「ただの”にんげん”として、世界と音に出会う場所」をテーマに、東京の代々木公園で初開催される「集楽座」。代々木公園の中に2日間だけ現れる、誰もが主役になれる「村集落」。鳴り響く音に身を任せ、見知らぬ誰かとリズムを共有する。境界線が溶け合い、ひとりひとりが風景の一部となったとき、そこには新しい「ひとつの一体感」が生まれる。「集楽座」で建築・演出を手掛ける遠藤治郎と「橋の下世界音楽祭」のオーガナイザーであり、この祭りでも企画制作を担う根木龍一の対談。
––– 10月に代々木公園で「集楽座」という新しいイベントがスタートします。まず、このイベントが動き出したきっかけから教えてください。
根木 アースガーデンをオーガナイズしている(鈴木)南兵衛さんから、「代々木公園で新しいことができそうなんだけど、興味ある?」みたいなことを言われて。南兵衛さんは「橋の下(世界音楽祭)」をイメージしていたようなんです。僕は「橋の下」の主催のひとりで、東京でもやれたらおもしろいだろうなと考えたことはあるけど、「橋の下」って、豊田のあの場所だから成立しているのであって、土地にも根付いてきた祭りでもあるし。
治郎 東京にもローカルな場所はあると思うんだけど、代々木公園はローカルじゃなくて、あくまでもジェネラルなんだよね。インターローカルと言い換えてもいいかもしれない。
根木 誰のものでもないっていうか。
治郎 そこに集うみんなのもの。歴史を振り返れば、もともと歩行者天国があって、竹の子族がいて、ロックンローラー族がいて。昭和の自由を集めたような文化的背景がある場所なんだよね。根木 僕らが高校生の頃には、ブランキー・ジェット・シティがフリーライブをしていましたから。前の日から野宿して、最前列で見たのが思い出です。
治郎 その後、レイヴやパーティーっぽいものもいろいろあって。それが潰されて、ディスコ音楽禁止みたいにもなって。
根木 代々木公園で何かをやるのなら、治郎さんとやりたいなって、ふと思ったんですよ。
––– ふたりの出会いについて教えてください。
治郎 「橋の下」の噂はよく聞いていて。それで「橋の下」でブースを作るという話をもらって、作りに行ったんです。それが去年の「橋の下」。その後、タイの「ワンダーフルーツ」に根木さんが来てくれて。
根木 「ワンダーフルーツ」には一昨年、OKIさんと行っていたんですけど、そのときはあまりゆっくり見られなかった。でも、空間演出がすごくて。それをもう一度体験したくて、去年も行ったんです。そして、治郎さんの手がけたものをじっくり味わって。「ワンダーフルーツ」があって、代々木公園では治郎さんとやりたいって思ったんですね。
––– 治郎さんは「ワンダーフルーツ」で、「モーラムバス」の設計・デザインを手がけたんですよね。
治郎 1970年代の古い従業員用バスをリノベーションして、バスの中でエキシビションを行う。それをタイのイサーン(東北部)にあるジム・トンプソン・ファームでやったんです。同時にその後、「ワンダーフルーツ」でもやることになって。「ワンダーフルーツ」では、2年目の2015年からモーラムバス・ステージの空間演出に関わっています。
根木 このモーラムバス・ステージがめちゃくちゃ盛り上がっているんです。モーラムは「ワンダーフルーツ」のシンボル的な存在になっていて。
治郎 「ワンダーフルーツ」はタイで開催されているんだけど、あらゆる面でインターナショナルを目指しているフェス。タイで名のあるバンドやミュージシャンばかりを集めたフェスではなくて、「ワンダーフルーツ」では知らなかったDJでも、すべてのアーティストが当たりだっていう。ラインナップありきでチケットを売るというわけではない、というのかな。さらには音楽が先にあるわけじゃなくて、ライフスタイルやアートが並行して存在するという概念のフェスなんです。しかも、会場が主催者個人の土地だから。
根木 そこもすごいですよ。自分の好きなように時間かけて考えれる私有地というのが。
治郎 タイでは日本と違って、税制がそうなっていることもあって富裕層が経済的にも簡単には没落しない。たとえば「ワンダーフルーツ」のボスは、たしか小さな頃からスイスに留学して、スイスの寄宿舎で育っている。ローカルだけでない文化的視点を持っているんですよ。その理解があって、振り切ったことをしたいというモードを持っている。良い意味でインテリヒッピーなんですよ。
根木 アメリカのデッドヘッズも、インテリも多かったりしますよね。
治郎 彼が持っている土地に常設の建造物を作って、そこにいろんなアイデアを追加していく。もちろん仮設との組み合わせなんだけど、常設と仮設のバランスを取りながら、10年かけて更新してきた。
––– 「ワンダーフルーツ」に近いものを「集楽座」でも?
治郎 近いものはできないですよ。「集楽座」の種というか、遺伝子は「橋の下」にあると思っていて。ローカルではない東京にローカルは起こせるのか。代々木公園でそれを地道に続けてきた南兵衛さんと、「橋の下」の根木さん、そして「ワンダーフルーツ」など海外での経験を積んだ僕という座組みが、突然できあがって。そして「集楽座」につながっていって。
根木 「集楽座」のコンセプトは、みんなで話し合いながら決まっていった感じですね。
治郎 名前の発案は僕なんだけど、基本的には会話を重ねるなかで生まれてくる。みんなでセットアップしていくなかで、浮かび上がってきたアイデアが集まっていく。
––– だからこそ「集楽座」というタイトルなんですね。フェス当日も、いろんな人が集まることで、新しい何かが生まれていくという。
根木 その日の代々木公園では、「集楽座」だけでなく、ナイトマーケットもアースガーデンも開催されているんです。その意味では、いろんな人が集まれる場所だと思います。
治郎 フェス・イン・フェスなんですよ。メインステージの周りを囲むような。
––– 空間づくりにはかなりこだわっているのですか。
治郎 「装飾」とは言わないでほしいんですよね。僕は建築だと思っていて、「デコレーション」という言葉がどうも嫌で。そもそも近代の始まりの頃に「デザイン」という言葉ができたじゃないですか。その前は「装飾美術」と呼ばれていたんです。それから100年も経っているのに、いまだに「装飾」はないだろうって。空間を作っているんだから、それは建築じゃないのかって。もちろん、建築のなかには装飾的なものも含まれるんだけど、造作をすべて「デコ」と呼ぶのは、自らを「表層」におとしめていないかって。
––– フェスやイベントでは、「装飾」あるいは「デコ」という言い方が当たり前になっていますから。
治郎 分類すること自体もよくないと思っていて。分類は、あくまで運営や制作側が都合よく仕事を進めるために、照明とか映像とか、責任分担を決めているだけ。でも、お客さんからしたら、そんな分類は関係なくて、いろんなものがどう溶け合っているかを見たいだけなんですよ。今の日本のフェスやイベントは、分解能が強すぎる。それがお客さん側に見えすぎると、場を冷やすんですよ。
根木 日本では、あくまでも仕事を成立させることが前提になっていることが多いですよね。
治郎 「野生的」な海外だと、照明、映像、音楽とお客さんの盛り上がりがバチッと重なったときに、FOH(Front of House)ではハイタッチになる。日本では、なかなかそれがないんですね。能面みたいな顔をしてやっている。トラブルがないことが100点で、それを成し遂げてから次があるんだぞ、という文化だから。野趣なのは80点を最低ラインとして、それが瞬間的に120点になったりする。そのピークがどのくらい多発できるかがフェスなのに。凹凸があって、ダイナミックレンジがあるということが大事なんです。満点を目指すことがプロであるというなら、プロは機械になれということ。それだったら、これからの時代、人間がやらなくてもいいということになってしまう。AIのロボットがやってくれるわけだから。
根木 イベントやフェス、祭りを作っている我々ひとりひとりも、楽しまなきゃいけない。楽屋が盛り上がっていないライブやイベントって、僕もすごく嫌で、楽屋を常に楽しくするのを心掛けてます。裏も表も楽しくないと。
治郎 チーム全体で作っていく。そのなかで、ひとりひとりが前向きに楽しみながら関わっていく。「橋の下」って、そうなっているじゃないですか。
––– 治郎さんにとって、「橋の下」の魅力はどんなところにあると思いますか。
治郎 人の幅があることかな。普通の人から濃い人まで、バリエーションの広さと深さが「橋の下」の素晴らしさなんだと思う。お店にしても美術にしても、いろんなものがあるじゃない。その逸脱感がいいんじゃないかな。
––– 1回目の「集楽座」は、どんな空間になると思いますか。
治郎 「橋の下」には、多様なものが入り混じって、質の違うものが濃度を持って存在している強さがあるよね。その強さが少しでも出せればと思っています。出店するお店に頼る部分もあるけど。お店に「こうしてほしい」とマニュアルを渡すのではなく、話し合って、いろんなものがプラスされていけばいい。統合するんじゃなくて、関係を生みながら個別に変化していく。建築の言葉に「ヴァナキュラー」という言葉があるんだけど、代々木公園の「集楽座」という場所に合った空間を作って、というより出来ていくということ。一見したところスラムのように見える街にも、そこの人々の暮らしから自律的に生成された美しさが生まれていたりするじゃないですか。そんな感じ。
––– それを2日間の代々木公園で実現するというのは、かなりのチャレンジなんだと思います。
治郎 トライ以外の何ものでもない。1回目なんだもの。
根木 決まっていない空間が作れるんだということを見せれたらおもしろいですね。それも、代々木公園という誰もが来られるパブリックな場所で。
––– ところで治郎さんの肩書きは何になるのですか。
治郎 「フェスティバルアーキテクト」という言い方をしていますね。祭り建築家。光も建築の一部。一般的に建築は空間じゃないですか。空間は時間を自由にしているんですね。イベントや舞台は、実はタイムラインで人を縛る仕掛けになっていて、時間の設計なんです。そこに空間も付随する。僕はその間が好きなんですね。空間と時間の、自由さと縛りが溶け合い共振する瞬間が、フェスのハイライトだと思っているんです。その瞬間はその場限りのものですけど、だからこそ刺激的なんですよ。どれだけその瞬間を作れるかということが、自分たちの仕事だと思っているんですね。
集楽座 Collective Sounds & Cultures
開催日:2026年10月24日(土)25日(日)
会場:代々木公園 野外ステージ アースガーデン“秋”内(東京都渋谷区)
出演アーティスト:
10月24日/鬼の右腕、北村蕗、滞空時間 Taikuh Jikang、CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN、民謡クルセイダーズ、ほか
10月25日/安部勇磨 (Band Set)、ELECTRONICOS FANTASTICOS!、Summer Eye、T字路s、中西レモン&すずめのティアーズ、ほか
支援参加券:
1日参加券「入座札」¥2,000(税込)
2日参加券「座衆札」 ¥6,000(税込)(木製座衆札付き)
主催:アースガーデン
企画制作:MATAHARI、microAction、KOKICIK
建築・演出:遠藤治郎 + ZERO ACTION ARCHITECT、山中アツシ
Web Production:VISUAL AND ECHO JAPAN
開催日:2026年11月20日(金)〜22日(日)
会場:豊田大橋の下 千石公園内 特設会場(愛知県豊田市)
出演者:TURTLE ISLAND、OKI DUB AINU BAND、阿波踊り太閤連、折坂悠太ばんど、SAICOBAB、T字路s、ノリパン(韓国農楽)、鬼の右腕、ほか
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