【月見ル君想フ(タカハシコーキ/寺尾ブッダ・青山)】ライブ配信という新しい可能性。アジアと日本をライブでつなぐ。

他のハコとは一線を画すブッキングや企画で、ここにしかないライブ空間を表現してきた。コロナ禍によって、いち早く配信へシフトチェンジ。海外と日本のライブシーンをつなぐミッションは、今も変わっていない。

文 = 菊地 崇 text = Takashi kikuchi
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko

ーおふたりは月見ル君想フの立ち上げから関わっていらっしゃるのですか。

ブッダ 立ち上げのときにはいなくて、2年目にブッキングスタッフとして入りました。その後店長を務めて、2013年に前のオーナーから引き継いだんです。タカハシくんは、その後に店長になってもらいました。


ー月見ルは台北にも出店なさっています。月見ルが台湾にあることで、日本と台湾、そしてアジアとの音楽の交流がぐっと深くなっているように感じていました。

ブッダ 台北の月見ルはスパイスカレー・レストランとして営業していて、他にイベントスペースもあるというスタイルです。アコースティックのライブハウスとしても安定してきています。台湾と日本の音楽の交流という分野での仕事もどんどん増えていって。台湾をアジアの入口にして、先のアジア公演へ拡大していくことのサポートもしていました。日本では、こんなに素晴らしいアーティストたちが台湾にもアジアにもいるっていうことを認識されはじめた時期だったと思います。

ー昨年2月、月見ルが主催したフェス「BIG ROMANTIC JAZZ FES」が開催され、そこにも多くのアジアのアーティストがラインナップされていたし。

タカハシ ブッダさんが台湾から広げていったネットワークが充実していったことも、もちろんフェスにつながっています。国内外のアーティストを招聘することと同様に、青山にある複数のお店を会場にして点から線につなぐことによって、青山という地域を盛り上げる。これがフェス開催のこだわりでした。


ーフェスが開催された2月はコロナが徐々に人の心にもネガティブに浸透していったタイミングでしたね。

タカハシ 開催直前まで悩みましたね。海外のアーティストもいっぱいいましたし。最終的には、ほとんどのアーティストが日本に行きたいと言ってくれて。中国のアーティストが1組だけいて、来日できないからリモートでの出演を提案したんです。


ーその意味では、フェスではいち早くリモートを取り入れたんですね。

タカハシ 中国でもオンラインフェスをやったりしていたので、いろいろ探って。フェスでは、もちろん考えられる感染症対策をすべて実施しました。このフェスを通して、いろいろ試せたこともありました。結果としてフェスの約1週間後にはライブの配信もしたんです。


ー手探りだったと思うのですが、配信へのシフトチェンジも月見ルは早かったですよね。

タカハシ 最初は無料配信でしたけど、それではライブハウスとして継続させていくことが難しい。初期から有料配信にこだわっていましたね。

ー配信をやってみて、どんな手応えがありましたか。

タカハシ 一番大きいのは、生のライブにはかなわないっていうことが再確認できたことです。配信では一部を切り取って、こういう見方もありますって提案する。ちょっと工夫をして、ライブとは別のエンタテインメントとして提供しています。


ブッダ ライブハウスって、そのライブに来た人しか味わえない、ある意味では閉ざされたニッチな存在だったのですけど、広がりを持てるようになったのは大きな変化だと思います。アーティストのライブという表現を、キャパ100人あまりの場所から、日本だけに限らず、世界に向けて紹介できるチャンスでもあるわけですから。今後はそこがかなり重要になってくると思います。


ーライブハウスが持っているこれからの役割ってどんなことだと思っていますか。

タカハシ 出演してくれるアーティスト、来てくれたお客さんとともに、おもしろいことを発見する場だと思っているんですね。コロナによって伝え方は変わったけれど、今まで通りにおもしろいと思えることひたすらやっていくということが基本です。自分たちが発信し続けることで、誰かの希望になれる可能性もあると思います。

ブッダ 月見ルのような小さなハコは、今まで行政などから管理されることもなかったし、頼ることもなかった。その在野的な感覚はこれからも大事にしたいですよね。今では配信というチョイスも自分たちのものにしています。今まで以上の体験だったりアイデアだったりを、ミュージシャンと一緒につくっていきたいと思っています。


ーミュージシャンにとっては、ライブハウスはなくてはならない発信の場ですから。

ブッダ ただ心配のひとつは、若いミュージシャンのモチベーションが減退していくんじゃないかっていうこと。かつてはライブハウスがオーディションの場であったり、ライブハウスに出ることがひとつの目標だったりしたわけじゃないですか。ネットが盛んになった今でもその役割は確かにあるんですけど、そこがちょっと崩れてしまっていますから。

タカハシ ライブハウスで対バンをして、そこから広がっていくという文化は減っちゃっていますから。予想していなかったこととの出会いって、すごく大きな体験なんですけど。フェスもそこが楽しいわけですしね。


月見ル君想フ( 寺尾ブッダ/タカハシコーキ・青山)2004年に東京・青山にオープン。ジャンルの枠を飛び越えたブッキングが多く、2バンドが対峙するようにセッティングして1曲ずつ演奏する2マンライブ=パラシュートセッションなど、ここだけでしか味わえない企画も多数。14年には台北にもオープン。アジアと日本を音楽でつなぐハブとしても存在している。コロナによる危機感が世界へ広がっていった20年2月に「BIG ROMANTIC JAZZ FES」をオーガナイズして初開催。https://www.moonromantic.com/

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