明日の西表のために、ひとりひとりが考え、行動することの価値。【Us 4 IRIOMOTE】

沖縄県八重山諸島にある西表島。日本では少なくなってしまった手つかずの自然が残っている島だ。その豊かな自然は、海洋ゴミやオーバーツーリズムなどで危機に直面している。西表の自然と文化を継承していくためのプロジェクトが動き出している。


文・写真 = 宙野さかな text & photo = Sakana Sorano

西表の自然と暮らし。

 沖縄県の八重山諸島。沖縄本島より台湾に近い八重山諸島には豊かな自然が残されている。八重山諸島でもっとも大きな島が人口2300人ほどの西表島。空港がなく、人口も少ないこともあって、手つかずの濃い亜熱帯の風景に出会うことができる。動植物の固有種も多く、イリオモテヤマネコは1960年代に発見された。20世紀に入ってからの中型以上の哺乳類の発見は世界的にも稀有だという。


 紅露(くうる)工房は、芭蕉や苧麻、ヒルギ(マングローブ)など西表島の素材を使い染織を行なっている。紅露工房を主宰しているのが石垣金星さんと昭子さん。紅露工房の布はニューヨーク近代美術館(MoMA)に出展されたこともある。龍村仁監督の『地球交響曲第五番』でもふたりは取り上げられている。「西表は国立公園だからヒルギを伐採することは禁止されているんです。西表の文化として残せるのであれば許可する、ということで特別にヒルギを植えながら採っています。芭蕉の糸、苧麻の糸、自然の素材を利用したもの作り。植物から糸を作って、植物から色を出す。西表は、アジアのなかでも、日本のなかでも優れている場所だと思います。森からいただき、畑でも栽培する。すべてを土からもらっているんですね。これは都会ではできないことです。島ではそういう暮らしが昔からあって、別に難しいことではないんですね。当たり前の仕事でした。外の仕事を金星がやって、なかの仕事を私がやっているんです」と昭子さん。


 紅露工房の染織にとって、土や太陽だけではなく、水もまた大切な要素だ。染められた織物は、海水と川の真水は入り混じる汽水域で洗い流される。海ざらしと呼ばれる作業だ。


 「浦内川の真水と東シナ海の海水がちょうどよく混じる場所。汽水域のなかにマングローブが生えていて、それが干満によって純度の高いマグネシウムとかオゾンとかいろいろなミネラルが含まれていって、いろんな効果を生んでくれます。昔の人はミネラルがどうのこうのとか知らなかったと思うのですけど、昔から海ざらしをやっていたんですね。沖縄でも生活排水が海に流れ込んでいるから、汚染されているところが多い。だけど西表は海岸線に生活排水が流れ出すっていうことはほとんどありません。だから海も川も、非常にきれいな水なんです」


 西表の祖納集落出身の金星さんは、祖納で代々受け継がれてきた祭りや唄を伝承する活動も行なっている。祖納の「節祭(しち)」という祭りは500年も続いている祭りだ。「節祭」は八重山でもっとも歴史を持つ祭りとも言われている。西表は自然とともに文化も豊かな島だ。


 西表で八重山環境ネットワーク西表エコプロジェクトを立ち上げ、海岸の漂着ごみを収集するボランティア活動を行っているのがツアーガイドの森本孝房さんだ。森本さんは10年以上も前から、この活動を行なっている。


 「西表は周遊道路もないことから、回収が困難なところも多い。回収が困難なうえに人も少ない。海岸線だけではなく、マングローブ林の奥でさえゴミが堆積してしまう。拾えるような大きなゴミだけではなく小さなゴミも問題です。木が倒れている海岸線をみなさんも見かけると思います。マングローブの根元に漁網やロープ、細かな紐が絡みつき、押し込められたたくさんの漂着ゴミに包まれています。このゴミによってマングローブが枯れると、その陸地側にある防潮林も枯れてしまう。マングローブが塩害や波から守ってくれているからなんです。定期的にクリーンアップできれば、自然が戻ってきて、森も戻ってくるんじゃないかと思っているんですけど」


 ゴミを拾っても、風が吹けばゴミは流れ着いてしまう。森本さんをはじめとするボランティアだけでは、沖縄本島に次ぐ大きさを誇る西表をカバーすることは不可能だ。しかも西表には産業廃棄物処理施設がないことから、そのゴミを石垣まで船で運ばなければならない。その費用も大きな負担になる。


 西表に流れ着くゴミは、中国や韓国のものが多い。風向きや海流によってそうなっているのだけど、日本から流れ出ているゴミが少ないわけではない。隣の国に原因や責任を押し付けるのではなく、すべての人が自分の問題として考えなければならない時期に来ている。

世界遺産がもたらすもの。

 西表では奄美や沖縄本島北部のやんばるとともに世界自然遺産の登録に向け動いている。この島の圧倒的な自然に触れれば、世界自然遺産への登録は当たり前のように思えてしまう。昨年、ユネスコに申請していた推薦書をいったん取り下げることが決定されたものの、2019年2月1日に再申請が提出された。2020年夏頃には世界遺産委員会において審議が行われる。今でも年間に30万人もの人が訪れている島。もし登録されれば近い将来に観光客は倍以上の70万人になるという予測も立てられている。島に訪れる人が増えれば、当然のように島に持ち込まれるゴミも増えるだろう。


 「世界遺産に登録されることによって、これ以上自然が壊されないっていうメリットはありますよね。自然だけではなく文化も含めて文化自然遺産として登録できないかと提案したことがあります。文化は暮らしじゃないですか。自然と文化はここでは一体なんですよ。文化を中心にして暮らしがあって環境がある。それが西表の生き方ではないかと思うんです。西表の祭りごとには500年の歴史があります。500年も続いた祭りを500年先までどう伝えていくか。これは金星の持論なんです。それを考えながらやっていかなきゃって思うんです。なぜ西表は自然が残っているのか。突き詰めて考えていくと、それは人の暮らしであり文化がもたらしてくれたものなんですよね。どう伝えて、どう学んでいくのかが大切ですから」と昭子さん。


 「生態系は三角形で成り立っている。底辺のものが上を支えているけれど、一番上にいる生物は、弱いものいじめをあまりしないものなんです。生態系を壊しているのは人間だけですよ。他の生物は支え合っている。世界遺産になることは反対ではないんです。どうルールを作っていくのか。なるべくゴミにならないものを使う。ゴミになるにしても、土に戻るものにする。昔のものは自然の素材を使っていたから、そのまま自然に戻っていたんですけどね」と森本さん。


 島が受け入れられる以上の来島者によるオーバーツーリズムが見込まれるなか、多くの人を受け入れつつ、西表固有の豊かな自然や文化をどう次世代に伝えていくか。イリオモテヤマネコは、開発による生息地域の破壊などにより、在個体数は現在100近くまで減少していると考えられている。さらに昨年は9件もの交通事故もあった。これは過去最大の多さだった。西表の食物連鎖の頂点にいるイリオモテヤマネコがもし絶滅してしまったら、西表の自然環境が大きく変わってしまうことも予想される。


 その場を訪れるツーリスト自身が考え、行動し、守り伝えていかなくては自然を守ることは難しい。そんな考えが「アス・フォー・イリオモテ (US 4 IRIOMOTE)」が立ち上がった大きな要因のひとつだ。人がその場所を訪れ、何かを受け取り自分の毎日の暮らしに持ち帰る。さらにどうその場所のことをひとりひとりが考え、行動していくのかも大切になってくる。


 KEENが中心になって動き出した「アス・フォー・イリオモテ」では「知ろう」「守ろう」「話そう」「残そう」の4つのキーワードを軸に様々な活動が展開されていく予定だ。毎日のように流れ着く海洋ゴミ、そして予想されるオーバーツーリズム。暮らしと環境という視野をどうリンクさせていくのか。「アス・フォー・イリオモテ」が掲げる4つのキーワードは、西表に限らず自分の暮らしに、そして自分たちの未来に直結している。

UNEEK EVO (ユニークエヴォ)
2本のコードと1枚のソールで編み上げられたオープンエア・スニーカー「ユニーク(UNEEK)」。他に類を見ないデザイン性だけではなく、履き心地にもこだわったモデルだ。その「ユニーク」の2019年アップデートモデルがユニークエヴォ。定番カラーに加え、西表島の固有種であるイリオモテヤマネコの柄をイメージした「IRIOMOTE パック」3色もラインナップに加えられている。「IRIOMOTE パック」の売り上げの10%は、西表島の豊かな自然と文化を明日に継承していくプロジェクト「アス・フォー・イリオモテ(Us 4 IRIOMOTE)」の活動に活用される。https://www.us4iriomote.org/


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