ソウル、ヒップホップ、レゲエ、ジャム。20年に及ぶ活動をつなぎ、そして次の世代にバトンタッチしていく決意が聞こえてくるメモリアル・アルバムが完成した。コロナの時代に「あいいろ」に託したものとは。
文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
写真 = 伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito
―昨年20周年イヤーを迎えました。おめでとうございます。
K ありがとうございます。メジャーでデビューさせていただいたのが2000年でした。その前年にアナログのみで「SPIRAL SQUALL」をリリースしているのですけど。
―歌いはじめるようになったきっかけを教えてください。
K 中学・高校は『ダンス甲子園』の時代だったんですね。ヒップホップ・ムーブメントが全盛の頃。ブラックミュージックにどんどん傾倒していました。同時に地元が東京の昭島で、横田基地の影響もあってハーレー文化も根付いていたんです。古いロックとダンスミュージックのチャンポン。そんななか、もっともガツンと私の心を奪ったのが、エリカ・バドゥやディアンジェロの90年代初頭のニュー・クラシック・ソウルでした。わけあって高3から家を出て働いていたのですが、自分が何をやりたいのかわからない。けれど生活しなければならない。いろんな選択肢があるんだけど、そのどこにも進めないはがゆさ。撮影現場の仕事をしながらレゲエバンドでコーラスをやって。20歳過ぎにタイに行ってタイマッサージの免許を取得しました。その際改めて自分は何になりたいのだろうって考えて、浮かび上がってきたのが歌を極めたいってことだったんです。
―ジャンル分けはナンセンスなのですけど、最初はレゲエ・シンガーというイメージでした。
K デビュー作の「晴れ」には、「SPIRALSQUALL」のダンスホール・リミックスも収録してあったんですね。それがヒットしたので、ダンスホール・シンガーとしてそのシーンで修行をして、そこが自分の道になっていくのかなっていう予感もありましたけど、その覚悟ができていない自分もいたんです。2作目からはあえてレゲエを入れずに、ニュー・ソウル寄りな音楽に集中していきました。より自分らしい得意な歌い方を見つけたいって思ったんです。
―レゲエとニュー・ソウルでは、歌い方が違うものなのですか。
K レゲエって基本パワーボイスだと思うんですよね。ニュー・ソウルはレコーディングではニュアンス重視というか囁くように歌うことも多い。色で例えたら、レゲエの赤に対してニュー・ソウルが青。
―20年イヤーを飾るアルバムのタイトルが『あいいろ』です。
K イメージしたのは愛、I&I、藍色。
―いつ頃からこのアルバムの構想を持っていたのですか。
K 2014年に『Sunny Day Soul』を出してから、3年に一枚のペースでリリースしています。東日本大震災の後に悲しいことがたくさんあって、父の死も重なり、どうしても青い音楽をつくりたくなかったんです。クールさよりも暖かさやぬくもり。お月様の音楽よりも太陽のエネルギーをたくさん込めた音楽をつくりたかったし、そういう歌を東北にも届けたかった。あえて自分の青を封印したんです。それで20周年のときには青い音もしっかり入れようと。人間は誰でも、太陽の部分と月の部分を持っているのですから。
―『あいいろ』には多くのアーティストが参加していますね。
K 20年間にいろんな出会いと別れがあったなか、変わらずに私と付き合ってくれる方々に参加していただいています。それと自分へのご褒美という部分でも、今までにやりたいと思っていたけどタイミングを逃して一緒にやれなかった人や若い世代にもお声掛けしました。私って、実は予知夢とかシンクロニシティとかよく起きるんです。レゲエ的に言えばガイダンス。6年前に構想して、3年前から着手して、時間にゆとりを持ってつくりはじめたんですね。直感とか必然とか偶然というものに委ねて、遊び心を持って進めようと思ったんです。
―コロナ禍になって、音楽の聞こえ方や向き合い方に変化はありましたか。
K 基本的にレコーディングはリモートでやらざるを得ない状況になったんですよね。8割がたリモートで仕上げた作品になりました。ライブも少なくなって、ひとつのライブに託す思いが強くなっています。レコーディングもそれと同じで、ひとつひとつの音に込めるソウルがより熱い。レコーディングできることが、すごく貴重なことだって思えるようになりましたね。
―できあがった作品を聞き返して、どんな思いがあります?
K こんなに時間とエネルギーを費やしたアルバムははじめてで、「これがもし最後のCDになったとしても、絶対に後悔しない作品をつくれよ」って自分に言い聞かせながら制作しました(笑)。
―事務所から独立したっていうことも、作品への思いを大きくしていたのかもしれないですね。
K 「降りてくる音楽をどれだけ自分らしく自由に表現できるか」ということが私にとってとても大切で、それはデビュー前からずっと変わらない。このアルバムではよりしっかりそれを出せたと思います。4月から流通がはじまりました。それまでは私のサイトのみでの発売で。日本全国で応援してくれる人たちに、一筆一筆愛情を込めてメッセージを書き、丁寧にお送りさせていただきました。独立とコロナが重なってしまったのですけど、今だこらこそできることっていっぱいあるんだってことが実感できています。そのすべてがすごくいい経験で、ある意味いいきっかけをもらったなとも思っています。
取材協力 = 横浜GRASSROOTS
「あいいろ」1999年にアナログのみリリースされた「SPIRAL SQUALL」で話題となり、北海道のFM NORTH WAVEでリクエストチャート6 ヶ月間1位の記録を出す。その後メジャーデビューを果たし、現在までにオリジナルアルバム7作、コンセプトアルバム7作を発表。2002年に長女出産。14年『Sunny Day Soul』のリリースをきっかけに、イラストを担当した娘Maycaとの共演、共同制作を開始。20年末に、デビュー20周年を記念したアルバム『あいいろ』を自身のHPでリリース。21年4月から全国発売が開始された。ネオ・ソウルをベースにジャンルの垣根を越え活動中。https://www.keyco.jp/
LIVE INFORMATION
6/26(土)MAYCA SOLO EXHIBITION IN OKINAWA @那覇vida loca
6/27(日)@沖縄市LINX
7/10 (土) A-1 LOUNGE 7th Anniversary @渋谷BX Cafe(CLUB HARLEM)
8/8(日)underground square @渋谷THE ROOM
10/27~11/7 北海道ツアー
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