東北にフェスカルチャーを根付かせることを目的にはじまり、いつしか東北を代表するフェスに成長していった。その東北のフェスの灯火をともし続けていくために。
文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi 写真= ARABAKI ROCK FEST./菊地 崇
–––– 菅さんが<アラバキ>をはじめようとしたそもそものきっかけから教えてください。
80年代から90年代にかけて、宮城県のスポーツランドSUGOというところで<ロックンロールオリンピック>というイベントが開催されていたんです。
–––– RCサクセションが出演した初回に行きました。
僕は出身が福島なんですけど高校時代に行ってました。コンサートの仕事をするようになって、THE YELLOW MONKEYのアテンドで久しぶりに行ったんです。バンドブームが落ち着いちゃった時期っていうのもあったのか、お客さんも寂しくて、高校時代に見た光景とは違っていました。このロックイベントの終焉をなんとなく感じたんですね。同時に、いいタイミングが来たら東北で大きなイベントを作りたいって思いはじめて。しばらくしてルースターズの花田裕之さんと飲む機会があって、花田さんが「ニューオーリンズのフェスに行ってみたらいいじゃん」と言ってくださったんです。
–––– <ニューオーリンズ・ジャズ・フェス>ですか?
そうです。そして23歳のときに行ったんです。音楽はもちろんのこと、異文化交流がなされていて、複数のステージが同時に開催されている。独特な食文化の屋台も出ていたり。
–––– ザリガニ料理も出ていますよね。
フェス全体の雰囲気にショックを受けたんですね。そしてこれを東北風にアレンジしたらおもしろい場所になるんじゃないかって。
–––– 当時の日本には、野外コンサートはあっても今のようなフェスのスタイルはなかった?
なかったですね。97年に<フジロック>、99年には<ライジングサン>がスタートし、<アラバキ>も動きはじめていったということが経緯なんです。
–––– 2001年に初開催して、どんな手応えがありましたか。
インターネットはそれほど普及していませんでしたから、多くの人が海外で展開されているフェスの文化を知らなかった。その意味では、東北のお客さんにとっては新鮮だったと思います。いっぽうで多くのお客さんの目的は特定のアーティストだったというのも否めなかった。
–––– 好きなアーティストを目当てにするのではなく、フェスという時間を楽しんでもらいたいと。
初年度に開催した夢メッセなどの屋内会場がそんな雰囲気にさせてしまったのかも。時間がかかってもいいので、いい場所を探して、何年後かに着地できたらいいなって思っていました。
–––– そして出会ったのが、今も開催されているみちのく公園だったのですね。
みちのく公園に移ったのは2006年なんですけど、公園の半分はまだ整備段階でフルオープンするのが2010年ということをお伺いして。2010年は<アラバキ>の10周年でもあり、一緒に場所を開拓していくことができるんじゃないかって。
–––– 会場が広くなったことで、多様なコンテンツを入れることができるようになったのですね。
とにかく、東北に特化したことをやりたいと思っていました。東北6県の名前が付いたステージが6つあって、それぞれが違うロケーションのなかで、それぞれの特徴を持ったライブが展開されていく。ライブ以外にも、ユネスコ無形文化遺産に指定された秋田の西馬音内盆踊やみちのくプロレスを入れたり。
–––– コロナ禍によって<アラバキ>は2年中止となりました。
ありがたかったのは、会場の川崎町の町長さんを含めて、行政のほとんどの方が開催賛同派だったんです。開催しないでくれっていうことではなく、どうやったら開催できるのかっていうことを一緒に考えてくれました。結果的に2年連続して中止になりましたけど、前に進めるための議論は、去年に、そして今年に継承できているのは大きいですね。
–––– 開催へのモチベーションはどこにあるのですか。
東北でも灯ったものを消したくないという思いもあります。震災の年と同じように、応援してくださる方が相当数いました。それはミュージシャンも。一言で言ったら、応援してくれる人がこれだけいるんだから自分も頑張らなきゃなっていうこと。
–––– 菅さんにとってフェスとはどんな存在なのですか。
フェスが音楽イベントやロックイベントのことを指すようになったということは、フェスという新しい文化がちゃんとできている。このフェスの文化をどう継承させていくのか。<アラバキ>が大事にしたいのは、開催している場所が東北であるということ。景色も食べ物も空気も文化も、東北の全てに自信を持って継続していかなければいけないと。
–––– 今年、お客さんに対してどんなことを期待していますか。
今年ようやく<アラバキ>のあるべきスタイルに戻すことができると思っています。その<アラバキ>を、とにかく楽しんでほしいですね。それにつきます。
ARABAKI ROCK FEST. 232001年に初開催。2006年から現在のエコキャンプみちのくを会場とするキャンプインフェスとなった。東北6県を元にしたステージを有し、コロナ前は6万人ものファンを集めていた。コロナ禍で2年中止。昨年はステージ数を減らして3日間で開催された。今年はおよそ100組のアーティストがラインナップされている。
開催日:4月29日(土)~30日(日)
会場:みちのく公園北地区エコキャンプみちのく(宮城県川崎町)
出演:SHISHAMO10周年スペシャル、MICHINOKU PEACE SESSION 奥田民生 アラバキ★ライダー、堂島孝平 × SLENDERIE RECORD presents また帰ってきた! 春のヒットスタジオ、奈良美智(DJ)、ほか
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