DIYスピリットが状況をポジティブに転化させる。【衣美(EMILAND)】

今の状況をポジティブに楽しむこと。それができるのが、音楽で通じる仲間たちがいるからかもしれない。ズクナシ時代から培ってきたDIYスピリットが、コロナ禍では自分たちを守り、そして次に繋げていくファクターになった。


文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko

— 去年、衣美さんがボーカルの女性だけのソウルバンド、ズクナシが解散しました。ズクナシは何年続いたのですか。

 17年ですね。本当によく続いたと思います。いっぱい紆余曲折もあったし。ズクナシってライブツアーバンドで、制作に時間をさけるけど、考える時間まではさけないっていうようなスケジュールを組んでやっていたんですよ。3人のなかでパンクしてしまったこともあって。


— 解散して、すぐにエミランドを始動させました。

 解散を決めて、そのまま少し休もうかなとも思ったんですけど、いろんな人と話したり、他の人のライブを見に行っているなかで、やっぱりバンドをやりたいって思ったんですね。自分に向いているのはバンドだって。


— エミランドという名前は?

 気楽な思いで決めました(笑)。私がやるバンドだよっていうことがわかりやすいといいなあと思った結果です。ランドというのは、ワクワクする音楽をいっぱい詰め込んで見せたいなあっていう思いもあって。


— 音楽を続けるモチベーションは、どこから生まれてくるの?

 やっぱりライブですね。私が一番できることってライブなんだとライブで確認して、また次に進んでいく。


— エミランドでは、音づくりはどうやって進めていったのですか。

 私の不器用さもあるんですけど、スタジオでセッションしながらつくり込んでいくというスタイルなんです。未完成の状態で持っていって、みんなのエッセンスを加えてもらう。


— エミランドでライブをやってみて、どんな感覚がありました?

 ズクナシのグルーブとはまったく違うグルーブでした。波打つ感じとか違うんですよ。育て続けてきたものが終わって、新しいことをやるっていう感覚がすごく楽しかったんです。新しいものを1から育てていくというおもしろさを、去年はすごく感じていました。

— 母親と音楽活動の両立に苦労することはないですか。

 まだまだ上手にはできていないと思っています。息子の暮らしは、すごく大事にしたいって思いはあるんです。音楽側に没頭してしまうと、息子のケアがおろそかになってしまうこともあるし。コロナ禍のときには、ライブがキャンセルになっていたから、みなさんと同じようにずっと家にいたわけです。息子との暮らしを大切にしていくと、本当はそこが豊かな生活になると思うんですけど、音楽はサヨナラっていうくらいになっちゃうんですよね。バランスを考えながら、うまくやれればいいんですけど。うまくできたかどうかは、子どもが大人になったときにしかわからないかなって思いますね。


— お子さんという存在が、いろんな経験ももたらしてくれている?

 息子という存在がいて、人間的には未だに成長させてもらっていると思います。反省もいっぱいしていますけど(笑)。


— コロナ禍でリリースツアーのファイナルが中止になりましたね。

 私の周りのミュージシャンたちは、ポジティブな人が多かったんです。状況に対して怒っているとか悩んでいるというわけではなくて、このなかでできることってなんだろうって前向きに考える。その考えをみんなでシェアする。外に出られないのなら作曲の時間にしよう、リモートでどこまでつくれるのかやってみよう、とか。まったく毛嫌いしていたネットでのやりとりも素直に取り組めたし。苦手なことなんだけど、それを楽しんでやろうという気持ち。配信ライブとか、実際にやってみておもしろさを知るというか。全国の人とつながれるきっかけになり、やりとりができる小さな喜びは、自粛期間中の大きな心の支えになったのかなと感じています。


— 新しいつながりも感じられた?

 もちろんライブという今までの音楽の発信の仕方が大好きですし、これからもそれを続けていきたいんだけど、今回得たものは無駄にならないと思うんです。何かをやりたくなったときに、引っ張り出せるひとつの材料ができたのかなって。


— ズクナシ時代からのDIYスピリットが、今に、そして未来に生かされるのかもしれないですね。

 サバイブ力というか楽しむ力というか、音楽に関してもDIYがやっぱり強いんだなって思います。すごく押し込められた日々だったんだけど、それを楽しむ力があるかないかで、1日の暮らしってまったく変わるわけじゃないですか。


— 次の目標ってどんなものを持っています?

 まずはライブでみんなとハグする環境になれることですよね(笑)。希望は持ち続けるタイプなんです。みんなで会える、直接会って話すっていうことがなんて素敵なことなんだって再確認しました。ライブに集まる人が好きだし、今、純粋にライブに行ったら泣いてしまうと思う。大きな目標ではなく、ひとつひとつトライしていくっていう感じが、今の私のなかにはありますね。

取材協力 = BAOBAB(吉祥寺)

EMILAND

17年という長きにわたって国内外でライブを続けてきた女性ソウルバンド、ズクナシ。2019年2月の解散後、ギターボーカルの衣美(エミ)が、ネクストレベルのソウル&ファンクを求めて、共にズクナシとして活動してきたドラマーの茜(アカネ)と、古くから親交のあったBobsan(Mountain Mocha Kilimanjaro)、Daisuke(RIDDIMATES)のふたりを誘って始動させたのがEMILAND。2020年にファーストアルバム『OPEN』をリリース。4月1日に予定されていたリリースツアー・ファイナルのワンマンはコロナ禍で中止となってしまった。

LIVE INFORMATION

10月11日(日)@渋谷THE ROOM

「UNDER GROUND SQUARE」

Live:EMILAND

DJ:gara、takuma、珍盤亭娯楽師匠、grandmaster X、JUN SASAKI

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