【THUMBS UP(佐布仁之・横浜)】ライブというコミュニティ。人が集うことで必然的に生まれてくる音楽。

BUDDY時代から数えると30年以上にもわたって、横浜でのライブ文化を発信し続けている。食べて、飲んで、音楽を楽しむ。横浜にそんな音楽の街というイメージがあるのは、THUMBS UPというライブスペースがあるからにほかならない。

文 = 菊地 崇 text = Takashi kikuchi
写真 = 伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito

ー佐布さんが、横浜の浅間町でBUDDYをはじめたのはどのくらい前になるのですか。

佐布 29歳のときだから34年前。駅からも遠くて外れにあるから、何かおもしろいことをやらないと人が来ないよな、みたいなことを言ってて。俺も音楽をちょっとやっていたこともあって、じゃあライブでもやろうかと。当時、飲み屋でローカルなミュージシャンが弾き語りでライブをやるなんて、横浜じゃほとんどなかったんじゃないかな。


ー当時の横浜での音楽シーンといったら本牧とか?

佐布 本牧のゴールデンカップとかはライブハウスになるのかな? でも俺は70年代のカリフォルニアのドーナツ屋さんで弾き語りやポエトリーリーディングをやっているみたいな、そんなイメージで行こうと。アメリカ好きのミュージシャンは、光が消えている街にポツンと灯っているという佇まいを「完全にアメリカの雰囲気だよ」とか言ってくれて。演奏だけではなくBUDDYにいることを楽しんでくれた。カジュアルなライブスタイルは、横浜に限らず日本では早いほうだったのかもしれないですね。


ーそしてSTOVE'S、THUMBS UPとお店が増えていきました。

佐布 STOVE'Sは、たまたまレストランバーとしても流行って。ライブには興味のない人にもライブの良さを感じてもらおうと、ある意味ではお客を無視して自分たちのやりたいことをやっていましたね(笑)。BUDDYで30人、STOVE'Sで60人。そしたら100人が入れる場所の話が来て。それがTHUMBS UPなんです。BUDDYって友達。STOVEは料理をするオーブンのことでもあるんだけど、友達みんなで集まって火で暖まるっていう思いを込めてその名前にしたんです。さらにTHUMBS UPではみんなで「イエーイ」って言えるような場所。仲間のミュージシャンたちと、もっとおもしろいことをやれたらミラクルが生まれるんじゃないかって思って。


ー音楽を広げるっていうことが根底にあったからこそ、仲間ができ、広がっていったのではないですか。

佐布 音楽だけじゃなくて、明確なものではないんだけど、友達を大事にしようとか、そんなありふれたことを続けているだけ。せっかく知り合った仲間なんだから、その仲間たちをリスペクトして、長く関係を続けていくことが当たり前のことなんじゃないかって思う。知り合った仲間が、ミュージシャンであったり、音楽好きが多かったということですよ。

ー神奈川の音楽が流れるお店の店長さんたちと店長’Sというバンドでライブもしています。

佐布 音楽好きの店長同士が仲良くて、いつの間にかバンドになっちゃっていた(笑)。音楽って楽しいって、自分でライブをやるようになってなお思うしね。そういう意味では、コロナ禍でライブハウスをどうキープしていくのか。それとも変化していかなきゃいけないのか。なかなか結論は出ないけど、いろいろ考えさせられています。


ーコロナ禍になって、佐布さんが見ているライブ像も変わって来ましたか。

佐布 コロナも、大きく言えば台風が大きくなってきたのと同じような自然の変化だと思うんです。人間も所詮生き物だから、自然が変わることで変わっていかざるを得ない。何らかの与えられた使命として、次に向かって進化していかなきゃいけないひとつなんじゃないかなって考えるようになりましたね。


ーライブハウスのありようというか意義も変わってくるのかもしれないですね。

佐布 ただ音楽が持つ人間に対する本質っていうのは変わらないと思うんです。今の時代に生きていれば、必ず自分の思い出のなかのどこかには音楽があって、音楽とともに記憶が形成されている。意識していなくても、自分の歴史に絶対にくっついているものだから。頭のなかの記憶、目の記憶、耳の記憶っていうのは、絶対的なものだと思っています。これからのライブハウスのことを言えば、ミニマムな、コンパクトだけど内容の濃いものって言ったらいいのか、そんな場所や時間がひょっとしたらおもしろくなっていくのかなって思う。


ーコミュニケーションというか、コミュニティがより重要になってくると思います。

佐布 今はパソコンが上手な人がお金を稼いで、パソコンが苦手な人は不器用な生き方のように受け取られてしまう。画面のなかだけでつくられているものって、いつか終わりが来ると思うんですね。それは期待かもしれないんだけど(笑)。実体が見えにくく、リアリティが感じられないから。


ー場所が文化をつくっていく?

佐布 場所があって、人が集う。そこから必然的に生まれてくる音楽。いい空気を吸って、おいしいものを食べて、楽しい会話をしたときに、何かが生まれるんじゃないかって。横浜は都市でありながらローカルでもあるから、そうなれる可能性があるんじゃないかと思っています。ローカルがよりリアリティがあるっていうかね。




THUMBS UP(佐布仁之・横浜)
80年代中盤に横浜市浅間町にBUDDYをオープン。70年代のアメリカを感じさせるバーとして、音楽好きが集うようになっていった。横浜駅西口のSTOVE’Sに続いて、同じビルの3階にライブスペースのTHUMBS UPをスタート。今年で23周年を迎えた。日本のみならず海外のアーティストも来日公演を行い、「日本のベストライブスペース」と称賛している。http://www.stovesyokohama.com/thumbsup/


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