小笠原の日常から生まれる視点を紙で伝える。【ルディ・スフォルツァ(フリーペーパーORB)】

ルディ・スフォルツァ(フリーペーパーORB)
暮らしている人間の視点で小笠原を伝え、小笠原の生の声を残したい。その手段としてウェブではなくフリーペーパーというメディアを選択した。発行したことで、自分のなかに潜んでいた軸を見いだすことができたという。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 林 大輔 photo = Daisuke Hayashi


ー 生まれはどちらなのですか。

ルディ 東京で生まれて東京で育って。父がイタリア人です。高校の頃に家族がスイスに引っ越したこともあって、しばらくスイスに住んでいました。高校を卒業してから、日本の大学に進学すると決めて自分だけ戻ってきて。友だちが日本には多いという理由で、それほど深く考えることなく日本の大学を選んだんですけど。


ー 小笠原に移住したのはいつ頃だったのですか。

ルディ 2012年です。その前に小笠原に3回来ていて、2回目には引っ越すことを考えていましたね。


ー 小笠原のどこに惹かれ移住を決めたのですか。

ルディ 小笠原がものすごくきれいな場所だったということはもちろんあります。それ以前に、東京を出たいという思いを抱いていて。何か理由を見つけて、東京から離れてまったく違うところに行ってみたいという考えがありました。確かに10代の頃は東京が刺激的で、都市にいることがすごく楽しかった。大人になってからは生きていくためにどんな仕事をするのかっていうことが大きくなっていった。それがストレスになっていたんでしょうね。実際に身体がおかしくなったこともありましたし。


ー島ので暮らしは最初から受け入れてもらえたのですか。

ルディ 基本的には誰に対してもウェルカムなんですよ。みんな間違いなく優しい人たちです。それを遊びに来ていた頃から感じていました。これが小笠原に惹かれた理由のひとつです。ただ実際に住みはじめて、どんどんその社会に混じっていく段階に入っていくときに、線っていうものがはっきり現れてくると思うんです。なかなかローカルにはなれないっていうか。その線があることはむしろ正しいことだと思います。


ーなぜフリーペーパーを小笠原で作ろうと思ったのですか。

ルディ 最初の3年間で島で暮らしていけることを確立させ、それができた次の3年は自分自身がこの島のなかでできることを作るっていう目的を決めたんです。『ORB』を創刊したのは2016年でした。もともと表現することが好きでしたし、若い頃は音楽もやっていたし、絵を描くことも好きだったし。表現プラス発信することができないかなって思って。この島って発信することが少ないってずっと思っていたんです。観光資源についてはいくらでもあるんですけど、それ以外のこととなるとさっぱりなくて。例えば人々の暮らしぶりを発信することはまったくない。グリーンぺぺというカフェレストランがあって、マスターのシローさんとずっと仲良くさせてもらっているんですけど、彼が40年くらい前に小笠原のローカル紙を仲間たちと自費で作っていたということを聞いて。「40年前に同じことを考えてやっていた人たちがいたんだ」って知ったら、今やらなければならないことだって思ったんです。自分は英語も日本語も書くことができましたから、他の人はやっていないし、できないだろうと。

ー創刊前後、周りではどんな反応でしたか?

ルディ 小笠原でフリーペーパーを出すことは無理だと思うよっていう人も少なからずいました。一方でこころよく応援してくれる人たちも多くて。何とか1号が完成して、刷り上がったものを手にしたときは本当にうれしかったですね。


ーフリーペーパーを続けたことで変化はありましたか?

ルディ 島のなかでのポジションっていうか、軸がどこにあるのかっていうことを確立できたことが自分にとっては大きくて。小笠原に来た理由も、もしかしたら軸を求めていたのかもしれない。世界のなかでの自分自身の軸がどこにあるのかっていうこと。


ーその軸が小笠原にあるということを見つけられたのですね。

ルディ 東京だとある意味では選択肢も多いわけじゃないですか。逆に選択肢が多いことで見つけにくい。だから暮らしたいと思える場所を探そうと思って。自分がここで暮らしたいと思える場所が見つかれば、そこで生きていくためにやらなければならないことが自然と目の前に現れてくる。


ーそして暮らしを自分の理想に近づけていけばいい。

ルディ 小笠原はきっとそれが可能だと思うんです。国立公園でしかも世界遺産で、島の人にとって自由になる土地が少ないという現実もあります。難しいという実情はあるかもしれないけど、移住という自分の選択でここに来ている人が多い。島の人たちは、やろうとしていることに対して、ダメって言わないんですよ。寛容なんです。島でどんな暮らしをしたいのか。自分たちの理想を追求したいって思いますね。せっかくこんな素晴らしい場所にいられるわけですから。


ー個人的なビジョンとして、何年先まで描いているのですか?

ルディ 3年ですね(笑)。3ってパーフェクトナンバーとも言われているじゃないですか。なんとなく3という数字が好きなんです。『ORB』は創刊して3年になります。どう継続させていくのか。それが今の課題ですね。

ルディ・スフォルツァ
2012年に小笠原に移住。2016年にフリーペーパー『ORB』を創刊。昨年12月に5号を発行した。父島と母島のカフェや宿での配付がメインではあるものの、ONLY FREE PAPERなど内地でも入手可能。在庫状況にもよるが、着払いでの発送もしている。https://freepaperorb.tumblr.com/

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