【音楽喫茶MOJO(工藤昭太郎・所沢)】仲間意識が共有できる場所。食と音楽がもたらしてくれる幸福感。

疎外されるのではなく、どこかのコミュニティに参加しているという安心感。小さなハコだからこその同じ時間を過ごす共有感。人間の交流が抑制され、分断が促されるコロナ時代だからこそのカウンターとしてのポジション。仲間意識が共有できる場所。食と音楽がもたらしてくれる幸福感。

文 = 菊地 崇 text = Takashi kikuchi
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko

ーMOJOをはじめて何年になるのですか。

工藤 17年です。


ーライブもできるバーレストランというのは最初からのスタイルですか。

工藤 アマチュアでしたけど、自分もバンドをやっていたんですね。ハコにノルマを払ってお客さんを呼んで、自分の出番が終わったら他のライブを見ないで帰るっていう状況が80年代から90年代の都内のライブハウスでは定番のスタイルだったんですね。飲食店でありながら、機材や楽器がちょっと置いてあって、自由に使っていいよって言ってくれるお店が新大久保にあったんです。そのマスターと話していたら、「こんな店、君にだってできるよ」なんて言われたもんだから、その気になってやってみたんです。ただそのときに思ったのが、食事だけは徹底的にちゃんとしたものを提供しようと。飲食で商売として成立させたいって。


ー来てくれるお客さんの居心地を一番に考えたということですね。

工藤 飲食店ではあるのですけど、働いているか寝ている以外は、ずっといられるような場所でありたいなって思っています。みなさんを招待して「ここは俺ん家だから自由にして」みたいな感覚があるんです。お店に個性があって、合う合わないはお客さんに選んでいただく。そのかわりに、自分の家に来ていただいた方には絶対に満足してもらう。10代から20代にかけて行っていたお店って、未だに忘れられないじゃないですか。いい思い出なんですね。若い頃の遊びって一生の肥やしになるっていうか。


ー確かに、同じ店に同じ時代に通っていたというだけで共通言語になりますから。

工藤 それが人と人がつながるときのパスポートみたいになったりする。フェスも同じで、フジロックに行ったことがある人と行ったことがない人とでは、見ている景色が違うんですね。


ーフェス、そしてライブも大切な体験の場です。

工藤 MOJOではリモートを積極的にやっていないんですね。ライブで何が重要かっていったら、見たい演者さんのライブが見られることと、そこに自分の好きな演者さんに対して共感している人が集まっているということ。お客さん同士に仲間意識みたいなものが生まれてくるんですよ。ライブを経験するっていうことが、ひとつの宝物になる。できるだけライブを続けたいっていうのは、それがあるからなんです。


ー去年のコロナ禍では、ライブはいつ再開なさったのですか。

工藤 4月の緊急事態宣言が発出されている期間も営業はずっとしていました。ライブは6月に入ってからですね。お店を開けていたのは、自分なりの責任感があってのことです。いつもうちに来てくれるお客さんにとっては、MOJOも生活の一部なんですね。


ーMOJOというコミュニティが成立しているということですね。

工藤 我々って、会社でも学校でも家族でも、老人ホームでも、SNSのなかでも、コミュニティに片足を突っ込んでいるわけです。いろんなコミュニティに入れているからこそ存在できている人たちが、そのコミュニティから外されてしまう。ステイホームってそういうことで、残酷なことなんですよね。いろんな意見があって、それぞれの人がそれぞれの当てはまるコミュニティにいられる。いろんなコミュニティがあって、それらがリンクして「社会」という世の中が成り立っているわけですから。


ー緊急事態宣言、あるいは自粛というものが、コミュニティの多様性を狭めているように思います。

工藤 緊急事態宣言が解除されたとしても、僕らにとっての緊急事態は続いていますから。コロナ禍の怖いところって、多くの人が恐怖にかられて意思統一しがちになってしまうことだと思います。全体主義的みたいな空気感が出てきて、飲食店に対しても、なんとか狩りとか自粛警察みたいな人たちが出てくる。戦争、震災、そしてコロナ。社会全体が大きな流れに飲み込まれそうになったとき、新しい価値観を提示してくれるのが芸術だと思うんです。絵画にしろ映画にしろ音楽にしろ、作り手のメッセージが含まれる。こういう不満を持っているとか、こういう希望を持っているとかっていうことが作品に投影されることによって、いろんな人のいろんな価値観を知ることができて、考えるきっかけになるんですよね。全体主義にブレーキをかけたり、舵を切ってくれるのが、アートであり文化だと思います。


ーその意味ではMOJOのような場所からの発信も、決して小さなものではないと思います。

工藤 ある意味、無責任でやっているし、言葉は悪いかもしれないけど反社会的ですから発信しやすいんです(笑)。自分が先頭を切って何かで引っ張っていくっていうことでもないんですけど、こういうスタイルはどうでしょうかっていう提示はこれからも続けていきたいと思っています。それが、もしかしたらお店を続けている目的のひとつかもしれないですね。


音楽喫茶MOJO (工藤昭太郎・所沢)新宿からも池袋からも電車1本で行ける所沢。西武線の中核都市として、マルシェなどのエリア発見のイベントも多い。食も満足できる音楽喫茶としてオープン。ライブも徐々に増え、埼玉では貴重なハコとしてミュージシャンからも人気を集めている。所沢航空公園で開催される空飛ぶ音楽祭などのブッキングなどにも関わっている。今年の空飛ぶ音楽祭は9月26日に開催。小坂忠、BEGIN、 宮沢和史+高野寛などが出演する。http://mojo-m.com/

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