玄米菜食〜発酵で気づいた身体の声。大地と過ごすことで得られる喜び。【ジャー村(発酵農園)】

時間に追われ、体調を崩してしまったライブハウス時代。そこから食によって身体は恢復していったという。人里から離れた山奥で、限りなく自給自足に近い暮らしをおくっている。

文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
写真 = 宇宙大使☆スター photo = Uchutaishi☆Star


ー 農的な暮らしをする前は、どんなことをしていたのですか。

ジャー村 熊本市内のジャンゴっていうライブハウスでPAをしていました。はじめはレゲエ、ボブ・マーリーのメッセージから入って、いろんな音楽を聞くようになりました。多くのミュージシャンとも関わりを持つようになって。環境などへの意識が高い人も多くて、オーガニック・カルチャーの方々とも繋がりが出てきて、菜食をはじめたんです。ライブハウスではオールナイトのクラブ営業もしていましたので、2時間くらいしか寝られない日が何日か続くっていうこともけっこうあり、エナジードリンクで終わらせたり、コンビニや外食で食事を済ませてしまうことも多く、体調がよくありませんでした。そんな頃に3・11があって、自然栽培の玄米、お味噌汁、お漬け物以外は食べない食生活に変えました。


ー 玄米菜食をはじめて、自分のなかで変化はあったのですか。

ジャー村 まったく風邪をひかない健康体になり、心も前向きになりました。玄米菜食の素晴らしさを自分が体感できたから、米作りをしようって。そして菊池市の里山に移住しました。


ー いわゆる自給自足の暮らしへ?

ジャー村 ライブハウスにいたときとはまったくの別世界。僕には農的な暮らしはできないと思ってましたが、実際にやってみたらすごく楽しかった。できるだけお金をかけない暮らしです。

ー それが今暮らしている場所ですか。

ジャー村 同じ菊池市ですが前の家は集落のなかでした。3年前に山の上に土地を買い、引っ越しました。今のところは本当に山奥で、周り5キロに民家はありません。


ー この場所を見つけたきっかけは?

ジャー村 前の家が熊本地震で壊れてしまったんです。みなし仮設でここを紹介してもらって。山奥過ぎて大丈夫かなって思いましたけど、実際に周囲をキレイにしていったら、住み心地も良くなり、今年は田んぼも開墾しました。


ー 発酵農園と名付けたのは、どういう思いからだったのですか。

ジャー村 麹、味噌、甘酒、漬け物などを作っているので、発酵の素晴らしさを広めていきたいという思いがあります。発酵は分解です。例えば麹と大豆を混ぜて味噌を作る。大豆のタンパク質を旨みもととなるアミノ酸に分解して、非常に消化吸収の良いタンパク源にしてくれます。消化酵素といって、身体のなかでもそれと同じことをやっているんですけど、それを発酵は菌の力でしてくれる。腐敗ではなく発酵。お腹のなかも、腐敗すると悪玉菌が増え血液が汚れますので、発酵食品を食べることは腸内にもとても良いことだと思います。保存がきくっていうことも素晴らしいと思っています。


ー 発酵は日本の伝統的な食文化でもあるわけですし。

ジャー村 長崎で原爆によって被爆された方々が、天然味噌と玄米によって生き残ったという話もあります。これでけ多くの原発があり、福島でも原発事故があった日本に、麹と味噌という文化があるっていうのも必然のような気がします。

ー 農をやりはじめた頃から無農薬だったのですか。

ジャー村 そうです。自然栽培です。無肥料無農薬で作っています。米は1本植えの手植え手刈りです。


ー 無肥料無農薬は、苦労も多いのではないですか。

ジャー村 化学肥料を入れたり農薬を使ったりすることは、お金がかかり手間もかかります。害虫に食べられてしまうから農薬をまき、草が生えるから除草剤をまく。草が生えず、害虫に食べられないようにすれば、農薬をまく必要はありません。例えば、種をまく時期や株間を変えるだけでもずいぶん違います。作物によっては草とりが必要ですが、草とりをしているときは、大地と向き合い、自然のなかで作業に没頭して雑念がなくなるので、自分にとっては貴重な時間です。


ー それは土や自然と向き合っているという感覚なのですか。

ジャー村 僕に関しては探究心が湧いてきます。例えばお米作りでは、何枚かある田んぼに全部を同じようには植えないんですよ。ここはこの間隔にしてみようとか、そこは田植えの時期を遅らせようとか。いろいろやってみるとわかってくることも多い。種をまいて育っていく姿を見ていると、やっぱりうれしいですよ。毎日見にいきたくなるし、自然のリズムのなかにいるっていうことを実感しています。


ー これから農に入っていきたいと思っている人たちに、どんなアドバイスがありますか。

ジャー村 アインシュタインが「ある問題を引き起こしたのと同じ マインドセットのままで、 その問題を解決することはできない」という言葉を残しています。近代化の便利な暮らしに慣れているマインドセットのままに自給自足をはじめると辛いと感じてしまうかもしれませんが、昔の人やお百姓さんが当たり前に持っていたマインドセットに変わることができたら、辛いことも辛いって感じられなくなるのかなって思います。失敗も無駄なことではなく、そこから学び、効率よくできるようになってくると楽になっていくし、自給自足ができてくると日々の暮らしが喜びに変わっていきます。コロナで生活が急変しましたが、生きていくために必要なものってそんなに多くないと感じています。僕がやってみて思うのは、食の自給はやればできるっていうことです。


ジャー村(発酵農園)
熊本市内のライブハウスのPA時代に「食」の大切さを痛感し農の世界へ。菊池市に移住して、自然栽培で田畑を営み、育てたお米などを通販でも販売している。昭和の農聖といわれる松田喜一氏の革新的な農法を実践し、月刊誌『現代農業』では農法の記事を連載。自家栽培の材料でつくる麹や味噌などのワークショップも全国で行なっている。https://hakkounouen.buyshop.jp/

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阿蘇北外輪山を源とする湧き水豊かな熊本県菊池市で、夫婦で自然栽培の田畑を営んでいます。日本遺産に認定された原井出(はるいで)の棚田での米作りを中心に、大豆、麦、大根、さつま芋、梅、椎茸、和綿を育てています。※ 井出=用水路。原井出は230年近く昔につくられ、200町ほどの棚田に水を供給しています。農薬、肥料を使わず、できるだけ機械に頼らず、人も環境も健やかになる農業を目指しています。特に、手植え、手刈り、天日掛け干しで育てる原種のお米は、お米アレルギーのお子さんをもつお母さんから好評です。昭和の農聖といわれる松田喜一氏の革新的な農法を実践しており、月刊誌『現代農業』2020年1月号から農法の連載をしています。革新米麦作法、革新甘藷作法のワークショップを開催して農法を伝えることにも力を入れています。自家栽培の材料でつくる麹、味噌、醤油、たくあん、梅干しなどの発酵食品づくりのワークショップも全国で行っています。「自給」と「発酵」の暮らしの知恵と楽しさをたくさんの人に伝えたいと思っています。山奥の自宅では、糸を紡ぎ、湧き水と薪で料理し、自然と調和した農的暮らしを目指しています。2020年末からは、自宅の周りのクヌギ林を棚田に、杉林を果樹園にしていく計画です。イノチが喜ぶ生物多様性の森にしていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。村上厚介(ジャー村)、村上牧子発酵農園の日々の様子はこちらから。→https://www.facebook.com/profile.php?id=100009070609642

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