林業という次世代へのバトン。【木田正人(東京チェンソーズ)】

日本の文化の底流にある「木」。森を育みながら、木に託された日本の暮らしを伝えていく。東京の森を再生し、山を身近に感じてもらうための使命。

文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
写真 = 林 大輔 photo = Daisuke Hayashi

ー まず東京チェンソーズの成り立ちから教えていただけますか。

木田 東京都の森林組合にいた私を含めた4人が独立して創業したんです。それが2006年7月で、最初は個人事業でした。


ー 4人は地元の方なのですか。

木田 地元の人間はいないんですよね。私はもともと青森出身で、こっちに来る前は川崎に住んでいました。


ー なぜ木田さんは檜原村に来ることになったのですか。

木田 山仕事には縁がなかったというか、まったく頭にありませんでした。雑誌関係の仕事をしていたんですけど、会社の先行きが悪くなって、その後に本屋さんで働いたんですね。仕事はおもしろいんだけど、自分で本当にやりたくて選んだわけでもかった仕事。当時、環境問題もテレビなどで取り上げてられていて、山の土砂崩れは手入れされていない森が増えていることも要因のひとつなんだということも知って。なるほどな、という程度だったんですけど、頭には残っていたんです。ある雑誌を見たら山で働く人の特集だったんですね。いろんな職種の人が載っていたんですけど、そのなかに林業もあって。林業って転職してやる仕事なんだなって思ったんです。載っていた人も自分と同じ30代くらいの人でチェンソーを持っていました。それがかっこよく感じてしまったんです。調べてみたら全国の森林組合で募集していたんです。東京もあり応募した。東京に林業があるなんてまったく思っていなかったですね。


ー 林業も他の第一次産業と同じで担い手が不足していると聞こえてきますが。

木田 森林組合に入って感じたのが元気があるっていうこと。若い人が少ないって言われていますけど、林業はわりと多いんですよ。今も山の仕事をしたいっていう人は増えていると思います。

ー 東京チェンソーズという存在も、林業に入りたいという人にとっては大きな指針になっているのではないですか。

木田 こと自分のことを振り返ると、自分が林業に入ってきた時代にも東京チェンソーズのような会社があればよかったと思います。森林組合の募集は日給制で、しかも契約が半年だったんですね。それではやりたくても、入っていくには勇気がいりますから。


ー 東京チェンソーズとしては、どんなスタンスで山と向き合っているのでしょうか。

木田 現場の仕事はやっぱりメインであるべきだと思います。春に植えて、夏に下刈りをして、秋から冬に伐る。もともと山にあるのは、60年前の私たちの先輩たちが植えた木なんです。檜原村にも、伐られることを待っている木がいっぱいある。まずそういう木をどうにかしようという思いがあるので、それに根ざしていたい。ただそこだけにこだわるのではなく、森から発生するものを利用して、知恵を絞っていろんなものに加工するとか。3年前にチェンソーズで山を買ったんです。その山からいろんなことを発信していければと思っています。

ー 林業となるとやはり杉が多いのですか。

木田 東京都の仕事では山桜とか紅葉とか広葉樹を植えることも多いです。けれど自分たちの山では杉がほとんどですね。檜原村では普段見える風景の森は杉や檜ばかりです。もともとは広葉樹の森でした。第二次世界大戦が終わってから、それまであった森を伐採し、針葉樹に植え替えていきました。それから60年近くが経って、山の上のほうにある木は伐られていない。自分たちが伐ってまた植えているところは、伐って出せたという実績が残る。つまり、今植えた木も60年後には出すことができる場所なんです。杉や檜は花粉症などの問題もありますけど、それが植えられないと将来の木材産業が廃れてしまうかもしれない。プラスチックよりも木のほうがいいものっていっぱいあるじゃないですか。木の家もやっぱりいいじゃないですか。


ー 木という存在は、日本の文化でもあるように思います。

木田 林業というのはそれ自体が仕事ではあるんですけど、林業がなくなってしまうと環境も悪くなってしまうんじゃないかと思っているんです。その意味で考えると後継者の育成もとても大切なことです。自分たちの山は、一般の人も遊びに来られるような山にしたいんですね。ツアー的なものも企画したり。少しでも多くの人が山に触れるきっかけになればと思っています。


ー 林業とはバトンを受け継いでいくこと?

木田 林業って、植えた木の成長を自分で確認できるのって1回だけなんですよ。自分で植えた木は自分で伐ることは少ない。だから先を見ている人が多いかもしれないですね。今、自分たちがやっていることが50年後60年後につながっていくことを願っています。

木田正人
「東京の木の下で、地球の幸せのために、山の今を伝え、美しい森林を育み、活かし、届けます」を理念に2006年に創業した東京チェンソーズ。4人の創業メンバーのひとりとして、森林整備と広報を担当。林業を志す以前は雑誌記者もしていた。http://tokyo-chainsaws.jp/


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