歌うことを大切にしていた自分からの覚醒。【児玉奈央】

児玉奈央
セルフプロデュースした作品をはじめて制作した歌い手。すべてが自分の判断に委ねられていく。一歩一歩進んでいくなかで、新しい自分が発見できたという。

文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano

写真 = 北村勇祐 photo = Yusuke Kitamura


ー 『IN YOUR BOX』はソロのオリジナルアルバムとしては9年ぶりのリリースになるのですね。

奈央 曲はできていて、3年くらい前に出そうと思って動いてはいて、デモも録っていたんですけど。自分のなかで「ちょっと待てよ」っていう思いが出てきちゃって。素晴らしいミュージシャンが集っていてクオリティとしてはまったく問題ないんですけど、自分の心持ちがすごく足りない気がして。そこで一回ストップしちゃったんです。


ー 再びレコーディングしようと思ったきっかけは?

奈央 空いていたピースが埋まってきたって感じたんですね。ひとり目の子どもを産んでから、もう少しで10年になるんです。産む前の感覚に戻ってきている気がしていて。身体もクリエイティビティも。


ー 子どもの手が離れたとこともその要因にある?

奈央 それもすごくあると思うんです。自分の時間もすごく持てますから。自分の人生みたいなものがすごく戻ってきた感じなんです。しかもバージョンアップされている。「あ〜、作りたい」という気持ちが3年前よりも数倍高まってきて。

ー そしてはじめてセルフプロデュースで制作することに到達したんですね。

奈央 3年前の制作時は、みんなで共同作業をしようとしていたんですね。私は気持ちよく歌うことに集中していた。今回は制作に入る前に、私が判断して私が指示を出そうって決めたんです。最初はなんてことに手をつけちゃったんだと思ったけど、だんだん自分が覚醒していくのがわかって。「私って見えていたんだ、わかっていたんだな」って。他者に対してすごく遠慮していた自分がいたこともわかって。必要以上に人の心を読もうとするとか。それはバンド育ちっていうこともあると思うんです。でもそういうのって誰も幸せにならないなって思えるようになって。自分のソロ作だし、自分が判断を下すっていうことはすごく自然なことだし、そうすることでみんながより協力的になってくれました。


ー 他者が持っていた児玉奈央というイメージにとらわれずに自分を出すということ?

奈央 大人になって、どんどんレイヤーというか層ができてきてしまって、常識的なものが重くなってきたんですね。でも心の奥のほうには、絶対に負けたくないとか、野生の気持ちとか、悪戯心とかが潜んでいる。音楽によって、その奥底にあったものを照らすことができた。無くなったわけじゃないんだよって、音楽をやることによって感じられるっていうか。


ー ある部分では自分で規制してしまっていた。

奈央 30代ってそんな年齢なのかもしれないですね。どこかにロックをかけていた。若い頃は勢いで行けていたし、さらに年齢を重ねれば円熟というか別の楽しさが出てくるんだろうし。

ー 奈央ちゃんにとって、音作りとはどういうもの?ざっくりしすぎる質問だけど。

奈央 このアルバムを作って、足りないものをやっと補えた感じがしています。


ー 次はどんなステージに上がるんだろう?

奈央 もっとプロデュースをしたいですね。自分の次の作品を早く作りたいし。人の作品を頼まれたとしても、いろんなアイデアが出てくるかもって思いました。やっぱり音楽好きなんですよ。日々聞いているし、子育てしていてもいつもインプットしていたから。やっとアウトプットができたというか。前は自分の好きな音楽とやっている音楽との差を感じることもあったのだけど、やっとそれがマッチした。だからこの作品を作ったことで、すごく自信になったし、人と話せるようになったと思います。

取材協力=コントン

IN YOUR BOX
2005年にアコースティックユニットのYoLeYoLeを結成。活動休止後、2009年にソロとしてファーストアルバムをリリースした。オリジナルとしては9年ぶりとなる3枚目『IN YOUR BOX』が4月にリリースされた。6月2日の川崎・元住吉powers2ではトリオ編成でライブが行われる。http://www.naoecho.com/

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