほとんどが音楽関係ではなかったんですね。2年で終わってしまったんだけど、ずっともう1回開催したいと思っていました。そのときはまた細野くんと忠に出てもらって再開したいなって。昨年、残念なことに忠が亡くなってしまった。できるだけ忠の命日に近い日にと思って4月に決めたんです。

–––– どんなフェスにしたいと思っていたのですか。

 1967年にアメリカ東海岸のロードアイランド州で開催された<ニューポート・フォークフェスティバル>を見に行ったんですよ。それが僕の最初のフェス体験でした。いろんな人が出ていて、いろんな世代の人が楽しんでいた。そんなフェスが日本にもあればいいなって。


–––– それは17年ぶりに開催される今回も変わっていない?

 もしかしたら17年前よりも、日本のフェスは若い人向けになっちゃっている。そうじゃないフェスがあってもいいんじゃないかって。目標というか目的は、ベテランが若い人の音楽を聞いて、若い人がベテランの音楽を聞く。


–––– それこそが、麻田さんがアメリカで体験したフェスの魅力だったと。

 フェスがいろいろな場所で開催されている今だからこそ、やるのであれば他と差別化していかなきゃと思っていて。そのひとつがリラックスした感じで音楽を楽しんでもらえるようなフェスであること。芝生が広がっているから、寝転がってもらっててもいい。ゆったりとした感じで聞いてもらえるといいなって思っています。


–––– 狭山、あるいは会場の稲荷山公園の魅力は、どんなところにあると思いますか。

 西武線が通っていて、駅からすぐ近くにあって。東京からそんなに遠くないのに東京とは違う時間の流れみたいなものがある。こんなにいい環境の公園ってなかなかないと思うんです。何もない公園なんだけど、何もないっていうことが僕はすごくいいことだと思っていて。フェスを通して、この町やこの公園の魅力も発信していければと思っています。



Hyde Park Music Festival 2023
かつてハイドパークと呼ばれ、市民に親しまれていた狭山稲荷山公園。米軍のジョンソン基地があったことで、どこかアメリカの匂いを感じさせてくれた町。この町のハウスに暮らしていた細野晴臣や小坂忠を中心に、2005年と2006年に開催された。今年、17年ぶりに復活。HMF 2023 の応援プロジェクト(クラファン)を4月29日まで実施中。

開催日:4月29日(土)30日(日)

会場:狭山稲荷山公園内特設会場(埼玉県狭山市)
出演:
4月29日(土)
ムーンライダーズ、田島貴男(Original Love)、EGO-WRAPPIN’、在日ファンク、サニーデイ・サービス、パスカルズ、トクマルシューゴ、笹倉慎介、加藤和彦トリビュートバンド、ほか
4月30日(日)
SION with Kazuhiko Fujii、佐野史郎バンド、民謡クルセイダーズ、踊ってばかりの国、関口スグヤ、いーはとーゔ、イーノマヤコ、ハイドパーク・キャバレー・バンド、小坂忠トリビュートバンド、ほか

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