農家と消費者をつなぐ八百屋というポジション。【鈴木鉄平(青果ミコト屋)】

不揃いの野菜だからこそ、それぞれの個性がある。おいしい野菜を広めていくためには生産者の思いを伝える役割の人間が必要だと考え、八百屋という道を選んだ。

文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
写真 = 伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito

ー 八百屋になろうと思ったきっかけを教えてください。

鈴木 はじめは八百屋になろうと思ったのではなく農家になりたかったんですよ。営業の仕事をしていたんですけど、ドロップアウトをしてバックパッカーとなってインドとかネパールを旅したんです。旅のなかでプリミティブな暮らしに興味がわいていったんですね。お金が無くても暮らしていけるような、生きる力を身に付けたいと思うようになって。そして農業を志すんですけど。


ー どんなところから農業に入っていったのですか。

鈴木 自然栽培の野菜や天然発酵の醤油などを販売しているナチュラル・ハーモニーが農業研修をやっていたんですね。1年間、自然栽培の農家さんのところに研修に行きました。その後に千葉の中島デコさんのブラウンズフィールドで住み込みで働いて。自然栽培で育てた野菜は、大きさもバラバラで、見た目も無骨なんですね。卸し先などに持っていっても「大きさがそろっていない」ということで、箱のなかを全部見ることなく、買い叩かれちゃう。本質的なところを見ずに、表面的なことだけで判断されてしまう。それって何が問題なのかなって思ったときに、農家さんの問題じゃないなって。流通の問題であり、もっと言えばきれいなものばかりを求める消費者に問題があるんだろうなって。消費者の価値観を変えるのは農家さんではなくて、バラバラなことが個性なんだよって伝えられる八百屋さんが必要だと思って、八百屋になろうと思ったんです。


ー しばらくは店舗を持っていませんでしたよね?

鈴木 キャンピングカーを買って、日本中を旅しながら野菜を探して農家さんを訪ねていって。


ー それが「旅する八百屋」の所以なのですね。その旅はどのくらい続けていたのですか。

鈴木 車が壊れるまで8年くらいはやっていましたよ。もちろん、通常の配達や配送をやりながらですけど。


ー ミコト屋はフェスなどにも出店していました。

鈴木 最初の頃は、近所にしかお客さんはいませんでしたから、配達のみで。ゲリラ的に車で野菜も売っていたんですけど、それを珍しいと思ったからなのか、イベントの出店依頼も飛び込んでくるようになっていったんですね。イベントやフェスでいろんな人に出会う。野菜を買ってもらうだけではなく、ひとつひとつの出会いが今も自分たちの大きな財産になっています。

ー 2021年、横浜に店舗をオープンさせました。

鈴木 店がないことによる縛られない自由さもあったし、それも大事にしていきたいと思っています。各地でその土地に根を張って、ローカルのコミュニティと連携しながら生きている人たちと会う。洋服屋、レストランやカフェ、そしてアーティスト。そんな人たちをだんだん羨ましいと思うようになっていったんですね。地域と繋がって自分たちのやりたい表現をしていくのは、すごく大切なことだなって。ミコト屋は、どこにいるのかもわからないし、実体がないとよく言われていました。誰でも気軽に立ち寄れるオープンな場所。そこで自分たちを表現したいなって。


ー お店に並んでいる自然栽培の野菜たちは量り売りなのですね。

鈴木 自分たちにとっても気持ちがよくないから、プラスチック製のパッグやレジ袋を置いていないんです。野菜は量り売りをしていて、新聞紙で巻いてもらったりしています。食べたい分だけ買えるっていいじゃないですか。買い過ぎはフードロスに繋がるし。野菜を見て、自分の手で触れて、量も自分で決めてもらう。そうすれば野菜に対する愛着がわくというか、身近な存在になる。野菜との距離を縮めてもらいたいんです。買ったものを捨てずに食べてもらいたい。野菜を捨てるっていうことは、農家さんが育てるために費やした時間や汗、そして思いもロスするっていうことだから。


ー 野菜や調味料などの加工品のほかに、アイスも販売しています。

鈴木 農薬のこととかフードロスのこととか、野菜を切り口にすると、どうしても頭でっかちになっちゃうんですね。でもアイスってカジュアルでポップじゃないですか。甘くて、可愛くて、美味しい。アイスが抱えているパフォーマンスって半端なくて、なんでもできちゃうんです。傷がついてしまった野菜はもちろんのこと、例えばクラフトビールの麦芽かすだったり、サンドイッチで切り落とされた耳だったり、そばを切ったときの端っこだったり、ワインの搾りかすだったり。フードロスの受け皿にもなるし、自分たちの伝えたいことを乗せられる存在でもあるんです。


ー お店をこれからどんな場所にしていきたいと思っていますか。

鈴木 作り手と食べ手の距離をいかに縮められるのか。それが八百屋のミッションだと思っています。消費者には農家さんの思いを伝えつつ、消費者の声を農家さんにフィードバックしていく。その声って、あまり良くないことだったとしても次へのステップになるじゃないですか。いろんな人、いろんな情報…。いろんなものが行き交う港みたいな場所になればと思っています。オーガニックやアグリというカルチャーに興味がない人でも、気軽に立ち寄れる場所。僕たちの目指すべき姿が特殊な状態だと、いつまでたってもマイノリティのままですからね。野菜のこと、そして野菜に込められている日本の暮らしや智慧を、少しずつでもいいから広めていければと思っています。


鈴木鉄平(青果ミコト屋)
高校の同級生だった鈴木鉄平、山代徹のふたりで「旅する八百屋・青果ミコト屋」を立ち上げたのが2010年。キャンピングカーをベースに、自然栽培などで野菜を育てる農家さんに会うことを目的に全国を旅して回り、フェスなどにも出店して野菜のおいしさを広めていった。創業10周年を機に実店舗となる「micotoya house」を横浜市青葉区にオープン。旅で出会った生産者の食材などを使ったハンドメイドのアイスクリーム・ショップ「KIKI NATURAL ICECREAM」も併設されている。https://micotoya.com/

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