アナログレコードの上の描かれたヴィヴィッドな絵。盤に刻まれた音が絵にエネルギーを与えているかのようだ。ストリートカルチャーとしての絵は音楽などとリンクしている。
文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito
ーふたりで活動するようになってどのくらい経つのですか。
H 4年ぐらいですね。
T もともと友だちで、何か一緒にやろうってなったときに絵が出てきたんです。
H それまで絵は描いていなくて、ふたりとも同じ専門学校で靴の作り方を学んでいたんです。デザインから製作まで。学校で知り合って、遊ぶ場所が一緒で。
ーなぜ絵という存在が出てきたの?
T 自分は長崎が地元なんですけど、高校のときの友だちのひとりにDJがいて、ミックスCDをリリースするからジャケットを描いてって頼まれたんです。高校時代からずっと遊んでいるし、僕が絵を少しは描けるっていうことも知っているし。
ー自分たちの表現を、描くことで見つけた?
T 壁に描くアーティストに憧れていたっていうこともあります。単純にかっこいいと思っていて、同じようなことをしたいなって思ったのも絵に向かった要因ですね。
ー絵の魅力ってどう感じていますか。
H 音楽だと耳で聞いて楽しむところを、絵は色を見て楽しむ。色が感じられるっていうところが魅力ですね。
T 描いているときはすごく辛いんです。一方できあがったときの達成感は他に変えることができないもので。その達成感を得るために描いているように思います。だから見る側じゃなくて描く側。
ー絵を描くにあたって、ふたりでどんな役割分担をしているのですか。
H 基本的に私がメインとなる人物を描いて、その周りの装飾を入れるのが彼。メインを決めて、その後にここにこんなものを入れて行ったらというアイデアを出し合っています。
ー筆を使って描いているわけじゃないですか。デジタルを使うわけではなく、いわゆるローテク。そこに向かって行ったのは、そこにオリジナリティを発見したから?
T 最初は深く思わなかったんですけど、描けば描くほどアナログって可能性が大きいなって思うんです。パソコンだとデータは作れるし印刷はできるんだけど、直にいろんなものに描くことってできないじゃないですか。これからもアナログにこだわっていきたいと思っています。
ー自分たちの絵の特徴はどんなところにあると思います?
T 色の使い方が強いなとは思います。
H 黒を基調にして、きれいなイメージを意識しながら描いてはいるんです。黒を基調としているのはブラックミュージックが好きでバックボーンにあるっていうこととか。最初の頃はレコードに描いていたんですね。それは今も続いているんですけど、黒の上に描くっていうことがスタートだったので。
ー黒ってどんなイメージを持っています?他の色に比べると、黒は多様ではないと思うのですが。
H 他の色を引き立たせるために背景に黒があると、パッと見えるというか締まるというか。見栄え的にも、それがかっこいいと感じたから使いたいって思ったんです。
ーライブペインティングを最初にやったのは?
T それも4年前です。クラブのイベントで。
H とにかく描ける自信がなかったですね。それまで描いていたものよりもすごく大きな絵を描くわけなので。しかも時間が決まっている。
T 最初はギリギリに描き終えて。みんなが「いい」って言ってくれたことで、やってよかったと思いましたね。描いているときは、とにかく焦っていました。今でも余裕はないですけど。
H 描くたびに、クオリティが上がっているっていうことを実感できるんですね。普段はなかなかわからない自分たちの成長が見えてくるんです。
ーライブペインティングだと、どっちが最初に描くことが多いのですか。
H 私が最初に筆を入れることが多いですね。最初にベースとなる絵を描くっていう感じです。
ー相手の絵の上に筆を落とすっていうことに躊躇はなかった?
T 最初はすごい申し訳ないと思いましたよ。きれいに顔を描いているのに、それを汚すことになるわけですから。今では、こう汚したらさらにかっこよくなるっていう思いで描いていますけど。
ー絵は足したら消すことはできないから。そこがアナログで描くおもしろさでもあると思うのだけど。
T レイヤーが分かれていればいいなって思うことは多いですよ。
ーライブペインティングをする際に大切なことってなんだと思います?
H その場の雰囲気に溶け込ませられるものが描けるかどうか。
ーデナリというユニット名はどんな思いがあって?
T 偉大なものっていう意味もあるんですね。僕らが好きなブラックミュージックは、すごく偉大な音楽だと思います。その偉大なものからの影響を視覚的に表現したいなっていう思いがこの名前につながっています。
ー今持っている目標は?
H ニューヨークで大きな壁を描きたいって思っています。日本では壁を提供してくれるところって少ないんですね。ふたりではじめて間もない頃、すごくやる気に満ちていて、壁をやるぞっていう気持ちが強くて。憧れがそこにあって、その憧れは今も持ち続けています。
取材協力 = grassroots(横浜)
0コメント