ローカルな部分にこそ残されている町の個性。【結い市/結いのおと(野口純一)

街中マルシェ・街中フェスという新しいスタイルで多くの人を集めている茨城県結城市。それぞれの町にある魅力をどう発信していくか。場作りを継続させることで波紋が広がっていった。
文・写真 = 菊地 崇  text・photo = Takashi Kikuchi


–––– 出身が結城だったのですか。

 結城ではなく古河なんです。同じ茨城の県西エリアではあるんですけど。20代の頃は東京で、いわゆるファッション畑にいたんですね。それで田舎に帰ることになって、運良く入ることができたのが結城市の商工会議所だったんです。実家から遠くはなかったんですけど、結城には来たことがなくて。商工会議所って地域の総合経済団体という立場で、地域振興も役目のひとつっていうこともあったんです。

–––– そして〈結い市〉を企画した?

 十数年前には、マーケットやマルシェってそんなに開催されてなかったんですね。マーケットを結城で開催して、そのなかにアート的な取り組みもプラスさせていく。マーケットを通して、クラフトや音楽といったカルチャーを町に根付かせることで、地域の活性化につながるんじゃないか。それで市に対してプレゼンしたのが〈結い市〉だったんです。

–––– 1回目の出店者はどのくらいあったのですか。

 神社の境内をぐるっと囲むスタイルで、30店舗でした。1回目って雨だったんですよね。けれどすごく伸びしろが見えた。やったことで、もっともっと温めて育てていきたいなって思ったんです。

–––– 温めていきたいっていうのは、どんな部分だったのですか?

 出店してくれた作家さんやお店の人たちが結城の魅力を受け取ってくれたこと。自分としては〈結い市〉をやったことで町の課題がより見えてきたんですね。マーケットってある意味では個人をフィーチャーすることじゃないですか。地方は街の代謝が滞って、商店街のお店には跡継ぎができないまま、店は閉まっていく。チャレンジできる若い人材を街に誘致していきたい。それが結果として町の活性化になるわけですからね。〈結い市〉がそのひとつの起爆剤というか、きっかけになればいいなと思ったんですね。

–––– 2年目で変えたところというのは?

 地域との関係性がもっと深くなるような取り組みをしたいねっていうことになったんです。それでシャッター通りと言われている商店街に着目して。結城の街中には古い建物も

多いんです。シャッター通りは街の負債って言われているけど、資産になるんじゃないかっていう逆転の発想。シャッターで閉じられてしまったお店を開けてもらって、そこに作家さんに出店してもらう。マルシェって広場とか空き地で開催されることがほとんどじゃないですか。そうじゃなくて、結城という街を会場にできないか。作家さんにとっては商いの可能性を〈結い市〉で感じてもらえることになるし、家主さんにとっても自分の場所がどうやったら使われていくのかっていう意識改革につながっていく。〈結い市〉で閉じられていたシャッターを開けたことで、どんどんいい方向に連鎖していったんです。

–––– 街を会場にするっていうのは新しい発想だったと思います。その〈結い市〉でのシャッターショップは多い年は年店舗くらいになったのですか。

 40店舗くらいでした。そこに作家さんは100組くらい。同じ店舗に何人かの作家さんが入るケースもあるんです。古い建物ですから個性も出しやすい。同居する作家さんが「こ

ういうコンセプトにしよう」なんて話し合って。だから、作家さんにとっても、〈結い市〉は特別なマーケットになって、〈結い市〉だけの作品展開ということも多かったんです。

–––– 何年ぐらいして形になってきたというか、まとまってきたと実感できたのですか。

 4年ぐらいかかりましたね。継続することでネットワークができていって、何らかの自信もついて。それで〈結いのおと〉を春に開催することにしたんです。1年に1回のマーケットだけで終わらせるのはもったいないなって思って。

–––– 野口さんにとって、結城にはどんな魅力があったのですか。

 どの町にも特徴なり地域性がある。ただ、それがどんどん消えかけているという現実。幸い結城の特徴はいまだに残っていて、身近に触れられるところが魅力だと思うんですね。〈結い市〉も〈結いのおと〉も、自分のやりたいことっていうのが起点としてあります。そんな自分のやりたいことで町に還元するにはどうしたらいいか。ローカルな部分こそ町の個性であって、それを〈結い市〉を続けることで、都市や他の場所から来た人が結城の魅力を身近に触れて感じ取ってくれて、地域の人達も意識が変わってきている。地域を巻き込みながら、ローカルマーケットという場作りを継続的にやってきたことが、ひとつの成果になっていると思います。

–––– 今後はどんな展開を考えていますか。

 〈結い市〉は2019年で10回だったんですね。〈結い市〉はコロナで2年開催できていないし、〈結い市〉の役割として、もうちょっと日常にシフトしていきたいなって思っています。テーマは「毎日が〈結い市〉」。いろんな人が街に溶け込んでくれて、そこにお客さんが来てくれて、週末にはいろんなマーケットが開催されている。結城にはいろんな芽が出てきています。昨年の10月には結城での〈結い市〉はなかったけれど、隣町の小山と連携してマーケットを開催しました。〈結いのおと〉は唯一無二のものだから、これからも続けていきます。


茨城県結城市の歴史的な街並みや地場産業を中心とする営みや暮らしといった街の魅力と、様々な人・モノの縁の結びつきをみんなで構築するマーケットとして2010年秋にスタートした〈結い市〉。2年目以降、シャッターが降りてしまった店舗など街に点在する様々な空間を会場にしたマーケットとして拡張。県内外から2万人以上が集まるマーケットになった。2104年から春に音楽をフィーチャーした〈結いのおと〉も開催。〈結いのおと〉10周年の今年は、初めて市民文化センターを使って行われる。


結いのおと

開催日:4月22日(土)23日(日)

会場:結城市南北市街地(茨城県結城市)

4月22日(土)DAY〈HALL〉11:00-18:00

STUTS、tofubeats、SPECIAL OTHERS、chelmico、toconoma、曜日のカンパネラ、

Mega Shinnosuke、青葉市子、in the blue shirt x ratiff from Neibiss

4月22日(土)NIGHT〈TOWN〉18:00-20:00

Shing02+SPIN MASTER A-1、bird、奇妙礼太郎、MASSAN×BASHIRY(Bandset)、The Duxies

4月23日(日)DAY〈TOWN〉11:00-18:00

THA BLUE HERB、WONK、Skaai、七尾旅人、荒谷翔大(yonawo)、ビューティフルハミングバード(Bandset)、蔡忠浩(bonobos)、SUIKISHA(Bandset)、リュックと添い寝ごはん、kojikoji、さらさ(solo)、dawgss、ONSENGANG



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