ヘンプという言葉をファッションから浸透させるために。【橋本淨 GOHEMP】

ヘンプ・アパレルブランドGOHEMPは、今年設立25周年を迎えた。野外フェスの気分をフィーチャーするスタイルのひとつとして、アウトドアブランドとともに、地球に優しいヘンプという素材がもたらしてくれたものは大きい。


文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito


ー ヘンプという素材を使うようになったきっかけを教えてください。

橋本 92年〜93年頃に香港の生地屋街で、大麻って書かれている生成りの生地を見つけたのね。当時、アメリカでヘンプの生地を使ったTシャツや洋服を作っているブランドが少しずつ出はじめた頃で。自分たちでもヘンプで洋服を作られたらいいなって思って、香港の代理店から中国の工場に持って行ってもらって、「これで服を作りたい」ってお願いしてみたんです。そしたら驚かれてしまって。「中国では亡くなった方が身にまとう服の生地だよ」って言われたんです。今考えれば、死んだ方の身を包むっていうことは、腐敗を抑え、匂いも抑え、虫がつきにくい。そんな役割をする素材だったんですね。そしてヘンプのことを調べていって。年に3回も収穫できるし、無農薬無肥料で育てられる環境保護にも優れた植物だということを知ったんです。


ー 環境的な視点がヘンプという素材に注目した大きなポイントだったのですか。

橋本 10代の頃からサーフィンが趣味だったんです。時間があれば海に行って、波乗りばかりしていました。九州の北のほうの海だったから、ハングルが書かれたペットボトルの漂流物が多かったんですね。自然のなかで遊んでいるのに、なんか嫌だなって思っていて。そのうちにサーフブランドに就職して、洋服のことを学んでいきました。いつしか、サーフィンとかアウトドアとかにもリンクするような、地球に優しくて機能的な服を作りたいなって夢を持つようになったんです。独立して、デニムが好きでしたからデニムブランドのGOWESTをスタートさせた。そして服作りで最初に描いた環境に即したブランドを立ち上げたいと思って、 GOHEMPというネーミングにしたんです。


ー このGOHEMPが、今年25周年を迎えました。

橋本 25年前は、ほとんどの日本の方は、ヘンプという単語さえ知らないという時代でしたね。ヘンプは日本語で言えば大麻です。大麻っていう言葉を口にするだけでも、悪者のイメージになってしまう。僕らはそういう教育を受けてきていますよね。ヘンプという単語だとしたら、それは洋服の素材のひとつと思って口にしやすい。 GOHEMPというブランド名にすることで、ヘンプという単語を定着させたいという思いを持っていました。


ー 認知という点では、ずいぶん広まっていると思います。

橋本 その思いでずっと25年続けてきているから。例えばリーバイスが5年以内に全商品にヘンプの導入を検討したり、パタゴニアがヘンプ・コレクションを展開したりして、ファッションに関わっている方は当然のように知っているだろうし、フェスが好きな人も理解していると思う。そういう部分ではGOHEMPというブランドをやってきて、ちょっとは意味があったのかなって思いますね。


ー 25年前に立ち上げたときに、長期ビジョンは持っていたのですか。

橋本 ヘンプを素材として扱うことは、未来志向だと思っていました。すぐに売り上げには直結しないかもしれないけど、どこかで花が咲くときが来るんじゃないかと信じて。手探りでしたけど、少しずつ伸ばしていって。時代が求めてきたっていうのかな。そんなことも少しは感じていますね。


ー 確かに環境というメッセージは、今の時代、これからの時代にも絶対に必要なものです。

橋本 ファッションブランドは、今年はエスニックで来年は70年代とか、いろいろテーマを設けてもの作りをしています。 GOHEMPは、変わらずに一貫したテーマなんですね。ヘンプを使って地球環境に優しいもの作りをすること。それだけでずっとやってきているから、ファッションよりもアウトドア・ブランドのコンセプトに近いんじゃないですかね。


ー GOHEMPは〈フジロック〉や〈朝霧ジャム〉などのフェスに出店しています。ヘンプはフェスのスタイルのひとつとさえ言えます。フェスに最初に出店するようになったのはいつ頃だったのですか。

橋本 最初は〈ナチュラルハイ!〉か〈朝霧ジャム〉ですね。自分が音楽好きだったし、野外フェスのテーマのひとつに自然とのリンクがあるじゃないですか。ヘンプは新素材じゃないから、雨とか風とかには対応能力が低いんですけど、天然素材ですから、和んだりするときには最適なんですね。自然を感じるチルウェア。


ー 今後、どのような目標を持っていますか。

橋本 大きな目標としては、日本で育てたヘンプで洋服を作りたいですね。今はGOHEMPに限らず、他のブランドも使っているのは中国のヘンプがほとんどです。日本で育てられているヘンプはそれほど多くなくて、神社とか相撲の横綱のしめ縄として使われているだけですから。

橋本 淨
YELLOW DIVISION 代表。1989年に独立し、デニムブランド GOWEST を立ち上げる。大手セレクトショップのOEMで事業をスタート。94年に人や地球に優しい服としてGOHEMPを立ち上げる。2009年に恵比寿にGOHEMP 直営店JUZUをオープン。今年、GOHEMPブランド誕生から25周年を迎え、海外も視野に入れた新たな転機を迎えている。https://www.gowest.jp/

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