何も染まっていなくて、これからどんな色にも染まっていく「生成り」。その色をタイトルにしたKINARI。様々な都市のカルチャーという独特な色を雑誌に加味している。
文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko
ー 創刊したきっかけを教えてください。
彦根 スタイリストをしていました。『KINARI』を発行してくれることになるネコ・パブリッシングでも仕事をしていて、編集長に「自分が思い描く雑誌を作りたい」って、お酒の席で言ったんです。そしたら本当に創刊することになりました。
ー スタイリストだったわけだから、ファッション誌を作りたいと思った?
彦根 ファッション誌ではなく、基本はカルチャー誌。当時、自分のなかに買って読みたいって思わせてくれる雑誌がなかったんですね。流行を追うだけじゃない雑誌のなかで洋服のスタイリングをしたいと思っていました。
ー 『KINARI』というタイトルは?
彦根 ネコパブの『BLUE』の増刊号でしたから、色を使ったタイトルというのが前提としてあったんです。「GREEN」がいいなと思ったんですけど商標とか取れないので『KINARI』に。何も染めていない、染まっていない。ブリーチみたいな意味合いを持つ「生成り」。雑誌の芯となるスローガンのようなものを決めろって『BLUE』の編集長に言われたんですけど、そんなことを決めずに自由でいいんじゃないですかって言い続けていました。それじゃあ営業もできないと言われて。ちょっとひねくれた感情で1/4エコロジーっていうテーマを決めたんです。
ー 今の時代にも大切なテーマのように思います。
彦根 編集もわからず、自分の作りたい雑誌もはっきりと見えていないなか、漠然と急いで決めてしまったテーマが、いつの間にか自分のなかに染み込んできて。そういうことを、ファッションだけではなく、いろんな側面でやりたいなって思うようになっていきました。
ー 特集はどんな感じで決めていったのですか?
彦根 創刊号が1/4エコロジーファッション。「ナチュラルに考え、スタイリッシュに生きる」を特集にしています。創刊の前は、実はスタイリングの仕事だけで食べていくことに疑問を感じていて、(松岡)俊介さんに声をかけてもらいDrILLでも仕事をしていたんです。そこにはいろんな人が集まってきて、いろんな話をして。仕事よりも遊びの話ばかり。人との出会いから、特集は決まっていって。だからそのときに遊んでいた人たちとの特集なんですね。20代中盤のDrILL時代の遊びの感覚が、今も土台になっているのは確かです。
ー 創刊から14年。途中、発行元も変わった。続けてこられた理由はなんだと思いますか?
彦根 熱量じゃないですかね。結局、雑誌が好きなんだと思います。
ー 雑誌を作るにあたって、こだわっていることとは?
彦根 残っていってほしいものを雑誌のなかに残していくこと。例えばファッションでも、いいものって、結果として自分で不要になったとしても、誰かが必要としてくれるじゃないですか。そういう視点でファッションのスタイリングもしています。一方で雑誌は身近なカジュアルな存在であってほしいとも思っているんです。
ー 身近な存在というのは?
彦根 僕は雑誌をトイレで読むことって多いんですよね。トイレで読むときには、両手ではなく片手で持つ。右利きなので、横組のほうが読みやすい。そんなこともあって、創刊当時は出版社から縦組の雑誌というリクエストがあったんですけど、独立してからは横組にしているんです。雑誌って、そういう扱いであってほしいっていうか。もちろん捨てて欲しくないし、気に入った特集だったり記事があって、自分にとって大切なものと思ってもらえたら、取っておいてもらいたいですけど。
ー コロナ時代になり、編集で変化はありましたか。
彦根 海外の特集も多かったのでいろいろ悩みました。雑誌は広告も大きな収入源ですから、コロナ前と同じようにアパレルブランドに頼っていいのかどうか。それで1年くらい出さない時期があったんです。
ー どんな心境の変化があってリスタートしたのですか。
彦根 かつては勢いだけで続けてきていました。後ろを見ないことのほうがかっこいいとさえ思って、前だけを見てきた。出たものは過去のもので振り返らない。発行後は読まない。そんなスタンスです。コロナになって、すべての号を読み返したんですね。そしたら新たに感じたり、見えてきたことがあって。改めて読むことで、やる気が出てきたんです。音楽も、そのときには響かないけど、何年後かに響くことってあるじゃないですか。紙に残されたものも同じだなって。遊びの場から生まれてきたカルチャー。自分では気づいていなかったけど、紙に残していくことって、時間を超えていく作用があるんだなって。
ー 時代感も確実に含まれているのだろうし。
彦根 月に数回しかオープンできていないんですけど、古着屋をはじめたんですね。そこに若い世代の人たちもけっこう来てくれている。そこで情報交換しているんです。今、こういうことに疑問を持っているんだとか、こういうことに注目しているんだというような何気ない会話。そういう会話のなかには嘘がないんですよね。 DrILLのときも、そんな会話からいろんなことが生まれていった。雑誌は読者目線じゃないといけない。それだけは間違っちゃいけないと思っています。
KINARI 彦根泰志
1/4 ECOLOGY STYLEをテーマにした特集で2008年に創刊。様々な都市や国のストリートカルチャーを伝えている。現在まで24号を刊行。基本は春と秋の年に2回発行。都市発信のカルチャーだけではなく、リアルファッションもコンテンツの主要なひとつで、東京の今のライフスタイルも提示。編集発行人の彦根氏は、スタイリストとしても活動している。最新の25号(特集PEACE SURVIVE)は6月13日発売。https://www.kinarimagazine.com/
0コメント