熊本地震で多くの方からもらった支援を、次は自分で返していく。そんな思いを持って続けていた復興支援のなかで生まれてきた災害廃材の再利用。ゴミとして焼いてしまうのではなく、それぞれの木材が暮らしのなかで培ってきた時間もバトンタッチしていく。
文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
写真 = 宇宙大使☆スター photo = Uchutaishi☆Star
ー 災害材などを再利用して生まれたMASH-ROOMの家具。そんな家具を生み出すことになったきっかけを教えてください。
野原 きっかけは、やっぱり熊本地震です。実家が産廃屋で、全壊・半壊の家の解体が熊本のいろんなところではじまって、廃材が集まってきたんですね。その廃材は火力発電所に持って行って処理されるというのが通常のルートなんだけど、廃材を使って家を建てればいいのにと思ったんです。特に古い家の木材はしっかりしているものが多いですから。
ー 廃材でも家を建てられるものなのですか。
野原 できないことはないですよ。使えるものを集めて家を建てれればいい。それでお国に対して打診したんです。「災害によって廃材と見られてしまった木材を、使えるものだけ抜いて仮設住宅に使ったり、再利用したらどうですか」って。県とか市とも話させてもらったんですけど、そのときはうまくいかずに。そして2020年の熊本豪雨で、被害が大きかった球磨川の人吉にボランティアに行ったんです。
ー 熊本豪雨はコロナ禍のときでしたよね。県外への移動も制限されていた。
野原 自分は熊本で暮らしているから、熊本県内の熊本豪雨の被災地に行ける。CANDLE JUNEくん、BRAHMANのTOSHI-LOWとかから連絡があって。自分たちは現地に行けないけれど幡ヶ谷再生大学(幡再)の九州メンバーでボランティアに行ける仲間がいるから指揮をとってくれないかと。それで有志が集まってきて。幡再のメンバーって、結局はTOSHI-LOWのファンじゃないですか。作業している最中に、ひとりが「野原さんですか」って話かけてきたんです。いろいろ話しているうちに「廃材を使って家を建てたいと思ったんだけど、ダメだったんだよね」みたいな話をして。そしたらそいつが「何だったら作れるんですか」って聞いてきたんです。「俺は木材の再利用について詳しくはないけれど、唯一言えるのは古民家で使われているような100年200年前の木材は炭化して硬くなっているから、家具を作ることは可能だと思う」っていう話をして。そいつがたまたま家具屋の社長だったんですよ。
ー それがMASH-ROOMの家具を製作する家具屋さん?
野原 そう。激甚災害になると、災害ゴミって国のものになるんですよね。環境省に行って、災害ゴミを災害材として捉え、こういうふうに自分たちは再利用していくということを説明して、やっと購入できることになって。結果、人吉市から70トンの災害材を買って。そいつとの出会いがあって動きはじめることができたんですね。
ー 材料がなければ製品は作れないわけですから。
野原 使えそうなもの、いいものだけを購入するってわけじゃないんですよね。熊本豪雨からそんなに時間を経ずに家具のプロジェクトがスタートできたんだけど、ちょうど同じ頃に、人吉でスケートパークを作りたいっていう話をMAN WITH A MISSIONのTOKYO TANAKAさんから持ちかけられたんです。それで購入した災害材で土台とツリーハウスを作ったりもしました。
ー 災害材を使った家具ということと、売り上げを次の復興支援のためにプールしていくということも、MASH-ROOMの大きなポイントだと思います。
野原 支援っていろんな形があるじゃないですか。デザイナーがデザインという形で支援してくれる。デザインしてもらった製品が売れて、その売り上げをプールしていく。災害が起きたときに、そのお金を支援のために使う。見える支援の形っていうものを続けていこうと思っています。
ー 椅子やテーブルなどの家具は日常の暮らしに当たり前にあるものだから、それを再利用された素材を使ってっていうのは非常にいいなって思います。
野原 災害がなんで起きているか。大きな災害になっているのか。要因として人災もあると思うんですね。人間が便利な生活をして、自然を壊して海も汚した。極地の氷が溶けて海水温も上がって、大量の水蒸気となって、どこかに大雨を降らして土砂災害を起こす。大雨は表面水として流れてしまうから、海にドカッと流れ込んでしまう。そして水蒸気となってまた大雨となる。アホな循環がはじまってしまっているわけじゃないですか。この狂ってしまった世界や自然に対して、「なんでこんなことが起こってしまったんだろう」って、生活のなかに災害材を使った家具がひとつあるだけで気づいてもらえるかなと思って。気づきがちょっとでもあれば、お父さんお母さんから子どもにも伝わっていくかなって。俺らはこの家具を100年200年リペアしていくとうたっています。親から子どもへ、そして孫へ。ずっと伝わっていくメッセージになればなって。
ー ひとつの製品に確かな物語とメッセージがあるんですね。
野原 これからは、何をするにせよ物語とメッセージが必要だと思います。ものを作って売るということに対しても。俺、結局はパンクスなんですよね。TOSHI-LOWたちと一緒。未来のために今の時代に中指を立てたいんですよ。
ー 循環する支援の形が、MASH-ROOMにはあると思います。
野原 俺は熊本地震のときに、 CANDLE JUNEくんをはじめ、いろんな人に助けてもらいました。それを返しているだけなんで。復興支援に行くのも、こうして家具として循環させるのも。
野原 健史(MASH-ROOM)
災害廃材を使った世界にひとつしかない家具を作るブランド。被災地で崩れ落ちてしまった家屋。その家屋で使われていた梁や柱などを、ゴミとして捨てるのではなく家具として再利用する。しかもその家具の売上の一部をプールして、被災した地域での自分たちの支援活動に使われる。クリエイターがデザインし、受注生産が基本。https://mash-room.com/
MASH-ROOM x Ed TSUWAKI FURNITURE 『Art in Function』
熊本県人吉市の豪雨災害で倒壊した家屋から救出された梁や柱。役目を終えたこれらの古材を資源として、Ed TSUWAKI氏のデザイン、そして福岡県大川市の職人たちの伝統技術によって、新たな命を吹き込魔れて誕生したのが「ET Stool」と「ET Chair」。その新作ファニチャーの展示会が開催される。
「機能を持つアート」をテーマに、実用的な椅子でありながら、彫刻作品のような存在感を放つ。そんな想いを形にしたプロダクトたち。会期中は、デザイナーのEd TSUWAKI氏と共に、MASH-ROOMチームも在廊するという。会場では先行受注も受け付けている。
「実際に作品に触れ、お座りいただける貴重な機会となりますので、ぜひ足をお運びください」とメッセージ。
会期: 2025年9月25日(木)・26日(金)
時間: 10:00 - 20:00
会場:WEED HEIGHTS(東京都渋谷区上原1-7-20 1F)
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