ひとりになることで見えてきた音風景と遊び心がバックボーンにある世界感。【田我流】

ヒップホップシーンの枠を超えて大きな評価を得た前作『B級映画のように2』からソロとしては7年ぶりとなるアルバムがリリースされた。バンド・プロジェクトを経ての個人への回帰。今もなお山梨をベースに活動を続けている田我流が描いた音楽の風景。


文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi


ー 4月にアルバムがリリースされました。

田我流 ソロなんですけど、ソロだと7年ぶりになるんですよね。


ー バンドやプロジェクトではなくソロで制作した理由とは?

田我流 今まで一緒にやってきた仲間たちが多忙になってきて、ふと自分でやるしかないなって思ったんですね。ビート作りを覚えて、自分で作っていったら時間がかかっちゃって(笑)。


ー 自分でトラックを作ってみて、どんな感覚がありましたか?

田我流 俺、30代中盤になったんですよ。30代って、いろんなことに飽きてくる年齢かもしれない。自分とのシンクロ率が高いものを作りたいなって思ったときに、自分で作るしかないっていう状況になったんですよね。


ー ある種、自分に向き合うという作業だったのではないですか。

田我流 実際にやってみて、楽しかったけど辛かったです。いろんな感情が出てきた。まったく新しいことにチャレンジする。忘れてしまっていたその感覚を、このレコーディングで再確認して。「俺ならできる」みたいな自己啓発な部分もありますよ。


ー ひとりでやっていると俯瞰して聞くのは難しくなってくる?

田我流 ソロに限らず、音楽を作ることって全部がその戦いかもしれないですけど。なかなか自分の音楽を俯瞰して聞くってできないですよ。もちろんベストを尽くして作っているんですけど、向き合うっていうことがより重要なのかな。やっぱりこの時代の音楽なわけじゃないですか。今の時代では聞いてもらえるけど、200年後にはおそらく残っていない。だから本気では作るけど執着は捨てる。俺の曲がどうなるかなんてことは無視する。作り終わった後は、あまり荷物を増やしたくないっていうか。たくさんのものを買って、全部を持って移動するのって大変じゃないですか。大切なのは心だけでいい、自信だけでいい。そんなノリになりましたね。


ー アルバムを制作するにあたって、テーマなりコンセプトなりは決めたのですか。

田我流 『RIDE ON TIME』がアルバムのタイトル。流れに身を任せるっていうか。ある日この言葉がバーンって頭に浮かんできて。その意味では、けっこうスピリチュアルなアルバムかもしれないですね。


ー ミュージシャンになろうと思ったのはいつ頃だったのですか。

田我流 はじめてヒップホップを聞いたときに、ハンマーで頭をぶん殴られたような感覚があったんですよね。これだ、音楽が俺の道だって思った。それが高校1年のときですね。音楽家になるには免許のようなものを必要とするわけじゃなく、誰でもがなれるんですよ。俺は音楽家だと宣言すれば、その瞬間から音楽家。


ー 上手か下手かって関係ないし。

田我流 そんなことを気にする世の中でもないじゃないですか。こんだけいろんな音楽が溢れていて、新しいものなんて存在しないんじゃないかっていう時代で。やりたいっていう情熱が大切で、好きなことをやり続ける思いを持つこと。そんな時代になったんだなって思う。


ー 自分自身のなかでの変化ってありますか?

田我流 年間のスケジュールを決めて動くようになりましたね。この時期にはツアーをやって、この時期を制作に当てようとか。ほとんど全部決めてあるんです。


ー そのほうが動きやすいってこと?

田我流 それが自分の時間を作れるし、今の生活に合っているかな。自分のやりたいこと、ビジョンがはっきりするし、結果としてネガティブになりにくいのかなって思います。


ー 視野を広くすることに繋がるような気がします。

田我流 音楽だけやっていてもつまらないじゃないですか。遊びが含まれていないと、聞いていてもつまらない。俺の音楽を聞いて、なんか遊びに行っちゃったみたいになってもらいたいんですよ。結局は最終的には良いか悪いかなんて、誰かが決めること。自分でOKだったら、もうOKなんですよ。執着を捨てられるようになったのも変化したところですね。


ー 自分に置き換えると、なかなか捨てられないものも多いけど。

田我流 捨てられるものは捨てたほうがいいと思う。平成から令和に時代が変わったじゃないですか。時代の名前が変わるっていうことは大きなことです。すごいエネルギーが渦巻いている。どうせやるんだったら、自分のサウンドも一新するくらい、どんどん新しくなっちゃおうと。俺自身、こういう考えになるって思っていなかったですけどね。流れに身を任せていたら自然とそうなりましたよ。

『RIDE ON TIME』
自身の原点回帰を計るべく新しいプロデューサー陣と制作したサード・アルバム。リリックのみ ならずトラックも自分で作ることによって、現在の田我流が表出されている。8月には2枚組のアナログとしてもリリースされる。


田我流
山梨県笛吹市一宮町出身。趣味は釣り。高校1年でヒップホップに出会い、リリックを書きはじめる。2004年に地元の幼馴染とラップグループ= stillichimiyaを結成し、2008年にファースト・ソロ『作品集~JUST~』をリリース。今年4月にソロとして3作目となる『RIDE ON TIME』を発表した。11月1日に恵比寿リキッドルームで田我流 presents “Big Wave”が開催される。


田我流 presents “Big Wave”

「Wave」に客演参加している知立のリリシストC.O.S.A.と、「Cola」にプロデューサーとして参加しているVaVaをライブに招き、DJには、「夜のパパ」や「Anywhere」で共作している盟友KMが出演する。田我流が主催イベントを行うのは、昨年8月31日に渋谷WWW Xで開催した「Prelude To Ride On Time」に続いて2回目となる。

開催日:11月1日(金)

会場:恵比寿リキッドルーム

LIVE:田我流、 VaVa、 C.O.S.A.

DJ:KM

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