〈頂〉が示したバイオディーゼルの方向性。【小野晃義(頂)】

フェスにおいても、できるだけ地球に負荷をかけない。自分たちができることから実践させていく。不要になった天ぷら油をフェスに持って来させる呼びかけは、日常の暮らしとフェスをオーガニックなつなぐ道しるべになったのかもしれない。

文 = 菊地 崇
text = Takashi Kikuchi

ー 〈頂〉では、15年前の開催当初からバイオディーゼル燃料(BDF)を使っていました。どういった流れでBDFを使うことにしたのですか。

小野 FREEKY MACHINEのKENGOが天ぷらの廃油を集めていたんですね。KENGOは自分でも〈エコービーツ湘南〉というフェスをオーガナイズして、電源の燃料にBDFを使っていた。DUBSENSEMANIAのRASTAKASHIはBDFで車を走らせていた。軽油を使うよりもBDFのほうが、はるかに地球への負荷は小さい。やれるんだったらそっちのほうがいいという単純な理由です。


ー お客さんに、自分の家で使った天ぷらなどの廃油を持ってくるように呼びかけています。

小野 最初の数年は、お客さんもピンと来ていなかった印象でしたね。フェスで使う量を来てくれるお客さんの数で割ったら、ひとりあたり500ミリリットルという数字が出て。みんながペットボトル1本の廃油を持って来てくれたらそれでフェスの電源が賄える、だから持ってきてくださいって声かけするようになったんですね。最初はマイカップ、マイキャンドル、マイ灰皿っていう3つをお願いしていたんですけど、廃油も増えた。


ー 1回の〈頂〉では、どのくらいの燃料が必要なのですか。

小野 コロナ前の開催のときは、だいたい4000リットル。ペットボトル1本だったら、バッグに入れて持ってこられるじゃないですか。


ー ただたんにフェスでBDFを使うというだけではなく、みなさんに参加する意識を共有させたことが大きいと思います。

小野 前の事務所には廃油回収所も作って、365日毎日回収のための扉を開けていた。不要になったものを生かす、ちょっとでもアクションする。そんな文化を作りたいと思ったんですね。変化があったのは東日本大震災の後。あれでみんなの意識が一気に変わったように感じましたね。〈頂〉に対する世の中の見方も変わったというか。


ー そもそも〈頂〉をスタートさせたのには、どんなきっかけがあったんですか。

小野 静岡市でライブハウスをやってたんですね。デビッド・リンドレーというスライドギターの名手が2年に1回とか静岡に来ていた。デビッド・リンドレーを静岡に呼んでいる人から相談があって、自分たちだけでできなくなったから手伝ってくれと。それで場所探しからはじめて、4人の仲間とやることになったんです。それが〈頂〉の前身である〈浜石まつり〉。4人はそれぞれ好きなアーティストを他に呼んで。僕はDUBSENSEMANIAを呼び、他には加川良さんとか天空オーケストラとか。小さいけど多種多様な感じ。


ー それが記念すべき1回目のフェス?

小野 それから数年経って、騒音問題などでライブハウスを続けられなくなったんですね。クロージングパーティーをやろうと思ったんだけど、とてもじゃないけどお世話になった人たちが入りきらない。だったらまた野外でやろうと。それが2回目の〈浜石まつり〉。それで野外フェスをやりたくなったんでしょうね。〈浜石〉はキャパが2000人くらいだったから、もっと人が入れるところがいいと思っていた頃に出会ったのが日本平だったんです。地名をフェスに付けちゃうと、場所を変えるたびにフェスの名前も変わってしまう。名前を定着させるのって時間がかかるから、じゃあどこに行ってもいいような名前にしようと思って、〈頂〉にしたんです。


ー 当初からマイボトルなどを掲げていたということは、エコロジーというメッセージも考えていたのですか。

小野 確かに考えていました。ライブハウスもやっていたから、ローカルのお店とは支え合いながらやれていた。それぞれのお店を、そのまま〈頂〉に持ってくるのではなく、その日だけは肉を使わないメニューにするとか、オーガニックの野菜を使うとか。僕らが〈頂〉でやれることって、ローカルに対して自分たちの思いを説明してやってもらう。そうじゃないと広がらないわけですからね。


ー コロナによって2年開催できませんでした。2022年の開催を終えて、どんなことを思っていますか。

小野 やれたっていうことが大きいですよ。ギリギリでしたけどね。考えなきゃいけないことがいろいろありましたから。終わったっていうか、終えられたというか。大きな事故もなく、無事にお客さんを帰すことができた。毎回そうですけど、ほっとしています。


ー 小野さんにとって〈頂〉はどんな存在なのですか。

小野 立ち上げたのは僕だけど、ずいぶん前からですけど、僕個人のものじゃなくなっているんですよね。自分自身はこう思っているけど、〈頂〉的に考えたらこうだろうとか。ひとつの指針を示す場所なんですよね。ブレない場所。僕自身はブレブレなんですけど、〈頂〉だったらこれは無しだなって決められる。最高の音楽を最高のシチュエーションで楽しむ、ゴミは出さない、みんなの笑顔を大切にする。そんな〈頂〉の核となることを最初に決めたんですよね。ここだけはブレない。〈頂〉という存在がなかったら、迷ってしまっていたことも多かったかもしれないですね。


ー ブレないこと、そしてローカルを大切にしてきたことが、15年にわたって愛され続けてきている要因だと思います。2023年も期待しちゃいます。

小野 ありがたいです。期待していると言ってもらっているうちが花ですからね(笑)。


小野晃義(頂)
2008年に静岡県日本平でスタートした〈頂〉。立ち上げ当初から、バイオディーゼル燃料を使うなど、フェスのなかでのエコロジーをいち早く実践し、「地球との共生」というフェスカルチャーの方向性を示してきたフェス。2020年の中止発表後に実施された復活に向けたクラウドファンディングでは700人以上のファンが支援。2022年3年ぶりに開催された。2023年の開催が発表された。
http://www.itadaki-bbb.com/2023/

頂 -ITADAKI- 2023 開催決定

開催日:6月3日(土)4日(日)

会場:吉田公園(静岡県吉田町)


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