【World Kitchen BAOBAB(池端陽介・吉祥寺)】ワールドミュージックで カラダを揺らす。集うことで さらに増す熱量。

自分の好きを自分のハコに落とし込む。その個性が強いからこそのオリジナリティ。自分の場所を守るために、手探りのなか無観客の配信を続けていった。ミュージシャンを守るという確かな思いもそこにはあった。

文 = 菊地 崇 text = Takashi kikuchi
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko

ーBAOBABをはじめて何年になるのですか。

 去年の春がちょうど10年でした。10周年イベントも予定していたんですけど、流れてしまって。もともと20歳くらいの頃から、コパカフェっていう吉祥寺のミュージックバーで働いていたんですよね。音楽も、料理も、DIYでお店をつくられるんだっていうことも、そこでいろいろ教えてもらいました。


ー吉祥寺に根付くカルチャーって、独特なものがあるような気がしています。

 いい意味で田舎っぽいというか。都会都会してない感じがありますよね。ローカルの人たちも含めて、洒落すぎていないところが落ち着きます。


ー音楽もいろいろ教えてもらうなかで、ワールドミュージックへ傾倒して行ったのですね。

 島が好きで、休みには日本の島々に遊びに行ってたりしたんです。そしてだんだん海外にも行くようになりました。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を観てキューバに行って、一気にそっちのほうに足を踏み入れてしまった(笑)。メキシコ、ジャマイカ、ブラジル、アフリカ。BAOBABをはじめてからは毎年1ヶ月休んで、カーニバルをメインにしてその前後は近くの国を巡ってレコードも探してっていう旅をしていましたね。ついにはアフリカまで…ワールドミュージックと旅が好きだったんです。


ーBAOBABでは最初からライブが多かったのですか。

 もともとはご飯屋さんで、徐々に増えていきましたね。イベントは月1くらいでした。その頃まだクンビアやアフロビートなどのワールドミュージックはマイナーで、コアにある伝統的な音楽とストリートはあまりリンクしていないと感じていたんです。それがもっとクロスオーバーする場所になればいいなっていう思いもあって、DJを呼んで。クラッシュのジョー・ストラマーが「トラディショナルなクンビアがかっこいい」と言ってくれたことがありました。デジタル・クンビアの注目が高くなっていくにつれて、トラディショナル・クンビアも再評価されていった。ここ10年で、リスナーの人たちの楽しみ方、聞き方も変わってきたように思います。


ー去年の緊急事態宣言の発出中は、いち早く配信をはじめていたように思います。

 ライブをやれる場所がないって嘆くミュージシャンも多かったんです。もちろん、お店を存続させるために何かをやらなきゃっていう思いが強かったんですけどね。「やってやる」っていう燃える思いがフツフツと出てくる反面、精一杯の自分もいる。配信はどうすればいいかなんてまったくわからないまま、いろんな人に聞きまくって続けていました。機材もないしお金もかけられないので配信もDIYでしたね(笑)。


ーミュージシャンのライブだけではなく、DJも配信していました。

 僕ひとりがDJで出演する配信では喋りながら。そのレコードを買ってきた国のハプニングやエピソードを交えて話していたんです。楽しんでくれた方も多いようでした。いろんな失敗もしたけど、週に4〜5回配信しているときもありました。吉祥寺の配信王なんて言われることもありましたから(笑)。最初は必死なだけでしたけど、徐々におもしろさも感じられるようになっていきましたね。コロナのおかげって言うと語弊がありますけど、新たなスキルを手に入れられたと思っています。地方や海外の人との新しいコミュニケーションツールでもあるわけだし。


ーお店もひとつの、そして重要な文化じゃないですか。お店の持つ役割ってどう考えていますか。

 やっぱり現場で集まれるっていうのが一番だと思うんですね。去年、緊急事態宣言が解除された後の熱量ってすごいものがありましたから。コロナが収束したわけではなかったからお客さんもアーティストも気を使っていましたけど、みなさんの笑顔がすごくて。僕自身もうれしかったですし、グッとくるものがありました。画面を通してではバイブレーションはなかなか返ってきませんからね。配信はひとつのコンテンツではあるけれど、やっぱり本来の姿ではないわけですから。


ー音楽の魅力ってなんだと思っていますか。

 ベタな言い方なんですけど、心を奪われるものだと思います。ライブで持って行かれてしまうっていう瞬間がある。知らない音楽に出会ったときにはアドレナリンがバーっと出ちゃう。それはうちのような小さな店でも同じです。小さな店をやっているものとして、お客さんとお店がグルーブして、みんなで楽しめる空間を生み出せているって、すごい幸せなことだと思います。自分ひとりでつくられるものではなく、音楽、ミュージシャン、そしてお客さんがいて、はじめて成立する場所。こういう場所を自分で持つことができて、本当に幸せだと思っています。雑草魂を持って、この場所をなくさないようにやっていきます!


World Kitchen BAOBAB ( 池端陽介・吉祥寺)
スペインやアジアだけでなく、アフリカやカリブ海などの料理を堪能できるエス
ニック料理レストランとしてオープン。コロナ禍で緊急事態宣言が発出された昨
年春に10周年を迎えた。ワールドミュージック系DJイベントやライブも徐々に増
え、民謡クルセイダーズなどの大所帯バンドもライブを行なっている。中央線音
楽カルチャーの発信地のひとつ。http://wk-baobab.com/

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