A HOPE HEMPの生みの親、川中孝胤さんは長くアパレル業界に携わってきた。高校生の頃からカジュアルショップでアルバイト。大学卒業後は商社で服作りのノウハウを学び、91年に独立すると物作りに勤しんだ。転機となったのは97年。それまで幾度となく訪れていたアメリカで、薄暗いイメージだったヘッドショップが白壁の明るいお店に変わっていることに衝撃を受けた。
「そのとき思い出したのが、ヘンプの有用性を説いたジャック・ヘラーの著書『The Emperor Wears No Clothes』でした。これだ! とひらめいて、翌年には第一号のTシャツを作りました。完成は嬉しかったのですが、縮みやすく撚れやすい、通常より2割以上も生地を多く要することなど素材の課題も残しました」
ヘンプを糸にするのに使うのは茎の部分。太くて長さのばらつきもあるため、紡績し、生地にするのが難しいのだという。「良いことばかりなら、もっとみなさんが使っていると思いますよ」と笑う川中さん。現在ではさまざまなアイテムを作っているが、マイナーチェンジを繰り返しながら作るTシャツは20年経った今でも基幹商品だ。そしてもうひとつ、15年前から奈良県広陵町の職人さんとヘンプで作る靴下も多くの人に愛され、ブランドの顔に成長した。
「今世界はグリーンラッシュ(大麻関連産業の急成長)に沸いていますが、日本のアパレルではその兆しが見えません。それだけ扱いづらい繊維ではありますが、もう一度、土壌を汚さず、地球温暖化にも効果があり、それでいてとても着心地が良いヘンプというものを知ってほしいです」
川中さんは現在、大阪市天王寺玉造の商店街で、かつて寝具店だった実家の「寿屋(コトブキヤ)」を改装し、新たにオープンする準備に入っている。A HOPE HEMPの商品に加え、ヘンプで作るシーツなどの寝装品も扱う予定だ。オープンは来年秋を予定している。
文 = 甲藤麻美
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