酒場と音楽のバランス。【菜音 ZION(松本 健吾)】

料理に合った日本酒を提供する。いい音源を探し、そのときに最高にマッチする音を紡いでいくDJに似ているという。いかに本物に出会うか。ライフワークとしての酒場と音楽が絶妙なバランスで保たれている。18年目の2026年、2軒目となる菜音酒店が3月にオープン予定。

文・写真 = 菊地 崇 text・photo = Takashi Kikuchi


ー菜音をオープンさせて何年になります?

健吾 今年の12月で17年。気がついたら、のらりくらりとやっちゃってた感じですよ。


ー今では日本酒のセレクトが素晴らしいけれど、最初から日本酒にこだわっていたのですか。

健吾 そもそも日本酒が好き。けれど最初の頃は仕入れも下手くそなわけですよ。酒場の前はアパレルをやってた人間だから、結局はセンスで行くしかないじゃないですか。


ー実際に蔵元まで足を運んだりは?

健吾 もちろんしますよ。FREAKY MACHINEのツアーのついででも行ったりする。基本はひとりで行く。そして梯子はせずに、1日にひとつの蔵元だけ。そのひとつに徹底的に教えてもらうわけです。卸している一番いい酒屋さんも紹介してもらって、その酒屋さんも訪れる。蔵元が紹介してくれる酒屋さんって、すげえいい酒を揃えているんですよ。酒屋さんに行って、いろいろ話して、そこでは一番いい居酒屋を教えてもらう。そしてその居酒屋にも行く。いい居酒屋っていうのは、料理はもちろんだけど酒も美味しい。気がつくと、知らない町で「ここはどこ?」なんてことになっている(笑)。


ーそれを何度もやって、菜音の日本酒の幅を広げてきた?

健吾 日本酒は、知れば知るほど奥が深い。好きさ加減も、店をはじめたことでかなり増しているし。


ー菜音は、どういうメニュー構成なのですか。

健吾 今は松竹梅のコースしかないんですよ。アラカルトをなくして。コースのひとつひとつの料理に対して、この日本酒が合うって俺がマリアージュさせていく。日本酒は70本くらい常備しているけれど、日本酒のメニューは作ってないんです。時期や季節によって変わっていくから。


ー日本酒にも旬ってあるんですか。

健吾 あるある。米を作って、その米を使って酒を造る。かつての酒造りは、稲刈りが終わった秋にはじまって寒い時期に仕込んで3月に終わるっていうのが一般的だったんですね。けれど冷蔵庫とかエアコンとかの現代設備によって、四季醸造という4シーズン造っている蔵元もある。毎年、頂点が更新されていく感じ。日本酒のレベルって、毎年上がっているから。蔵元もいろいろあるし、蔵元の考え方もいろいろある。そこで生まれる日本酒の個性もそれぞれだから、その個性をお客さんに伝えるのが菜音での俺の仕事なんですよ。


ーひとつひとつの個性を理解して、どの料理に合うかを提案する?

健吾 日本食って、風味の文化なんですよ。いわゆる日本の高級食材と呼ばれるものには、あまり味がない。いかに味付けをしていくか。日本酒も風味を味わうための調味料のひとつでもあるんです。日本酒を料理をマッチングさせて、料理をより美味しく感じてもらう。そのペアリングを見るのが俺の役目だから。


ーそのためにいろんな日本酒をセレクトしているってことですよね。

健吾 俺の思う、甘いから辛いまで、今のベストワンをセレクトする。杜氏さんなどの酒造りの人ってアーティストなんですよ。ミュージシャンと一緒で自分の作品を生み出している。いっぽう俺のような酒場の仕事ってDJ。日本酒をセレクトしてお客さんに出すセレクター。

ー健吾さんはFREAKY MACHINEなどのミュージシャンとしての顔を持っている。酒場と音楽は、どうバランスを取っているのですか。

健吾 俺にとって、すげえバランスがいいんですよ。店が終わったら家に帰ってすぐに寝る。6時とか7時には起きて、店に来る夕方までは自分の好きなことに没頭する。バンドでは、曲を作ることが俺の役割になっているから、曲作りももちろんやるし。店では接客して、日本酒を出して、お客さんがワイワイ飲むのを楽しんで。そのルーティーンができあがっているんですね。


ーそのルーティーンって、菜音をはじめてすぐにつかめたのですか。

健吾 酒場を仕事とするのなら、最初から仕事と音楽しかしないっていうのはわかっているから。余計なことはほとんどしない。


ーそのスタンスは、菜音をはじめる前から変わっていない?

健吾 好きなことをやることは楽なことばかりじゃないっていう奴もいるけど、好きなことをやるっていうことはそれを目指していくっていうことだから。年齢を重ねてきて、すげえ楽になっているんですよ。酒場って、みんなで楽しさを分かち合えるところじゃないですか。


ーライブも楽しさを分かちあえる場所。

健吾 お客さんが喜んで帰ってくれりゃ、なんでもいいんですよ。そのために酒場であればセレクターとしていい酒を出すし、ライブだったらリハーサルして練習する。かつては自分たちの好きなことっていうのが主体だったけど、まあ今でもそうなんだけど、少しお客さんのことを考えるようになったかな。


ーより自分に対して正直に、シンプルに向き合っているのかもしれないですね。

健吾 自分の生活がルーティーン化されることで、両方に集中できる。年を取るって贅肉を削ぎ落としていく作業だと思うんですよね。


ー確かにやりたいことに集中していきたいと思うようになりますよね。

健吾 自分の信じた道をハードコアに進めるか。俺にとって今はそれがバンドと日本酒。その道を歩んでいくためには共感と自己満足のバランスをいかに自分でとっていくかなんだと思う。追及なき道に光はないわけだから。


ー菜音という名前に込めたものとは?

健吾 我々が目指すものはザイオン。ここに灯りがあるぞ、ここに来ればなんとかするぞ。藤沢という自分の町で、みんなの約束の場所になればと思ったんです。


菜音 ZION
2026年に結成35年を迎えるFREACY MACHINEのフロントマンが手がける日本酒と魚の居酒屋。藤沢で2008年にオープン。日本酒は常時70本をセレクトし、料理に合った日本酒を提案してくれる。料理はコースのみ。飲みだけを希望するならカウンターで。@zionfujisawa


【菜音18年目の挑戦】酒と人を繋ぐ新たな拠点を皆さまと創りたい!

日本酒を囲む時間を重ねてきた菜音。「酒と人がつながるジャンクションを創りたい」という思いから、2軒目となる菜音酒店を3月1日にオープン予定。現在、クラウドファンディングに挑戦中。

0コメント

  • 1000 / 1000