コロナ禍によってもたらされた未来へのスタートライン。【gnkosaiBAND】

自分たちのなかに確実にあったライブというものを手放すことで感じられた自由。大切な場であり時間ではあるけれど、それに束縛されない時間は未来の自分たちを描く時間になったのかもしれない。


文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 北村勇祐 photo = Yusuke Kitamura

— まずgnkosaiBANDの結成の経緯から聞かせてください。

 2011年に自分のソロプロジェクトとしてアルバムを作ろうと思ったんです。震災があり、いろいろ自分の内面も揺れてしまったけど、ゼロから1にしていく作業をじっくりやっていたんです。そのアルバムを12年春にリリースした。このアルバムは、自分で売るところも探したいなって思って、置いてもらうために、直接会いにいくっていうスタイルにしたんです。バンドを起こすためではなく、何から何まで1からやるプロジェクト。完全な種まきですよね。


— そのプロジェクトがgnkosaiBANDにつながっていった?

 1年後くらいにライブをやってほしいというオファーがあって。不思議にやってみようかという気になったんです。それが13年。そこがバンドとしての結成ではあると思うのだけど、気持ち的にスタートだなって感じているのは18年の〈フジロック〉の後。ようやくやりたいことが、自分たちの形になってきた。


— そして今年4月にアルバムをリリースした。

 大阪でゴールデンウィークに開催される〈春一番〉を含めたツアーも予定していたんだけど、全キャンセルになってしまいましたよ(笑)。


— コロナ禍は、どんなことをもたらしましたか。

 実は、今はgnkosaiBANDとしてライブをする気が全然なくて。当面やらなくていいかなって。


— それはライブに対するモチベーションが小さくなっているということ?

 完全に、みんなが横一線で「ヨーイドン」になったわけじゃないですか。経験とか経済の違いはあっても、ミュージシャンのスタートラインは一緒になってしまった。4月にアルバムをリリースしたけれど、ライブに行って売るという僕らの今までのスタンスでは、売ってくれる場所がないんですね。アルバムをリリースするっていうことは、新鮮な刺身をすぐに食べてほしいっていう寿司屋と一緒で、「早く聞いてほしい」って思いが一番大きいんです。4月から5月にかけては、お店も閉まっているところが多かったから、結局は自分たちの通販で売るしかなかった。その通販で買ってもらった数字にすごく勇気をもらえたんですね。


— ライブに行くっていうこととは違う方法論が見えてきたということ?

 ちょっと考え方が変わって、ライブ以外でも僕らに興味を持ってくれてやり取りのできる人たちにちゃんと届けること、この人たちに向けてきっちりやったほうがいいなって。そこから広がるものもあるかなって思ったんです。ライブをメインにインディペンデントで活動することに関しても、なんとなく方程式みたいなものがあったと思うんです。でもそれって、新型コロナによって崩れてしまったのかもしれない。本心ではライブをやりたい。ツアーもしたい。けれどなんとなく元に戻って、やれてよかったという感じにはしたくないっていうことが、自分のなかですごくあるんです。ライブをやらなくても、アーティストでいられる状態をつくるべきだなってすごく思ったんです。

— 違う方向性がはっきりして吹っ切れた?

 全部ずれているけれど、全部つながっているみたいな状態をつくれるかもしれない。今までは、週一でライブをして、制作も続けながら、お客さんをどうやって喜ばせようかとか、どうやって食って行こうかとか考えていたわけじゃないですか。自分のなかにあったものをひとつ除外することで新たな広がりを持てる。そしてそこから可能になることっていっぱいあるんじゃないかなって。


— その意味でいうと、コロナ禍でいい時間を持つことができた。

 いい時間でしたね。CDをリリースした以降も、サブスクで新曲をリリースしたりMVをつくったりしているんです。ドラム叩きながら、ハッと気づいたんですよ。「結局は自分のためにやっているんだ」って。自分がやりたくてやっているだっていうことに改めて気づく。それがすごく楽しくて、すごくうれしい。おもしろいことが、きっとまた生まれてくると思う。


— コロナ禍の4月にアルバムをリリースしたことの意味も浮かび上がってくるかもしれないし。

 実は去年のうちには仕上がっていたんですね。俯瞰してみると、4月のタイミングで出せたことで、自分の歴史のなかで伝説的なものになったなって思う。ツアーもできなくなって、ポスターも全部無駄になってしまったけどね(笑)。内容もいいし、いつかジワジワ効いてくる。そんなアルバムになったのかなって。


— 今はどんな目標を持っています?

 俺、かなりワクワクしているんですね。久しぶりに感じるワクワクなんです。アーティストとしてものをつくって売りに行ったりだとか、アイデアを形にしたりすることでワクワクできるっていうことを、3年は続けていきたいですね。


— おそらく目標して向かう方向性が変わったんですね。

 根本が変わってしまったわけだから。今まで用意されてきたこと、例えば〈フジロック〉のフィールドオブヘブンでライブをやりたいとかはもちろんあるんだけど、このワクワクをどうキープしていくのか。丁寧に作品を作っていけば、きっと違う世界に立っているんじゃないかって思うんです。

gnkosaiBAND

表記はgnkosaiBANDで読み方は自由。2013年に結成。横浜、湘南を中心に活動の幅を広げ、「りんご音楽祭」「祝 春一番」「FUJI ROCKFESTIVAL」などといった国内のフェスだけではなく、台湾での「SPRING SCREAM」にも出演を果たす。レゲエ、ブルーズ、サイケなど、ルーツミュージックを基盤とした演奏にポエトリーリーディングが乗る唯一無二の音楽性。2020年4月16日、メンバーチェンジ後としては初となるアルバム『吸いきれない』をリリース。パッケージにはDVDケースが使われている。年内は、11月27日@奄美大島 イソシギ、11月29日@奄美大島マヤスコ、12月6 日@新丸子POWERS、12月19日@下北沢440でライブが予定されている。

取材協力=月桃荘(横浜)

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